DQ3で仲間から装備はぎ取って売って除名とか、そんな感じ。
最初の街で首都『プロフテリア』。
おそらく、このゲームでの拠点マップになるだろう街だ。
中心に巨大な城を置き、周囲に街を広げ、大きなストリートを中心に左右に広がった石材を中心に作られた荘厳な街は最早、芸術と言っていい。
多くの人が行き交うこの街で、俺がまず一番最初にやったことは手に入れた防具を全部道具屋に売ることだった。
「何で全裸に戻るんですかっ!」
全裸で街を歩く俺に、チュートリアが怒鳴りつけるが俺は清々しく答えてやる。
「何でって、要らないからさっ!」
「このド変態っ!」
罵倒されるが、俺のタフな精神は傷つかない。
「リアルじゃないから、恥ずかしくないもん!」
「一緒に居る私が恥ずかしいんですっ!」
「ンなこと言ったってなぁ」
周囲のNPCの好奇な瞳を受け流し、俺は全裸で街を歩く。
「ドロップ品の装備っつったって性能たかが知れてんだろ?ガニパリヘルで大きくレベル上がったから装備もそれに併せなきゃならんだろう?つか、今、俺何レベルなんだ?」
「21レベルです……」
ベースレベルが初期街つくまでに21ってのも凄いな。
ザマミロ運営。
「次の場所に行くにも装備を調えなきゃいけないし、一旦金になるものは金にしてしまう。初期エリア装備なんてPC売りしても買ってくれないし、さっさとNPC売りして資金の足しにした方がいいに決まってる」
俺はそう言うと、手にした石版を弄ぶ。
「問題はこれが、どのっくらいの価値になるかだよな」
「そのタブレットですか?」
「ガニパリヘルからいくつかのドロップがあったけど、これだけ輝きが違ったんだ。おそらく確定ユニークだと思う」
「確定ユニーク?」
「ガニパリヘルはユニークボスだ。ユニークボスってのは出現率が低くて、ああしたイベントで使われたりするんだけど、エンカウント率が低いから必ずそのボス固有のユニークアイテムをドロップするんだ」
「そう、なんですか?」
「ああ。だって、一生懸命探しました。出会えました。倒しましたが何も得られませんでしたって結構悲しいだろ、だから、ユニークボスってのは必ずドロップするユニークアイテムを持ってたりするんだ。効果についてはギャグみたいなものもあれば、必須みたいな物もあるから値段はマチマチなんだが、ブッ壊れは無いからなぁ」
俺はどこか溜息をつきながら、手の中の石版を弄ぶ。
「ぶっ壊れ?壊れてるものもあったりするんですか?それもがっかりな気がしますね。でも、それが無いってことはいいことじゃないですか」
「ぶっ壊れってのはそういう意味じゃないんだ。逆に性能が良すぎてゲームバランス……世界の均衡をもぶっ壊すくらい強力な物をさして言うんだ。『ぶっ壊れ職』とか『壊れスキル』とか、『ぶっ壊れ兵器』とかな?」
「言語に軽いカルチャーショックを感じますね」
どこかおずおずと答えるチュートリアに俺は手の中の石版を放ると、どうしたものか考える。
「効果を知るにゃ鑑定料払わなきゃならないんだろうけど、50代ユニークを鑑定するにゃ金が要るわな。それに、鑑定したからって今元が取れるかどうか、わかんねえし、50台ユニークじゃ、長くお世話にならんからなぁ。まあ、現状装備を調えるくらいの金になりゃいいんだけど」
俺は他にも拾った物をチュートリアに出させ、手にしてみる。
「両手槌に、帽子、首飾りに指輪……首飾りと宝玉か。この宝玉だけがちょっとだけレア臭がするなぁ」
「宝玉が、ですか?」
「生産品を作るのに、使いそうだからな。場合によっちゃそこそこの値段がつくかもしれない。けど、今、手放すにゃ時期的に早すぎる。もそっとみんなのレベルが上がって需要が出る頃か。両手槌は完全にテンプルやバーバリアン用だし、帽子は魔術職、首飾りと指輪は効果次第だけど、装備条件があると辛いからなぁ」
「装備条件?」
「レベルが一定以上じゃなきゃ装備できないとか、スキルが一定以上じゃないと装備できないとかだな。強力なアイテムはそうやって制限をかけてバランス調整してるんだ。レベルが低いぽっと出の人がいきなり強力アイテム振り回しても面白くないだろう?」
「そ、そんなものなんですか?モンスターと戦うのに面白いとか……」
「まあ、世界の均衡だな。バランスというのがあって成り立ってたりする。だから、まあ、そういった制限があって今装備できないし、将来も装備しない物だったりする。換金だな、換金」
俺は全裸でふらふらと街を歩きながら、どうしたものか考える。
