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ひとつ目の町 かわいい少女の歓迎


 太陽が赤く染まり始めるより少し前に、私達はひとつ目の町へたどり着いた。

 案の定詰めかけた人々から盛大な歓声を受け、私は馬車のタラップを降りていく。

 エスコートしていただいてる手のひらにすがるように、ぎゅっとその手を少し握りしめ、私は周囲を見渡した。

 すると、大人たちに背を押されておずおずと少女が一人、前に進み出て私を見上げる。

 その手には、色とりどりの花々がぎゅっと抱えられていて、少女の愛らしさを際立たせている。

 目が合えば、ビクリと、彼女は肩を揺らした。


 何ということでしょう。

 かわいい少女におびえられてしまった。

 えぇぇぇぇっ

 ど、どうしたらいいの!?




 馬車で向かう旅路。

 私は色々と考えた末に、お昼をとりながら旅程に関して、カーライルさんにおずおずとお願いしてみた。


「町の様子を見る時間を頂きたくて、馬車の速度をあげることが可能でしたら、お願いできませんか?」


 と。

 皆さんの負担的に…とは、勝手に私が気を回しただけだし、随時停車する予定地を変えさせるのも避けたい。と、思った末に編み出したのはそんな理由。

 果たして、カーライルさんの反応はといえば…


「馬車の揺れが辛くないようでしたら、是非に。町を見ていってください。」


 と、それはそれは大輪の花が咲いたかのような笑みをくださった。うっまぶしい。

 見慣れないお姿で、それは、しんどみが…!

 そこからは暫し話し合いの時間が設けられた結果、基本の日程は変えずに、私が耐えられる速度を今日のうちに確かめ。それから、この先の町へ伝令を飛ばす手はずにする…と、いうことになった。

 町の中での護衛をどうするかで熾烈な争いが繰り広げられたが、エレイフが騎士という職業を全面に押し出して勝ち取っていた。

 どう考えてもカーライルさんはお忙しいから、当たり前なんだけどね。


 お屋敷で過ごしていた頃でさえ、お仕事の関係上、食事の時間と夜くらいしかお屋敷にはいなかったし。

 その代わりといってはなんだけど、多分、アレクシスさんはカーライルさんの代理的な意味合いで、私に関する色々な手はずを整えてくれていたのだろうと思う。

 日々のちょっとした変化はたくさんあったもの。

 例えば、私に用意された羽ペンの種類が増えたりとか… 女神様から頂いた聖女ボディは、少女らしく小さな手をしてて、ペンが大きくて持ちにくかった。それについての雑談を、アレクシスさんに何となく話した記憶がある。

 例えば、食卓に上がるメニューに少し変化があったりとか… 以前の自分が好きだったものの話や、ここでは見たことないけど近いものはあるんですかねぇ。という雑談を、やはりしたことがあった。

 他にもあげればきりがない。


 話はそれたけど、カーライルさんの所から来てる関係者の皆さんは、荷物の搬入やなんかでも忙しいし、そもそもそんなに人数を連れてきてはいない。

 騎士の皆様が代わる代わる護衛に着かれるのが一番効率的である。

 そもそも護衛のために来ているわけだし。

 問題は、信用という点。

 大きくてでっかい溝である。

 両者の立場や組織内の事を、もう少し聞き出せたらなぁと、少し思う。

 彼らがきた当初は、そのまま言い分をのむわけにはいかなかったから、私もがっちり警戒体制ではあったが、中央教会に行くと決まって向かっている道中は、むしろお互いの向くべき方向は重なっているのだし、一時的に迎合しても良いのではないか…と、思うのだけど。楽観的に思い過ぎなのだろうな。

 一般庶民過ぎて、組織的な派閥における人間関係の溝に対して、いまいち理解を深めることができない。

 色々な物語を読んできた人生だ。

 多少であれば、自分の知らない人と人との関係性は、知ってはいるが。

 とはいえ、物語で読んだ知識程度では、理解の及ばない事が多すぎる。

 騎士さんたちに護衛してもらう上で、どう接するべきか、思い悩むも答えは出ず、そんな悩みとは裏腹に、徐々に上がっていく馬車のスピードにテンションが上がってしまう。

 いやだってしょうがない。

 どんどん流れていく風景と、どうやら魔法で軽減されているらしい揺れは、ちょっと楽しいくらいなのだ。でも、どんな魔法で軽減しているんだろう。心底謎である。

 また、魔法への興味とワクワクがむくりと頭をもたげるが、どうせ使うことはできないのだと、再度心に封をする。

 私の様子を伺いながらも、段階的に挙げられていったスピードのおかげで、夕方になるより先に最初の目的の町へと私たちはたどり着いたのだった。


 そして、沿道に詰めかける人々にひきつった顔を見せないためにも、私は馬車の中にある薄手のカーテンだけは閉めさせてもらって、うっすらとシルエットが見えるだけの状態で町へと入っていったのだった。

