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ひとつ目の町 異世界に来て初めての外出とか、うそだろ


「お待たせしました。」


 と、ノックの音とともに声がした。

 それは爽やかかつ通りの良いエレイフの声だ。


「入って入って。」


 今度こそエレイフだなと独り言を閉じ込めながら私は声を返す。


「って、あれ?主様?」


 ガチャリと扉を開いたエレイフの困惑の声。

 どうやらソファーにいると思って入ってきたのにそこにいないから驚いた様だ。


「こっちの部屋だよ。」


 さらに声をかけつつも、私はそこを離れない。

 なぜなら、私は今、鏡台の前にいるからだ。


「あぁ、こちらでしたか。」


 貸してくださった部屋は広くて、なんと、二間もあるのだ。

 たった一晩寝るだけなのに。びっくりしてしまうこの歓迎ぶり。

 鏡台は、ベッドのある部屋…つまり、奥の部屋の方にあるので、扉をあけ放っているとはいえ、入り口からは死角になっていたのである。


「ディオールジュ殿にも許可をもらってきましたから、すぐに出かけられますが…髪、ご自分で結われるので?」


 こちらの部屋へとやってきたエレイフは、少し言葉を止めようとしたものの、言いようがほかになかった様で、そう聞いてきた。

 いつもこのさらっさらの髪を侍女さんたちの手で芸術的に飾り付けられているのを知っているだけあって、私の髪型アレンジの手腕など一片たりとも信じてはいないのだろう。

 まぁ、別にいいんだけどね。

 だって、この髪もまた、女神さまの贈り物なのだから。


「結わないよ。少しほつれがあったから綺麗にしてただけ。」


 エレイフが入ってきた時からずっとこの長い髪に櫛を通し続け、私はただひたすらほつれを無くすことだけに集中していた。

 一日ずっと三つ編みをしていたとは思えないスーパーストレートな髪は、櫛を通せば通すほど美しくさらっさらになっていく。

 あぁ、なんて素晴らしいことか。

 うねりや癖を気にしなくていいなんて。

 女神様のおかげです。


「しかし、飾り一つなく出られるのですか?」


 私が悦に浸っているところに水を差すように、懐疑的な目が鏡越しに私を見る。


「ダメかしら?」

「旅装のままなので、衣服もとてもシンプルですし、せめて何か飾りでも…」


 えぇ…そんな面倒な。

 私は渋い顔になってしまう。


「そんな顔をされましても。」


 困ったなぁ。

 女神様から頂いた、このスーパーさらさらストレートヘアーは、本当に驚くほどさらっさらなんだよね。

 下手に何かしても、するするとほどけてしまうのが目に見えているよ。


「あ、そうだ。」


 そこで私はあれはどうだろうかと立ち上がった。

 大切なものをしまっております、寄せ木細工の箱の中から取り出しますは、神より貰いたもうた奇跡でございまーす!わー。拍手ー。と、内心茶番を繰り広げつつ、私はそれを取り出した。

 お屋敷で出発の挨拶をした時に、光の貴公子からもらった物。

 私の色をしたこの土地の花…と、言って頂いた内容を思い出すとでれでれとだらしない顔になりかける代物。

 なんとも不思議な事に、何日経とうと崩れることも色あせることもなく咲き続けている花が私の手元にはある。

 私は右側の髪だけ耳にかけ、厳重にピンでとめると、耳の上に髪に差し込むようにしてその花を飾り付けた。


「なら、これでどう?」


 シンプルなドレスに、シンプルな髪型だが、まぁ、ないよりはいいだろう。

 何より、神様からの贈り物に文句などつけようものなら、にこやかに肘鉄である。


「…アオ様は、もう少しご自身を飾り付ける意識を持たれてもいいのではないでしょうか。」

「町を歩くだけだからいらないってば。むしろ、目立ちたくない。」

「そのご容姿で、目立たないというのは難易度の高い話ですね。」


 呆れ顔をされてしまった。

 そりゃあ、この姿は女神様に頂いた、私の思い描いた完璧な小さくてかわいーい聖女様ですけども。

 心は引きこもりコミュ障。

 なるべく着飾ったりとかは遠慮したい。


「現状が既に目立っているなら、余計、飾りつけは不要でしょ。これ以上を望むべくもない。」

「アオ様のそれは、慎ましやかさではなく、なにかを忌避しているように見えますね。」

「あら、だんだん私の事がわかってきたのね。」

「いえ、正直さっぱりですよ。」


 そんな談笑をしながら部屋を後にした私たち。

 玄関ホールには騎士さん3名が私とエレイフを待っていました。


「今日は私のわがままに付き合ってくださってありがとうございます。道中安全が第一でございます。必要なことがあれば、気軽に仰ってくださいね。」


 と、先に一応釘を指しておく。

 じゃないと、なんかこう…私を上の存在か何かにしてしまって、言葉を直接言うのは憚られる…みたいな感じになりそうで、怖い。

 これまでの時間の中でも、騎士さんたちが私に直接声をかけたことはない。

 そして、案の定、彼らはチラリとエレイフを伺い見た。

 視界の端でエレイフがこくりと小さくうなづくのが見える。


「聖女候補様の護衛をさせていただきます事、光栄に存じます。」

「我々が御身をお守りいたしますので、安心して町を堪能していってください。」

「安全面には十分配慮いたしますが、ご協力をお願いする事態が起きましたら、隊長から離れず指示に従って頂ければ幸いです。」


 三者三様、口々に言って騎士の礼をとってくれる。

 その動きは洗練された貴族とはまた違い、訓練された一そろいの芸術で、私は感嘆のため息をつきそうになる。

 あぁ、やっぱり日々訓練に励んでいる方々は違うなぁ。

 運動らしい運動等さっぱりだった人生だ。

 この世界でも、最近はやっていない走り込みとこっそり自室で行っていたストレッチ位しか運動らしい運動はしていない。あ、あと、乗馬?あれは運動なんだろうか。

 っていうか、今更な話ですが、私、気づいちゃいました。


 この世界に来てもうすぐ5か月。


 私、初めてのお出かけを致します。



 え、生まれたての赤子か?



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