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ディオールジュの聖女



「収入ができれば、自分で衣食住も何とかできるようになりますし、カーライルさんが散財しなくて済みます。あ、望み、もう一個ありました。カーライルさんにあまり散財しないように言ってください。必要以上のものはいらないです。」


 しゃべりながら整理されていく思考の中、『欲しい物』が気付くとずいぶんと増えてきている。


「本当に、全くわからないな。君の思考は。」

「おかしい希望は述べてなかったと思うのですが。」

「もう少し系統立てて話しをしてからそういうことは口にしてもらいたいものだ。」


 また、溜息をつかれた。


「事前にかなりの人員を割いて人となりについて調べたものの、全くつかめずまるで風の様にすり抜ける。直接会った本人の言葉は、予想や普通の規格からあまりにも外れた場所に着地する。この状況で、何もおかしくないと言い張られると腹が立つことこの上ない。」


 そんな風に見えているのか。っていうか、私の人となりとか、調べても特に私変じゃなかったはずだよね。風の様にすり抜けるって詩人だな。

 ただの引きこもりなだけなのに、私からしても何もかもが予想外な評価ばかりが降ってくる始末だ。


「解せぬ…」

「こちらのセリフだ。だが、仕事がしたいなら丁度いい。君にならできるだろう。」

「えっ」

「報告の中に新しい事業を起こそうとしている事も入ってきている。何かの冗談かとも思ったが、貴女ならあり得そうだ。カーライルやあの方のテコ入れもあっただろうしな。」

「事業という程たいそうなものじゃないですよ。土地の特産物で新しいお菓子を作ってみようって料理人さんたちと盛り上がって企画書を作成したくらいで…」


 私はたじたじになりつつも、現状を報告する。何となくとても逃げたい気分だ。


「企画書?」

「今、アレクシスさんが持っているんですが。」


 ピクリとレガートの肩が跳ねた気がしたけど気のせいかもしれない。ただ、目の前の眉間にできた深い谷は見間違いようもなく、私はなぜ?と心に浮かべる。


「ヴィル」

「はい。ここに。」


 レガートが衝立の向こうへ少し大きめの声をかけると、即座に、けれど落ち着いた様子で、一人の男性がすっと現れた。

 髪色の構成はレガートによく似ていたけれど、髪質や色の配置が全然違う方で、黒の配分が多く、灰色の個所はちょっとまだらだ。けれど、精悍な顔にはよく似合う男らしさを強くする印象だった。髪の長さはレガートと一緒で、目の色は全然違った。暗い、くすみのある黄色系の色。琥珀色というにはトーンが低いが、金属や鉱石を思わせる色はとても好感が持てるものだった。

 何より、色合いが強くない分、その目を見るのに躊躇しなくて済む。

 アイスブルーも、紅玉も、良く輝く瞳をしているものだから…。

 鉱石のような瞳のその人は、レガートに用事を言いつけられるとやはりちょっとピクリと肩を揺らした気がした。けれど、静かに「かしこまりました。」とだけ言って私達のいる空間を通り過ぎ、天幕から出ていった。


「まずはその企画書を確認するとしよう。」

「え…」


 嘘でしょ。と、言いそうになるも、その言葉ものどに詰まった。

 アレクシスさんに出された課題。絶対その話になるわけないと思っていたのに、どういう事なんだろう。

 アレクシスさんは、未来でも見えているんだろうか。

 どうしてそっちに話が傾いたのか、会話をしていたのは私だけれど、まったくもってわからない。


 程なくして、天幕の向こうからレガートの従者の方が帰ってきた。


 目が合うと一瞬引け腰になられた気がした。え、怖くないよ。私、怖くないよね?