「さて、金を手に入れたいが取引掲示板が見あたらない。たいがいこういう人が集まる広場にあったりするんだが、どうにも違うみたいだな。ウィキでさらったツモリだったが配置も結構違うし、ベータと本サービスで配置変えたかなぁ」
俺はラビラッツの肉や皮を売って得た金でリュックを買うと、それを背負いチュートリアが持っているガニパリヘルドロップを受け取ると詰め込む。
「これで、お金はほぼスカンピンだな。リュック高ぇよ」
「全裸にリュックって変態度高くないですか?」
インベントリが開けないのはまさかこういう仕様かと疑うが、開き方は一向にわからないから仕方が無い。
「そういえば、お前、どこにアイテムしまってるんだ?」
「え?あー、えと、この辺りに空間を開いて……こう……?」
「感覚的すぎてわからんわ」
俺はまあ、おいおい開けるようになるのかと思いつつ、本当にどうしようか悩む。
だが、ここで街の仕様を覚えないことにはこの先も面倒極まりない。
あんまし役に立たなかったがこのあたりでチュートリアと別れることにした。
「まあ、いいや。もうどこにでも行っていいぞ?」
「え?」
チュートリアが驚いた顔をする。
「いや、だって、街までっていったじゃないかプロフテリアまで来ればもう、大体操作とかわかったから、居なくなっていいよって意味だよ」
「あの!その、これからどうされるんですかっ?」
「とりあえず、金策して適当に。さっさと次のエリア行きたいし」
俺はぐるぐると街を見渡し、冒険者ギルドを見つける。
そこに吸い込まれるように入っていく俺についてくるチュートリアに少しうんざりする。
「いなくなんねえのか?これ」
「いや、あの、最初に言いましたよね?パートナーだって」
「街までな」
「えと、あの。異世界から来たって自覚、あります?」
「楽しんでるよ。適当に」
「私にはあなたを導く使命があって、この世界であなたを……」
「俺、お前に教わったこと何一つねえぞ?」
言葉に詰まるチュートリア。
俺は冒険者ギルドまで来て、周囲の注目を集めるが関係なくカウンターに向かう。
全裸の男が来てカウンターに居た女性係員が驚くが、俺は冒険者登録をしようとしてふと困る。
名前、決めてねえや。
「でも、それはあなたが先に何でも知っているだけで、本当は私が教えなくちゃいけなかったことなんです!」
「うるっせえな。名前考えてるんだから、静かにしろよ」
この世界での名前はこれからずっとつきあわなきゃいけないから重要だ。
「私は確信しました!ガニパリヘルを打ち倒したあなたは本当に戦女神コーデリアを導いたレジアンですっ!私はイリアとしてあなたに付き従わねばなりません」
「ナニコレー、チュートリアルNPCじゃねえのぉ?やっぱり、死亡イベント回避しちゃったからかなぁ……なんつーかお前、あれだ。普段はどっか目に見えないところに居て、時折アドバイスしますねーとか言ってどっか行くんじゃないの?俺、ずっとそう思ってたよ?」
「そんな簡単なものじゃないんですよっ!イリアはいってしまえば、神の召還した異界人の守護者でもあって、魔王のイリアと戦わなければならないんです」
「そういう設定な。俺は自活楽しむから。全裸ライフなう」
「聞いて下さいよぉぉ!」
俺はぼりぼりと書類を前に名前を考える。
「……繁殖戦士スペルマン、変態紳士シリアナスキー、オマーン国際空港、養殖バ㌍タ、うーん、迷う。どれがいいと思う?」
「ナニを悩んでるかわかりませんが、ろくでもないことだけはわかりました」
変なところだけ成長しやがるなこのIRIA。
しかし、これ、ずっとついてくるなら、どうすりゃいいんだ?
変に戦われても困るし、IRIA育成って面倒臭いんだよなぁと考えている時だ。
「――見ぃぃつけたぁぁぁぁぁあああっ!」
甲高い声に俺は耳が痛くなり、そして、嫌な悪寒がした。
振り向く前に、俺は拉致られて、冒険者ギルドを引っ張りだされた。
「誰だぁっ!?」
俺は首を抱えられ、通りを走られ拉致られてる。
このスキル幼女拉致るときに使えるんじゃね?とか思いつつ、とりあえず自分の身に迫る危険に対応する。
「見つけたっ!見つけたぁぁ!居たぁぁあああっ!ロクロータぁぁぁっ!」
「なん?なんなんっ?フーアー誰?ほわい俺!」
「ねんがんのぉぉぉ、ロクロータを、見つけたぞぉぉ!」
「ころしてでもうばいとるぅぅぅぅ!とられてるぅぅぅ!」
跳び上がる拉致者のきんきら声を耳に響かせ、俺は自分の本名を聞いた。
――長らくお伝えする機会はありませんでしたが、本名は『一志禄郎太』と申します。




