ふたつ目の町 これぞ虎の威を借る狐
本日はティーポットが私の相棒。頑張っていこう。おー!
手早くまとめた作戦会議の後、もちろん動いてくれたのはいつものごとくカーライルさんとアレクシスさんで。
荷物から必要なものを侍従の皆様が出してくださり、ティーポットとカップとソーサー一式に、見覚えのあるお茶の缶、そして、厳重に包まれたお菓子が来ました。
お菓子類の持ち運びは、中の状態が変わらないようにと魔法が施されているものが一緒に入っているんだけど、魔法の込められた文字を何度眺めても、やっぱり何もわからないのが悔しい。
でも、クッキーもケーキもちゃんと味が変質することなく運べているので、魔法素晴らしい!って感動したのだった。味というか、物質の変質を抑えているという感じなのだろうか?もとの世界でいう所の酸化を抑える的な?
この技術で流通も発達しているのだと思うと感慨深い。ある意味、物を安全に運べる世界だから、馬車移動から急激には技術向上していないのかも。
と、文明の進捗状況を考えてしまうのも癖なので仕方がない。
けど、こんな考察もぶちまけられる場所もなければ、見たり聞いたりしてくれる人もいないし、そもそも同じように考察してくれる人がいないからすごく悲しい。
どうせ私はヲタクだよ!
考察大好きだし、考察してるものを読むのも好きだよ。
…と、いかんいかん。寂しさが募って取り乱してしまった。
あぁ…話し相手になってくれていた神様のありがたみが身に沁みますね。
さてさて、そしてですよ。
お菓子が無事に運べてる事以上に驚いたのは、まさかポットやカップも持ってきているとは思わなかったという所ですよ。
柄を何気なく見たら、このカップ、前、神様にお茶を淹れてあげた時に好みを無理くり聞き出して、菫色というから使ったやつではありませんか…。菫の柄のやわらかくも可愛いカップと、その一式。
え、まってごめん。
カーライルさん、どこでそれ、把握してたの?
そして、この一式は、わかってて持ってきてるってこと…ですよね?
何それ怖い…。
久しぶりに、カーライルさんの目の光らせている範囲の広さを思い知る。
仕事ができる人って本当に怖い。
真顔で思考の隅にそれらを追いやり、思考をそっと封印した。気にしたら負けだと思う事にする。
さあさあ、この世界で二度目の聖女アオの開くお茶会の始まりですよ。
主催の私ですが、お茶を零してシミを作るのが怖いのでシンプルなワンピースドレスに着替えるだけで勘弁いただいて、身支度はごく簡素に、髪はゆるく右肩の辺りで一つに結うだけ。髪飾りとして特別な菫の花をさして完了と言い張る。
視線が痛いと言ってるのに、着飾ってもまた消耗するだけだから。せめて、ごくシンプルにいこうと決めたのだ。
鏡の中に映る私の髪を飾る菫の花を見て、ドレスの下にあるペンダントに触れ、微笑む。
神様、頑張ってきますね。
お屋敷のサロンをお借りして、お茶の用意を始める私。
すぐ隣に護衛と称してエレイフが陣取りつつ、なにくれと手伝いをしてくれる。
お茶を淹れる前にポットをあっため、カップをあっためておく作業。持ってきた菓子類をお借りしたお皿へ並べる作業。
それらが終わり、ちょっとした頃にコンコンとノックの音がして、そろりと、小さな男の子が顔をのぞかせた。
大人がやってきたと勘違いしていた私は、視線の先に人の姿が見つからず一瞬不思議に思ったのだけど、視線を下げれば何のことはない、栗色の髪の男の子がいたのだった。
「ご領主の3番目のご子息です。」
背後からこっそり聞こえる声に、なるほどと納得する。
「こんにちは。」
「こ、こんにちは!」
「一番に来てくださってありがとう。さぁ、中へどうぞ。」
とにかく全力で柔らかい笑みになるように努力し、少年を招き入れる。
恐る恐る入ってきた少年。
もしかしたら、本当はみんな揃ってくる予定だったのではないかな?と、エレイフを見ると苦笑と共に肩をすくめた。
「君はご領主様のご子息かしら?」
「は、はい。ユージンと申します。」
きちんと名乗ってくれた少年。とても育ちが良くはきはきとしていていい子だけど、私は名乗っていいのだろうか…と、少し考えて少年を手招いた。
