銀灰の独り言(他視点)
地面の凹凸とともに踊っていた車輪が止まり、青と灰色の制服の人々が一番立派な馬車の前に礼を取って並ぶ。
「総領様、到着いたしました。」
太くはっきりとした低音が、馬車の中へと声を届ける。
その声が途切れるのを見計らって、馬車の扉を別の者が恭しく己が役目を務める。
「ご苦労。各自予定通り準備を。天幕には昼食より先に茶の用意を。」
「かしこまりました。」
馬車から降りてきたのは長身で背筋がピンとのびた…いや、ぴしりと張ったとでも言った方がぴったりな空気の男性だった。
短めの髪は灰色。光の加減なのか、髪の毛の質なのか、根本は黒く毛先は薄灰色のように見える。右側のもみあげ付近の髪だけが長く、いくつかの飾りが通されキラリと光をはじいている。
瞳は青。藍が混じった濃い色をしているが、光が差すと透明度を増して輝く。切れ長で涼しげな瞳ににじむのは厳しさだ。
かっちりとした服は、周囲の者たちと同様に青と灰色で構成されているが、一人だけ仕立てが全く違っていた。
裾は長めで動きとともに翻る。表には布と同色の糸で刺繍がふんだんに刺され、光の当たり方が変わると精緻な模様が浮かぶ。
ひらひらと見える内側にも見事な刺繍が刺されており、彩を添えていた。
金具は精緻な作りな上、要所要所にはめ込まれた宝石がきらめいては存在を主張する。
威厳と風格を持つその人の歩みに迷いはなく、作業を進める人々の間をまっすぐ進む。簡易的に設置されたテーブルと椅子には、部下たちがいくつかの書類を置いていく。
それらを順に手に取り、男性は周囲へと指示を出す。
「天幕が張り終わる頃にカーライルも着くはずだ。予定通り、天幕の中の席は聖女の分のみ用意しておくように。」
「かしこまりました。」
確認を終えた書類のいくつかを部下に渡しながら細かい確認を少しばかり行うと、男は周囲の者を散らすように手を振った。
「あれが合流するまでここは良い。」
言葉少なな指示ではあるが、周囲は全員その指示を心得ているようで、ささっと目の前を辞し、それぞれの役目へとついていく。
テーブルの周囲に残ったのは、お茶の準備をし始めた一人のみ。
「教会に関わるとろくなことにはならないな。」
「…」
「せっかく磨き上げた玉も、あっという間に腐り落ちる。」
やれやれと首を振りながらテーブルの上に数枚の書類を並べ、ゆっくりと椅子に腰を落ち着ける。
一人残った従者が芳醇な香りのお茶をさっと男へ供し、その傍らに佇む。
「カーライル様が何のお考えもなく動かれるとは考えにくいことではございますが。」
「考えがあるにしてもこの数字はあまりにも愚かしい。ただの被後見人に対し使う額ではあるまい。」
「確かに…一族直系の姫に与える程の金額が動いているとは存じます。」
従者もちらりとテーブルの上にある書類を見やり、少しばかり目を眇める。
「例の聖女候補が『中央の聖女』の様な者であれば、とっとと中央に押し込めて、あれには早々に領地へ戻らせる。後見など、名だけで良かろう。」
男の言葉に、従者は重々しく頷き、ささっとテーブルの上の書類を集めた。
それらを手の中でまとめ、どこかへと持っていく。
一人残った男は、ゆっくりとカップへ口を付けた。




