旅路だよね?パレードじゃないよね!?
旅立ちの日の少し前の事。
王都までの旅路は、1週間程の旅程となっている事を、打ち合わせの際に聞かされ、え、中央教会への嫌がらせ?と、失礼にも一瞬思ってしまった。
確か聞いた話が覚え違いでなければ、普通に行ってももう少し短い日数でたどり着ける距離だったと思うのだが。
私は自分の記憶を掘り起こすため、少し絨毯の模様に目をやりつつ思案する。
そういう時、大抵の疑問に先回りして気づいて答えてくれるのはアレクシスさんで、今回も私が疑問を投げ掛ける前に、カーライルさんからの説明に補足を付け加えてくれた。
最近思うのだけど、アレクシスさんはエスパーか何かなのだろうか。
それか、宇宙人。
「アオ様が中央教会に向かうに当たり、連絡を取り合っていた各地の領主達より是非泊って行って欲しいという希望が相次いで寄せられたのです。全て無下にするわけにもいきませんので、なるべく街の滞在時間を作った結果、日数が少しばかり延びているのです。」
「聖女様にはご負担をかける事となり申し訳ありません。」
「とんでもないです。そういう理由なら、日数が少し長いのも納得です。」
「移動もなるべくお体に負担をかけないように致します。ご要望がございましたら、何でもおっしゃってください。」
カーライルさんは相変わらず、とてもよくしてくれる。
その言葉の指す意味を、これまでの経験から私も察するというもので、それぞれの街に滞在する時間だけでなく、そもそも移動時間そのものにも時間をとっているのではないかと思うのだ。
この世界の移動手段は馬。
そして、馬車だ。
馬車の揺れを軽減させる技術がどれ程進化している世界かはよくわからないけれど、スピードを出せば乗り心地は落ちるというものだ。
「念のため、事前に酔い止め等があれば嬉しいですね。」
道中、特に要望を出すつもりはないが、後々他の皆様にかける迷惑等を考慮して、これだけはとお願いを口にして、その日は旅程に関する話を終了させたのだった。
そして旅の当日、お水と一緒に馬車に乗る前にもらった丸薬。
この世界には、魔法というものが存在している。ということを今更ながら言うのだが、魔法があるんですよね。
えぇ、何で私がそんなことを言っているかというと、もらったお薬がどんな風に作られたのかさっぱりわからない見た目をしているからですよ。
ころりとした丸薬は真ん丸でつるりとしているのだ。
この世界の文化は、私のいた世界とは全然違っていて、文明の進み方や、進む度合いなんかもきっと違うんだと思う。
ただ、かなりの領域がアナログなこの世界で、何でこの丸薬はこんなにつるっとしてるんだろうって思ってしまうんだよ。
そう、全然わからないのだ。
正直、粉薬の形状である可能性も想定していた。
だというのにこの形状。
科学的な観点では絶対わからないのだとしたら、ほら、あとは魔法で何らかの加工をしているんだと思うのが自然じゃないですか。
まさか、お薬の見た目に疑問を持って、魔法の存在を思い出す事になるとはね。
私自身もビックリですよ。
この4ヶ月程の期間でよくそんな素敵な物を忘れていられたなと言われてもおかしくないと思うが、これには海より深い訳があるんだよ。
私、何一つ、魔法が使えなかったんですよ。
絶望した。
独学とはいえ、絶望した。
というわけで、精神衛生上よろしくないので封印したんですよ。
えぇ、忘れていた。というよりも、忘れることにした。って訳ですよ。
できれば私だって魔法なんてワクソワするもの、使えるようになりたかった。今だってなりたい。
だから、もう少しまとまった時間がとれるようになったらお願いして習おうと思っていたんだよ。
けれど、そのうちに…なんて言っていられる環境からは遠ざかっている現状、また絶望し直した。ちくせう…
涙と一緒に丸薬を水で飲み下し、乗り込んだ馬車。
私の乗り込む馬車は、これぞ、貴婦人の乗る馬車という感じで、明るい色で塗られた綺麗な馬車だった。
私の考えていたものよりずっと窓が大きめにとられているし、中はとてもフッカフッカだった。
お金がかかってそうだとつい思ってしまうのは致し方ない。貧乏性なのだ。
そして、馬車の中にはいくつものクッションが用意されていて、カーライルさんからの気遣いをまた感じる事となる。
なるほど、これで自分の一番座り心地のいい感じにしてくれと言うことだろう。
とりあえずはそのまま座席におさまって、他に誰か乗り込むのを待つが…待てど暮らせど誰も後から乗り込まない。
はて?と、思っている間に、周囲の準備が完了したらしく、扉をお閉め致します。と、声がかかる。
わかりました。と、口で返しつつ、誰も乗らないの?と、心底びっくりしている私。
ゆっくりと動き出す馬車の周囲には、馬に騎乗した騎士の皆様が整然とついている。
因みに、この馬車以外に2台の馬車が一緒に移動している。
その2台は、私個人の感覚からすれば一般的に馬車と言われて思い浮かべる茶色のものだった。
だからてっきり人が乗るのはこの1台で、他2台に荷物が積まれているものなのだと思ったのだが、どうやら勘違いだったらしい。思い込み乙!なんてこったい。
と、少しばかり頭を抱えたくなったが、ふと、大きな窓から見える外をみると、ぐんぐんと過ぎ去っていく風景が目に留まる。
カーライルさんのお屋敷の回りは自然が多く、林なんかも所有地の一部なんだと以前に聞いていた。
それから、徐々に近づいていく町並み。
すらりとのびていく整えられた道の先に見たことのない風景が続いているのだと思うと、わくわくする。
まぁ、私の乗っている馬車の前に、1台馬車が走っているので、正面の風景は一部見えないんですけどね。
そうして牧歌的風景の先に見えてきたのは、なんということでしょう、馬車が走れるだけの幅をきちんと守りつつも、道の両側に町の人々が詰めかけているではないですか。
って、おい、ちょ、まてよっ
聞いてないですよ!?
予想だにしない出来事に、私はフリーズし、固まった。
固まっていてもぐんぐん近づいていく町中。もうすぐあのすさまじい場所に突入してしまう。
王都への旅路についたと思っていたけど、パレードでした?
そして馬車がそこへとたどり着くや否や、どっと沸き上がる大歓声。
降り注ぐように投げ込まれる花や花弁。
たくさんの笑顔と、キラキラとした瞳。
事ここに到り、広くとられた窓の意味を私は知る。
誰だ私に伝えなかったやつは。あぁ、でも、言われていたら尻込みして出発をいやいやしたかもしれない。言わなくて正解ということか。と、目まぐるしく考えが流れる最中、ふと、馬車の右側を走る騎士と一瞬だけ目が合った気がした。
このまま立ちすくんでてはカッコ悪い…気がする。
が、こんなところで笑顔を作れるほどの度胸もない。
えぇい、私のわかるロイヤルな方々の動作なんてこれしかないからな。
私は静かに手を肩くらいの高さに上げ、ゆっくりと、そして、あまり大きな振り幅にならない幅になるよう心がけながら手を振った。
もちろん、片側の人々にするのでは不平等なので、三秒おきぐらいでゆっくりと体の向きを変えて。
まさかと思うけど、これからの旅路、ずっとこのイベントが発生したりしませんよね!?
多難の予感しかない旅路が、こうして始まったのだった。