彼はとても素直な子なのだろう、きょとんとした顔をした後たたたっと小走りで近づいてきてくれる。
私はしゃがんで目を合わる。
「お姉さんは、アオよ。でも、先に名乗ったのは秘密ね?」
「秘密?」
「そう、秘密。」
シーっと、口元に手を置くと、少年も同じしぐさをして、くすぐったそうに笑った。
とても可愛らしい少年に、私はほっこり癒される。
「お姉さんと僕のないしょ話だね。」
「うん。」
私は少年の頭を優しくなでた。
そこにまた、ノックの音が飛び込んでくる。
「お入りになって。」
「聖女様、皆様方をお連れしました。」
声をかければ、カーライルさんが扉を開きながら声をかける。
ガチャリと開いた扉からは、今度こそ大人複数名とちょっとずつ背丈の違う青年、少年、少女が後に続いて入ってくる。きっと少年はここに一緒に来るはずだったのだろう。
ちなみに、アレクシスさんは今回同席はされない。私は、カーライルさんに会話の糸口を全力で託す所存だ。
「あ、どこにもいないと思ったら!」
全員が部屋に入ったところで、突然、高い女の子の声が上がったが、女性にこら。という視線を投げかけられて少女は口をつぐんだ。
少女と少年を交互に見やり、やっぱり間違えてきちゃったんだなぁと思うも、私は余計なコメントを控えることにして、少年の頭をもうひと撫でしてから立ち上がった。
「お忙しい中おいで頂きありがとうございます。」
緩やかにひざを折り、ご挨拶をすると、ご領主様一家も挨拶してくださり、名前を名乗られた。
でもごめん。
一度に6人とか紹介されても、途中でなんだっけ?になるから、本当にごめんなさい。できればお名刺を頂戴したく思う。
テーブルに席順に並べてさりげなく名前の確認をしつつ会話をさせてください。
そんなビジネステンプレ補正の無い今、私が覚えられたのは、ご領主様のエウゲニウスさんと、その奥様のユージェニーさん、そして、三男のユージンくんで打ち止めだった。
他のお子様方よ、申し訳ない。
心の中で拝みながら、にこやかにソファーへ促し、用意していたお茶を淹れようとポットを手に取れば、中に入れていたお湯を先回りしてエレイフが捨ててくれた後だった。
アシスタントの腕が良すぎる…と、ありがたくも驚きながら、私はお茶の葉をポットへ入れ、またお湯を注ぎ入れた。
お茶を蒸らしている間に、お菓子を出そうと、お皿へ視線を動かせば、また先回りしたエレイフが、お持ちしますよと唇だけで伝えながら微笑み、準備していたものを手に持った。
お、恐ろしい子…。
明るく優しく誠実そうな笑みでテーブルにそれらをサーブしていくエレイフに、少女がぽーっと見つめているのが視界に入る。あぁ、普通の少女であれば、ああいう目でエレイフを見るものなんだな。
でもそうだよね。エレイフはできる子だもんな。今も、先回り能力が高過ぎるし…。
しかしエレイフよ待っておくれ。
君がそれを持っていったら私が手持無沙汰だぞ。君が持って行ったら、私は何をすれば…遠い目をしかけるが、ユージンくんと目が合い、にこりとほほ笑みながら意識を戻す。
淑女教育を思い出すんだ。私。
「こちら、聖女様が新しく開発されたばかりのお菓子なのです。」
ね?と、カーライルさんはごくごく自然体で話題を生み出し、視線を私に投げてくれる。
それに私も、微笑んだまま首肯した。余計な口はあまり開くまい。というか、淑女教育でもかくあるべしと教わったし。ね。うん。
場の流れは全てカーライルさんにと、アレクシスさんも言っていたわけだから。先生のいう事はぜったーい。
「皆様のお口に合えば良いのですが。土地の実りを活用し、新しい物が作れたらと…ディオールジュ家の料理人の皆様にご協力頂いております。」
私たちの言葉に、皆様方興味津々という顔をテーブルの上に向けてくださる。
テーブルの上には、大きめのお皿一つと、小皿をエウゲニウスさんとユージェニーさんの前へ、私が予定していた通りにエレイフが配置してくれている。
クッキーは子供たちでも食べれるが、お酒のケーキはだめだろう。たぶん。何歳から口にしていいのかいまだにわかってないけど。
日が経った事で多少アルコールは飛んでいるはずだけど、かなりしっかりお酒が含まれているから大人だけのお楽しみにしておくのが無難だとは思うのだ。何かあっても責任はとれないし。
