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屈強な騎士と誤解の種


 お屋敷の従業員の皆さんは、今日はこのまま仕事終わりの人も多く、早い時間に帰っていく人も居れば、何周か室内を回って珍しいお菓子の味を楽しんでくれている人も居る。

 そうして、室内の人数も大分まばらになって来た頃に、団体さんがやって来る音が聞こえ、私は目を瞬かせた。


 その足の音は妙にきっちりと揃いすぎている。

 室内を見渡していた私は、音の正体を確認しようと入口側へと体の向きを変えた。予想通りの姿が私の視界に入ったので、にこりと笑って出迎えてあげた。

 規律正しく揃った足音。

 私のすぐ前でそれはきっちりと止まり、その内の一人が一歩、私の目の前に膝をついた。


「主様、本日は我々までもご招待いただき、隊員一同歓喜にわいております。」

「皆様に、喜んでいただけて何よりです。」


 ふんわりと、やわらかく、全力で猫をかぶった声を作った私は、エレイフに微笑み、それからその後ろに控える騎士様方にも視線を向けた。


「中央教会までの道中、皆様方にもお世話になる事と存じます。少し早いですが、今日はその感謝も込めてご招待させていただきました。どうぞ楽しんでいってくださいね。」


 騎士団のおそろいの服をきっちりと身に着けて並ぶ彼ら。

 一人一人と間近で顔を会わせるのは初めてなのだ。

 全ては最初が肝心。

 できれば騎士の方々には、自主的に私を守ろうと思っていただきたい。

 猫と愛想を総動員して私は彼らに対し、気合いを入れて微笑みを向ける。


 ここまでの時間の中で、エレイフは騎士の誓いを勝手に立てた事から、安全圏として一応傍にいる事を許されているけれど、他の騎士さんたちは、依然変わらず距離をとりつつ過ごしている。

 なのでもちろん、お屋敷の皆様にとっても、彼らは異質な存在。

 出入り口で私をサポートしていたメンバーは、どうしたらいいのか判断しきれず、顔を強ばらせている。

 致し方ないことだなぁと、私は内心苦笑とため息を漏らしつつ、猫被り全開の笑顔を向け続ける。

 そして、私の斜め後ろで緊張に体を強張らせている男性から感想用のカードを貰い、私の手でエレイフ以下9名の騎士団員さんたち一人一人に配った。

 今回の試食の趣旨を説明し、それぞれの菓子を食べた後にテーブルの色合いと同じ色合いのカードに、感想をそれぞれ書いて欲しい旨を伝えていく。

 騎士様方は、ずいぶん熱心に私を見つめている…ような気がした。

 自意識過剰だろうか。


「それでは皆様、ごゆっくり楽しんでいってくださいませ。」


 そう、私が騎士様方を室内へ誘導するため右腕を広げる頃には、室内に残っていた男女のほとんどがそそくさと居なくなっていた。

 残っているメンバーは、心の強い人たちか、野次馬精神が強い人か、職務的に関係ないしと思っている人たちだろう。恐らくは。

 まぁ、触らぬ神に祟りなしと言うし…いや、この世界の神様に対してはこんな諺は生まれなさそうだな。

 そんな室内へと騎士様方は気にした様子もなく歩を進め、残ったお菓子の中からどれを食べようかと視線をさ迷わせる。

 今回用意したお菓子は区画を三つ用意した意図を汲んでもらえればすぐわかると思うが、三種類用意している。

 真ん中のテーブルが、私が最初に提案したお酒を使ったお菓子のうちの一つ。ラムレーズンのお菓子だ。

 前世ではよく見かけたお菓子で、クッキー生地でラムレーズンとクリームを挟んだお菓子。

 クッキー生地の食感はまだちょっと固くて、噛んだときに中のクリームが潰されて出てきてしまうのが、改良点として大きいけど、ラムレーズンのお菓子としては、大満足の逸品となっている。