 驚きすぎて私も反応できずにいると、その方はゆっくりと目礼をしてまたレガートの隣へと戻った。

 レガートに並ぶと、確かに私の書いた企画書を渡し、また衝立の向こうへと消えていった。

 もしかしなくても、あのてんぱった会話を聞かれていたのですよね?頭を掻きむしりたくなる。なんという恥だろうか。


「ふむ…」


 と、レガートは企画書を私の目の前で読み出すので、それもまた私の気持ちをざわつかせる。

 見えない所で読んで欲しいよ。


 読み終わるのをじっと待つ私は、大学の先生に卒論チェックしてもらってる気分である。


「なるほど。案としてとてもいいな。できればカーライルの屋敷からもう少し広い範囲で手広くやっていきたいところだ。」

「!」


 私はパッと顔を上げ、両手を組んだ。

 チェックしてもらって何度も直したその労力の甲斐があったというものだ。


「まずは試験的に今できているものと作物で進めて構わないが、試作品を作るにはもっと色々なものが必要だろう。カーライルの屋敷には領地で作っている物を送る事とする。今回の要となる作物を後で纏めて本家へと送りなさい。特に酒類は外に出回らない土地でしか消費されないものなどもあるからな。」

「え、えっと、材料等については私より料理長に言った方が詳しく出してもらえると思うので、そちらから提出してもいいでしょうか。」

「あぁ、その方が正確だというならそれで良かろう。」

「では、材料と作り方。それから、どこが今までと違う作りなのかと、どこの材料を他のどんな物と差し替えたいか…を出させれば足りますかね。」

「十分だ。いや、作り方については漏洩しても困るので現段階ではいらない。」

「わかりました。では、材料と、差し替えたい箇所とその代替えの方向性という事で。」


 ポンポンとやり取りが進むが、これは、やばいかもしれない。

 私は自分のキャパをよく知っているのでざわざわとし始める。

 紙とペンが欲しい。

 記憶力には自信がない。


「あの、今のをメモしておきたいのですが。」

「そうだな。…ヴィル」


 また、向こう側から男性が現れる。すっと現れるからちょっとビビる。


「こちらを。」

「うむ。」


 呼ばれた男性が紙を一枚差し出してきた。

 そこには先ほど言った確認事項が書かれている。


「話がまとまったらこちらを渡すのでいいか?」

「…あ、ありがとうございます。」


 貴族、怖い。

 どうやら衝立の向こうではしっかりこちらの様子を把握して、色々な事を完了しているらしい。もし、ここまでの会話も控えられてたらどうしようと一瞬頭をよぎったが、必死にその考えを押し込めた。そんなまさかあるわけないよねと。


「では、話を続ける。ヴィルはまた下がっていなさい。」

「はい。」


 すっとまた視界から消えるが、この天幕の中、三人目の同席者がいると私の中にははっきりと刷り込まれてしまった。つらい。


「作ったものの評価を屋敷内の全員にさせた事も聞いている。3品作ってどれも評価は良かった。全て、生産ラインに乗せるよう通達をしておくのでアオは流通の準備をしなさい。」

「りゅ、流通の準備?」

「あぁ、君だけができる仕事だ。」


 どうやって?と目を白黒させていると、そう難しいことは言わないと言い加えられるが、すでに難しいことを言われてるとしか思えない。


「王都にいる間に大きな商家に渡りをつけてきなさい。聖女の肩書があれば面会は容易だからな。」

「商家…因みにどこがいいとかはありますか?」


 先に必要な情報を引き出さねば。と、とっさに私は確認をする。じゃないと後から手紙でやり取りになっても困る。

 ほうれんそう大事。


「候補の商家はこちらからリストにしてまた送る。そのうちの一つとは必ず話をつけて帰るように。あぁ、商家へ持って行ける様に試作品を屋敷から送らせなさい。」

「あ、えっと、一応試作品は運んできて…ます。」


 戸惑いながらも、またしても社畜時代の反射で必要情報を口にする。

 そんな私を見ながらレガートはふっと笑った。

 ずいぶんと上機嫌…のように見える。


「屋敷の者に評価させたやり方はなかなか良いやり方だったな。他でも同じことができないか検討したいところだ。その時の一連の報告もこちらへ送りなさい。」

「お菓子関係ない事も増えた…」

「丁度本家に渉外のできる女性がいなかったからな、存分に仕事をするといい。やれることはまだ山とある。」




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― 新着の感想 ―
[一言] 聖女と認めたら聖女に対する姿勢に。 その後、相手が聖女扱いは求めてないとわかるとソレにあった対応に。 さらに仕事が欲しいと言われたら取引先の対応に。 ついでに本家の利益になるように動かす。 …
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