と、そんな事情はさておき、ご一家の興味を引けた事を見届けて、私はポットに向き直った。
ちょうどお茶のタイミングだ。とぽとぽとカップへ注ぎ淹れると、それをまたエレイフが運んでくれる。
騎士様で、しかも、隊長様なのに、人前でこんなことをさせていいのだろうか。と、内心冷や汗が出そうだ。
全員に行き渡ると、私はどうぞ。と、声をかけた。
お行儀の良い子供たちは、私からの声を待ってましたと言わんばかりに動き出し、嬉しそうにクッキーを手に取ってくれ、ご夫婦はまずお茶を口に含まれた。
カーライルさんもまたお茶を手に取り、口元へ運ぶ。ゆっくりとそれを楽しんだ後、穏やかに口を開く。
「さすがこちらの領地のお茶ですね。柔らかな香りが素晴らしい。」
「いえいえ、聖女様の腕が素晴らしいのですよ。香りを壊すことなく淹れてくださり、土地の者としても嬉しいことです。」
和やかに滑り出す会話。
その内容を吟味しながら私は情報を頑張って咀嚼する。
積み荷から降ろされたのは、最近気に入って飲んでいたお茶の一つだったから全然気にしていなかったけれど、わざわざ選ばれたこの一種類にそんな理由があったとは…。
抜け目ない準備と、積み荷の把握、私の好みと、ご領主一家へのサービス…知識と教養となにがしかの才能がある人というのはこういう方の事を言うのだろう。
あまりにもとびぬけたそれをまざまざと見せつけられ、あたりまえだけど、自分とはあまりにも違う人なのだと実感する。
「そういえば、以前聖女様は、天なるお方へもこちらのお茶をお出しされていらっしゃいましたね。」
と、一人、人としての格の違いに気持ちが揺さぶられていたら、突然の爆撃を受け、はっとした。
柔らかい顔が私に向けられているが、私は汗が止まらない。
まさかここで私を話題の主軸にして振られるとは。
「え、えぇ、そうですね。本日お出しした物の香りのよさと、口当たりの軽さがとても良かったので、一緒に楽しませて頂いておりました。」
対神様に何してるのかって話なんだけど、神様の事語るのに、どんな切り口で語るのが正解なのかわからなくて困る。
そもそも一緒にお茶をする事がおかしい。という所なんだけども。それは知っているんだけど、お茶飲み友達なんですよ。私としては。
プレッシャーが半端ない中、ご領主様ご一家そろって目を丸くされるのを私はただ微笑んで見つめる事しかできない。表面上は。
次第に感動で言葉にならないといった顔に変わっていく人々。
私はただただ笑う。表面上は。
色々とすみません。という気持ちが募りつつも、こういう時、神様の名前は本当に役に立つというか、視線がさらに熱くなるので悪手だった可能性も捨てきれないが…うん。神様ありがとうございます。
だって、高貴なる人とどんな会話をしたら?
という感じだよ。私は庶民なんですよ。見た目だけはなんかべらぼうに素晴らしいものをいただいてしまったけど分不相応なんですよ。
「そういえば、こちらのお菓子も天なる方々にも食べていただいたのですよ。よろしければ、皆様方からも感想を頂戴できれば嬉しいです。まだ改良途中でございますので。」
必死にちょっと話の矛先を変えさせつつ、結局神様系の話題で時間を繋ぐ私は、完全に、虎の威を借る狐そのもの。しかしそれも、そんなに時間を稼げないよ。
笑顔をキープしつつ心底困る私である。
「聖女様は、大教会周辺の地域の特産物を使って何かできないかとお考えですので、こちらの土地の物とも何かできればよいですね。」
「おぉ、もし何か始められる際にはいつでもお声がけください。」
「えぇえぇ、当家はいつでも協力いたしますわ。」
「ありがとうございます。」
私の必死な様子に気づいてくれたのかはわからないけど、カーライルさんがまた話題の舵を切ってくれた。
やるかどうかはともかく、確かに興味はある。
よくあるチート主人公にはなれそうにないけれど、周辺地域の活性化は、カーライルさんへの恩返しにもつながるし。
しかしまた、でっかいものが広がろうとしてないかな?こわいこわい。
下手に広がらないようにと、それ以上は言及を避け、お茶のおかわりを勧めたりして、私はお茶会を和やかなまま終了させることができたのだった。