 ラムレーズン以外はこの世界に元々あるお菓子なので、食べたことの無い素材に驚いていただければ嬉しいなぁと思う。

 香り付け程度に留めたラムレーズン…いや、よく考えると使ってるのはラム酒じゃないからラムレーズンじゃないんだった…いや、まあいいか。ラムレーズンで…。 そのラムレーズンに少量とはいえお酒を使っているので、注意書をテーブルに設置してある。

 そして右側、黒いテーブルクロスとキラキラとした白い石で装飾したテーブルには、お酒をよく染み込ませたケーキをセットしている。

 余計な物は入れずにケーキとお酒のマッチ感を楽しんでもらう逸品だ。

 ケーキ自体はこの世界によくある焼き菓子をもとにしているし、お酒もこの世界の物なので、私自身、全然似たものは知っているが食べたことの無いお味のケーキとなった。

 こっちのケーキに使っているお酒は、アルコール度数が高いだけじゃなく辛さの際立つお酒ががっつりと使われている。

 たくさん食べると酔っぱらう事間違いなしだ。

 そのため、テーブルにはまたきっちりと注意書を置いている。

 騎士様方にはご好評いただけるのではないかと密かに思っている。

 最後、左側のテーブルはふんわりかわいく飾ったテーブル。

 こっちはといえば、木の実をメインにしたクッキーである。

 何が私によってもたらされたかといえば、アーモンドプードル。使われてるのアーモンドじゃないけど。

 この世界には、木の実をパウンドケーキに入れたり、上にのせて焼いたりといった習慣はあったが、木の実それ自体を粉末状にして焼き菓子の原料とする物はまだ存在していなかった。

 もしかしたら他の地域にはあるのかもしれないけどね。

 何度も色々な木の実で試作を重ね、クッキーを作成し、最後に粉砂糖でコーティングしたかわいいクッキーは、私の希望通り一口サイズにしてもらって、気軽につまめる形にしてもらってある。

 こっちはさくさく感が最高に私好みのクッキーだ。お味も食べたことのある物に近い。


「どれもこれも知らない味に食感ですね。」


 一度は室内へと向かったエレイフが、いつのまにか私の傍らに戻ってきていた。

 出入り口にスタンバイする担当の皆に、大丈夫だから、少し他のテーブルを手伝ってきてと、私は距離を取らせた。

 もうすぐ騎士さん達はお屋敷からさよならするのだし、あえて近づかなければならない環境にする必要もあるまいと思っての事だった。


「どれか口に合えばうれしいわ。」

「…それ、続けるんですね。アオ様」

「あら、それ…とは、どれの事かしら」


 私はしれっと頬に手を当てて微笑んだ。


「だから…その言葉とご様子なんですけどねぇ。」


 ぼそりと呟くエレイフの言葉など素知らぬ顔で聞き流し、お菓子の置いてあるテーブルとは別に、壁際に何ヵ所か設置していたお茶を置いたテーブルからお茶を手に取ると、自分と彼の分を持って元の場所へと戻った。


「焼き菓子だけでは喉が乾きますよ。」

「恐れ入ります。」


 呆れ顔で諦めたようにお茶を受けとるエレイフ。


「それにしても、今日いらしてくださった騎士団の皆様、ずいぶんと年齢に偏りがあったようにお見受けしますが。」


 エレイフと並んで室内を見渡す。

 その先には、ずいぶんと楽しげな雰囲気で私の準備したお茶やお菓子を楽しんでくれている様子の騎士様方。


「おや、目敏くていらっしゃる。」

「いつもなら、もっと若い子たちも居るのに、どういう人選なのか、出発前に伺いたい所ですわね。」


 含みなど一切見せない柔らかな笑顔を努め、見上げると、少し不服そうに私を見下ろす彼がいる。

 一体どうして、そんな顔をしているというのだろう?

 騎士団の動きは私の関知するところではないというのに。


「アオ様の…」


 ぼそぼそと唇を尖らせながら話す。

 普段では絶対見ることのないようなエレイフの様子に、私は首をこてんと横に傾げた。


「貴女の好みは、あれくらい年上…なのでしょう?」

「は??」


 私はポカンと彼を見上げた。



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