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廃神様と女神様Lv1  作者: 井口亮
第一部『導入編』
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チュートリアはドリルを装備した――

 夕方になるころには格闘スキルがいい具合に伸びていた。

 霊環スキルも伸びたし、必要最低限の闇魔法スキルも伸びた。

 上位スキルの『インビジブル』には隠密のスキルと軽業のスキル、加えて『闇魔法』スキルが必須なので鍛えられるうちに鍛えておきたかったというのがある。


 「結局ロクロータさんと狩りかよー」

 「雑魚乱獲ばっかりしてても美味しくねえだろ?ドロップ的に」


 ――赤い竜は両手剣スキルから両手槍スキルにスイッチしての乱獲によるスキル上げを中心にした狩りを行っていた。


 竜槍ガングラスタを手に入れたいとか近々のたまうのが手に取るように理解できる。


 「両手剣しかメインで使わないくせに両手槍スキルか。竜槍ガングラスタも手に入れるツモリだろ?あれ、『分解』したら竜玉確定だっけか?」

 「竜の付くものはコンプしたいやん?」

 「はい、ニヤニヤしないー。そう答えるのわかってましたー」


 赤い竜はプロフテリアに付くや鎧の上から竜の模様のあしらわれた赤い外套を羽織り自慢げにみせつけてくる。


 「なかなか珍しい。ドラグロードコートじゃないか」


 それは流石に俺も驚いた。


 ――直接的な装備品と違う、アバター装備だ。


 アバターとは能力値のあがる鎧やローブの上からデザインを隠すファッションのための装備である。

 特殊効果や能力の上昇は無いかわりに、見栄えがよくなる。


 「へっへー、ワイバーンのレア。苦労したよー」

 「倒したん?」

 「買った」


 何が何でも欲しい物を手に入れる姿勢は『廃人』の基本である。

 基本に忠実だからこそ、赤い竜は強い。


 「そろそろエルド装備から卒業しないの?あれ、確かに50までは育成できるけど、それ以降はレア装備に負けるでしょ?」

 「確かにぬ。同レベル帯の☆6以上の青レア、オレンジレアから比べると見劣りするからなあ。まぁ、まだ、必要ないっちゃ必要ないんだがキャップ解放後のスタートダッシュや限界クエ考えると上位レアがそろそろ欲しい頃合いなんだよな」

 「いいものあるけど、買う?」


 ――討伐をメインにこなしていた赤い竜は自分で使わないレアもいくつか持っている。


 だが、こいつは自分の物欲のために決して人に安く売ろうなんて考えはしない。

 キクのように損して元を取るなんてことなんざこれっぽっちも考えないから、あんまり赤い竜からは買い物をしようとは思わない。


 「いらんわ。それよっかギルド作るなら街の建造素材用にいくらか溜めとかな。作れるだけの金余裕あんの?」

 「コレ買って今ちょっと金欠気味」

 「後先考えろよ。まったくもー」


 こいつが居ると本当に俺が世話焼きに見える不思議。


 「街を作るにしたって木材をえっちらおっちら伐採するか?それならそれで斧スキルもあがるからいいんだが、竜さんぶっちゃけそういうのやらないだろ?」

 「わかるー?」

 「わからいでか、俺かて面倒だわそんなん。それなら自分のしたいことして金稼いで、その金で買った方が早いし精神衛生上いいからな」

 「うん。でもちょっと、今回ばかりは生産触っておこおうかなーと思って」


 赤い竜が珍しく、そう、珍しくそんなことを言うモンだから俺は耳を疑う。


 「珍しいな、なんかやりたいことでもあんの?」

 「作りたいものがあるんだよー。ペットドラゴン用の拡張装備もそうなんだけど、これってアーキエイジみたく生産系も物凄く充実してるでしょ?プレイヤーが家だとか城だとか空き地に立てたりできるし」