 だがしかし、私はすっかりと忘れていた。

 そう、馬車というのは、移動が終わったら降りるものである。

 このたくさんの人々の視線に、結局私はさらされるのだ。

 停車した瞬間にやっとそれを思い出して、一気に血の気が引いていき、次の瞬間、心臓が強く内側をたたき始める。

 ドッドッドッドッ

 自分の中からの鼓動がすさまじい。

 ドレスとか、髪に問題はないだろうか。気になる。心底気になるから整えたい。

 しかし、扉があくまでは、座席から立ってはならない。

 うぅぅぅ…

 がちゃりと開く扉。

 いつものようにエスコート役はアレクシスさん。

 ことさらゆっくり立ち上がり、慎重に自分の状態をさりげない動作で整えながら、ゆっくり、ゆっくり、馬車の外へ出た。

 縋れるものは、握った手ぐらいのもので、そして、私は、かわいい少女のおびえた瞳の前にさらされている!


 だ、だれか。誰か、あの少女を慰めてあげて!

 いや、こんなたくさんの人々が詰めかけて、様子を見守っている中で、そんなフォローをしてくれる人はいるはずもないのだ。

 お願いだからおびえないで。

 こわくない。こわくなーい。

 お姉さんは、怖い人じゃないんだよ。

 心の中でそうささやくも、意味はない。

 少女の足はかっちかっちに固まってしまったようで、微動だにしないし、私もどうしたらいいかわからない。

 わからないけど、小さい女の子を前に、大人の私が歩み寄らなくてどうするのだ。

 周囲の事は忘れろ。忘れるんだ。私よ。

 私の目の前には、少女がいるだけ。私の目の前には少女がいるだけ。

 自己暗示をかけまくり、ゆっくりと目を閉じ、そして、目を開きながら何とか少女へ笑いかける。

 エスコートされている事など、今は置いておこう。

 重ねた手をするりとほどき、私は少女の前へと歩み寄るとしゃがみ、同じ目線になるとまた笑いかけた。


「こんにちは。」

「こ、こんにちは!聖女様」


 少女は目を真ん丸にして、それからほっぺを真っ赤に染めながら大きな声で返してくれた。

 とても素直でいい子なのだろう。


「素敵なお花とドレスね。よく似合っているわ。」


 少女が持つには少し大きな花束で、本当はお洋服はよく見えないのだけど、スカートの裾は明るい水色をしていて、その下にふわふわとしたレースが垣間見える。

 きっとおしゃれにしてもらったに違いない。


「あ、ありがとうございます!あの、えっと、花束は、私たちから聖女様への、贈り物で…あっ!」


 そこまで言って、自分のしないといけない事を思い出したらしく、少女ははっとした顔の後、困った顔でおろおろとし始めた。

 本当は言わないといけない台詞があったんだろうと、目に見えてわかる動き。

 うんうんわかるわかる。

 頭真っ白になった後の正気に戻った時の絶望感ってすごいし、どうやって巻き返したらいいかわからないしで、この世が今終わって欲しいとまで思うことがあるよね。

 出勤日に出勤時間過ぎて起きた時とか…。あ、黒い世界を久々に思い出したぞ。ははは…


「大丈夫。落ち着いてもう一度ご挨拶してもらえる?」

「は、はいっ。えっと、ようこそいらしてくださいました聖女様。町を代表して、感謝の印をお受け取りください。」


 一生懸命言ってくれた少女が、腕いっぱいの花束をずいっと差し出してくれる。

 私はそれを左腕に抱え、少女の頭を優しくなでた。

 柔らかな子供らしいさらさらとした髪が指の間を通り、とても心地よい。


「とても素敵な花束をありがとう。うれしいわ。」


 少女はきらきらとした目でめいっぱいの笑顔を私にくれて、礼をとってから小走りで大人たちの足元へと戻っていった。

 私はひらひらと少女に手を振りながら思う。

 あーかわいいなぁ。かわいい子だなぁ。

 うへへへへへと、変な笑いが出てしまったが、幸いにも至近距離には誰もいない。

 危ない危ない気を付けないと。危ない人過ぎるよ。

 花束を落とさないようにゆっくりと立ち上がると、それに合わせたようにアレクシスさんがまた私に手を差し出してくれる。


「スカートの裾が汚れてしまいましたね。」


 えっ?と、思って見下ろそうとするも、花束が視界の邪魔をして全然見えない。

 どの程度の汚れかはわからないけど、しゃがんだ時に砂が付いた程度なら大丈夫だろう。


「後で払えば大丈夫ですよ。」

「…建物に入ったらにいたしましょう。」


 花束を抱えた私は、アレクシスさんに手を取られ、騎士さんたちに周囲を固められ、町の代表の方とカーライルさんの後ろをしずしずとついて建物へと入っていった。

 しかし、パタリと扉が閉まっても、私の緊張は終わらないのであった。


 あの、すみません。

 その…従業員の皆さんたち?

 ちらちら興味津々な視線を投げかけるの、やめてくれませんか!?



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