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ひとつ目の町 なぜなにが過ぎたらしい


 騎士さん一人が半歩先につき、私の半歩後ろというか、ほぼ横というかをエレイフが守り、後ろから二人が付いてくる。

 そんな布陣で私たちは本日のお宿であるお屋敷を出たのであった。

 私の、この世界で初めての、お出かけである。


 外に出るとたくさんの人がいて、私を見るや否や立ち止まり、隣の人と互いをつつき合い喜びにさざめかれる。

 いえいえ、私を見てもご利益はありませんよー。心で言い添えてから、ニコリと、笑ってから歩き始めた。

 お屋敷の中でも針の筵だったから、外もそうなのだろうと覚悟して出たが、外のほうが人が多い。

 というか、皆さん絶対あれだろ。運が良ければ聖女が見れるかもって思ってこの通り通ってるだろ。絶対そうだろ。

 だって、普通にたまたま通りかかったにしては、人が多いからね。

 出待ちよくない。

 内心ぎくしゃくとなっている私に、先を歩く騎士さんが優しく声をかけてくれる。

 どうやら彼がこの町の案内役のようですよ。


「アオ様はどんなところをご覧になりたいですか?」

「出店の出てる通りなど、見たいですね。そういったものはございますか?」

「ございますよ。しかし、出店ですか?」

「服飾店や宝石商の並ぶ通りとは真逆になってしまいますが。」


 騎士さんたちの戸惑いぶりに小首をかしげそうになっていたが、最後の方の言葉でなるほどと合点がいった。


「あら、私は別にお買い物をしたくて出てきたわけじゃないのですよ。」


 どんな顔をしていいかわからず、私はとりあえずの愛想笑いを浮かべる。笑顔って便利だよね。

 それにしても困るなぁ。これ以上別におねだりなんてする必要ないくらいだっていうのに…。

 と、思ったが、エレイフが意味深な笑みを浮かべて私を見ているのが見えた。

 そうですよねー。たくさん貢がれてますよねー。みんなからそう見えますよねー。

 金遣いについて、以前エレイフに指摘されたことを思い出しましたよ。

 はいはい。浪費させててすみません。


「この町に来るのは初めてですし、街並みや、人の生活を見たいだけなのです。なので、ドレスを見るよりもパン屋さんに行きたいですし、宝飾よりも普通の雑貨屋さんに行ってみたいですね。」


 そこまで言葉を重ねてやっと、彼らは少し合点がいった様子だった。

 もしかしたら、お嬢様の物見遊山と思われたかもしれないが、その方が私の目的としては正解なので、それで納得しておいてもらいたい。

 今後ともそんな感じでよろしく頼む。と、心の中で唱えておく。


 そうしててこてこと歩いていく私たちの周りには人ごみはできず、50センチ先位からできる人垣がすごいことになっていきます。

 正面は、数メートル先の人が我々に気づき道の左右によけて人垣の一部になっていくので、気持ちはモーゼ。

 できればもっと街並みを見せてください。

 私に見えるのは、二階から上と屋根ばかり。

 屋根屋根屋根屋根ばっか見ても楽しくないよ!

 あーでも、屋根に組まれている石はオレンジをメインに、作った時の加減のためか、ちょっとずつ濃淡が入り乱れていてめっちゃ可愛い。

 家の基本土台は木らしく、温かみのある茶色が家の大事な部分として見え、壁はどの家も真っ白な素材のものがぬられている。

 この辺りだけの土地柄なのか、それとも、国全体であの土壁の素材が豊富なのか。

 ヲタク故の好奇心がむくむくと沸いてしまう。

 お屋敷はもっと頑丈な素材で作られているのか、もう少し違う様子だったなぁと思い浮かべつつ、私は興味の赴くまま動く。


「ねえねえ、エレイフ。」


 私はこっそりとエレイフに耳打ちする。


「あの土壁の素材ってこの国全体がそうなの?それともこの辺り特有なの?どの辺りから産出されてるかとか知ってる?それに屋根。焼き瓦みたいな感じだけどあれってどうやって作ってるんだろう。色がまちまちなのって何か理由があるのかな。」


 私は楽しすぎて口早にそれらをばーっとエレイフにぶつけてしまうが、自分が早口になっている事に正直気づいていない私である。

 人垣で見えないとはいえ、見える範囲の風景は、私の全然知らない世界なのだ。

 あぁ、私は今まさに、私の知らない国にいるんだ!ってひしひしと感じる。

 楽しすぎて全然エレイフを見ていなかった私は、全然返答がない事に疑問を抱き、斜め上にあるはずの顔を見上げたら、なぜかエレイフは虚無って顔になっていた。


「え?なに??」

「いえ…アオ様は何かの研究職の方ですか?」

「ううん。違うけど?」


 どうもたくさんいろんな事を考えた末に聞いてきたエレイフだけど、私はさらりと首を振る。

 ふー…と、深く息を吐きだすエレイフ。

 なになに?どうした?


「次からはその道の専門家を連れてまいります。」

「い、いらないよ?」


 エレイフのリアクションの意味が全く分からなくて、御大層な事になりかけてるしで私はあわてて手を振って断る。


「あのですね。さすがにそのような専門的な知識を詳しくご説明できるような教養は持ち合わせていないのです。」

「ただの雑談だし、わからなかったらわからないで大丈夫だよ。」

「お知りになりたかったのでは?」

「軽くわかる範囲を教えてくれれば、あともっと知りたければ自分で調べるし。」


 互いに戸惑い全開の視線を向けあう私たち。


「アオ様から意外でない言葉はほとんど出たことないですが、この質問は予想外過ぎると思いますよ。いくら何でも、建築や土地の事情に関してなんてお役には立てないですよ。」

「エレイフってば、すねないで?ごめんって。別に他意はなかったんだって。純粋にどうなってるんだろうかって思っただけなんだって。」


 二の腕をボスボスと叩き、この話は終わりにすることにした。

 興味の赴くままに聞いてしまったけど、普通はそういうことはしないのだとエレイフの反応で知ってしまった。

 そういえば昔電子の海で、ヲタクは気になったものなんでもすぐ調べるとか言われてたな。何でもすぐ調べるヲタクって私の事ですね。わかります。

 今はあの超優秀な板は手元にないのだけど、様々な知識を幅広くさわりだけでも解説できてしまうハイパーなスペックの先生がいらっしゃるおかげで、結局気になる情報を何でもかんでも根掘り葉掘りしていたし、カーライルさんちの本を漁るのもライフワークになっていた。

 そうした行動や動向に対して、特に何も言われたことがなかったから気づかなかった。

 この世界でも結局私はヲタクなんだなぁ。あはは…

 ちょっと変でもどうか迫害しないで欲しい。


 せっかくのお出かけだというのに、自分のヲタクっぷりをただただ知っただけだった。

 なぜ!?

 私はただ、知らない世界をウキウキウォッチング…ってそれは違うけど、心行くまで堪能したかっただけなのに。

 女神様のご加護を受けても、人生うまくいかないものだ。



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