 「ファミルラもそうだったけど、よくぶっ壊されたりして凹んだよな。まあ、結局、強くなって山賊プレイが最高だということに気がついた訳だが」

 「ちょっとオモシロイ船を造ってみたいなーと思ってね」


 赤い竜がどこかいたずらめいた笑みを浮かべる。

 俺達はキクの店への道すがら、ギルドを作った上でのことを色々と話し合う。

 こいつの考えることはどこか突拍子も無いが、その発想は大好きだ。

 やりたいことがだいぶ纏まってきた頃に、俺達はようやくキクの店にたどりついた。


 「わー、ろーたー、あかー、おかーりですよ」


 店を閉める作業をしているテンガがにんまりと出迎えてくれる。


 「ようテンガ、お兄ちゃんと合体しようぜ?」

 「うん、するー」


 朗らかに幼女に卑猥なことをしようとする俺を後頭部から殴りつける奴が居た。

 キクだ。


 「あんた何うちのイリアに卑猥なことしようとしてんのよ」

 「いや、イエスロリコンノータッチとか嘘だから。目で愛でるとか嘘だから。男はいつでも合体厨だから」

 「小汚い妄言ばっか吐いてんじゃないわよ耳が腐る。それよっか、あんた達一体何してたの?赤いのはともかく、あんた今日は街ぶらつくっていってたじゃん」

 「いやぁ、途中で一狩りいこうと思って竜さんところにほいほいっと……」

 「ほいほいっと……じゃないわよ!赤いのがシルフィリス放って出掛けるのは百歩譲って理解できるけど、あんたまでチューちゃんほったらかしにして!私も一瞬、どうしたものかと気が遠くなりかけたわよ!私はイリアの世話係じゃないんだからね!」

 「あら、キクさんご立腹。うちの子が何かしましたでせうか?」


 俺はどこか小馬鹿にしたようにキクをからかうが、キクは自分の背後を示し顎でしゃくった。

 そこには、チュートリアが居た。


 「――へ?」


 いや、確かにチュートリアっちゃチュートリアなんだ。

 どこかもじもじした素振りとか、顔の形だとかそんなのは間違いなくチュートリアなんだが、そのなんておっしゃればよいのやら。

 まずは、髪型。

 縦ロール?縦ロールっていうのアレ。

 チュートリアの長い後ろ髪が沢山の縦ロールになっていた。


 「ナニアレー、髪の毛がドリルになってるんですけど?」

 「とりあえず、ヘアースタイルをいじってみたみたいよ?なんか、都会に出てきたから都会らしい髪型にしてみたいってことで美容室行ってきたみたい」


 そういった店があることにはある。

 キャラクターの容姿が気に入らない、というよりぶっちゃけ飽きた時にイメチェンするのに行ったりする場所だ。

 課金ヘアスタイルとかが色々追加させられて女性キャラクターを使うプレイヤーが畜生とかいいながら財布の紐を開く奴。


 「チューちゃんがドリって帰ってきて、『お洋服ってどんなのを着ればいいんでしょうか?』って言われた時には流石にちょっと驚いたわ。とりあえず洋服屋を適当に教えておいたんだけど……」


 一生懸命悩んだのだろうか。


 「何を言ったらああなるんロクロータ?」

 「いや、5m渡して好きに使えとしか」


 服飾については問題が無い。


 ――オレンジ色のゆったりとしたドレスに胸元から白いブラウスが覗くのは暖色系で暖かみを出し、胸元のブラウスが清純さを出している。


 加えて、割と広がったラインのふわりとしたスカートが膝丈で揃えられている。

 惜しむらくはブーツか。

 頭のドリルが重いデザインで、割とボディのラインを軽くし、腰部分でバランスを取っているのにかかわらず、ブーツでさらに足下のデザインを重くしてしまっている。

 地味目、といってしまえば地味目なのだが逆に頭がドリルだから逆にそちらの方が派手に見えるしインパクトが強いから視線が誘導される。

 可愛らしくあしらわれたリボンがまた、視線をそっちに持って行くからコーディネイトの妙としては及第点だ。


 「ど、どうでしょうか?」

 「コーディネイトは及第点。惜しむらくは配色とブーツだな。オレンジ色がちょっと重い。もうちょっと軽めの色を選ばないとお前の髪の色より強いから、髪を見せる場合強い。あと、ブーツもデザインとして重め。そこはスカートのラインを活かして短靴で軽くしてやると視点がブレない……竜さんどう思う?」

 「んー、そだねー。俺は赤ければいいと思うよ」


 こいつに聞いたのがバカでした。

 チュートリアがどこか落胆したような表情をするが横でキクが満足げに笑う。


 「やったねチューちゃん、ロクロータから及第点が出た!」

 「でも、なんだか、お気に召さないようです……」

 「こいつは何着てもいちゃもんつけてくるから気にしたらだーめ。でも、及第点って言ってたでしょ?こいつから及第点取るのだってかなり難しいんだから」

 「そうだな。弄るところといえば、靴部分とドレスの配色だけだからな。俺だったら頭に『崩し』を乗っけるけど、そこまでは流石に要求したらレベルが高すぎる。だが、オサレ初心者にしてはグッドだと褒めてやろう」


 俺がかなり上から目線でそう言ってやるとチュートリアはどこかぽかんとしたような表情を浮かべていた。

 こいつら本当に女なのかと疑いたくなる。

 何故、どうすれば可愛く見えるのかを追求しないんだろう。


 「よかったね、チューちゃん。とりあえず、ボサっとしてないで中入ろうか?」


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