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大きなリボンをかけて


「これも仕事の一環ですけど。」

「はいはい。通常業務してください。大隊長殿」

「これが俺の通常業務だって言ってんのに。」


 不満全開でぶーぶー言うエレイフにほらほら行った行った。と、私は手を叩く。

 大隊長としての通常業務内容が、私の後ろに張り付き続ける事なんてやだよ。

 それに、アレクシスさんと顔を合わせればすぐ舌戦が始まるのだ。

 挟まれているこっちの身にもなって欲しい。

 一応、アレクシスさんやカーライルさんは、エレイフが私に騎士の誓いを立てたという一点においては信用すると言ってくれた。

 だが、それぞれの陣営の都合があるし、これまでのお互いへの印象が好転するわけではないので、仲良しこよしは絶対無理とも言われている。言い方はもっと大人なテイストだったけど、私的に意訳するとそんな感じだ。


 廊下の途中までは一緒に行き、じゃあ、また午後にと、エレイフの背を叩いて私は分かれた。

 そのままサロンへ向かい、部屋の扉を押し開ける。

 すると、既にサロンに来ていたアレクシスさんが優雅にティーカップを傾けている姿が目に入った。


 ピンとした背筋。

 乱れる事のない黒髪。

 一つも無駄のない所作。

 テーブルにカップとソーサーが置かれるまで、無意識に私は黙ってその動きを注視してしまっていた。


「アオ様?」

「あ、はいっ」


 ただただその光景に魅入っていた私は、アレクシスさんに呼ばれてはっと意識を取り戻す。

 裏返った声で返事をしてしまい、恥ずかしくなる。

 うぅ…すぐこういう失敗をするんだ。

 アレクシスさんの前だとほんとダメだな。


「お待たせしてすみません。アレクシスさん」


 ぱたりと、扉をしめて改めてアレクシスさんの近くへと歩み寄る。


「それで、お茶会の計画について、まとめていらっしゃいましたか?」

「はい。ご相談に乗ってもらい、ありがとうございます。」


 こんな時でも淑女教育は続行中なので、私は丁寧に礼をとり顔を上げた。

 アレクシスさんはすっと立ち上がると私が座るための椅子を引いて、どうぞ。と、促してくれる。

 相変わらず、とても座りやすいエスコートです。さすがです。


 今日はお茶会会場をどうしたらいいのか。という相談に乗ってもらいにアレクシスさんには来てもらっている。

 一応、このお屋敷の皆さんへのお礼も兼ねて…という大前提があるので、私はカーライルさんではなく、アレクシスさんに詳細について相談する事にしたのだ。

 サプライズ的な物って必要だと思うし、カーライルさんに色々な許可は頂いているのでその辺りはばっちりだ。ただ、もし私がその辺りに気づいてなかったら、アレクシスさんが先回りしてくれそうな気はしてる。

 よくよく考えてみればだいたいいつもそうなんだよねぇ。

 私のやりたい事を汲み上げて、カーライルさんに話を通して…というのを、知らないうちに完了させてさらりと事を進めてくれているのだ。私が気づかないうちに。

 その上この方色んなものをお持ちなわけでしょ。何で家庭教師なんてなったんだろ。

 いくら何でもおかしい気がする。

 と、最近薄々気づいてはいるのだけど、そういう事にはまた蓋をしておく。約束の事もあるし、考えても仕方あるまい。


 何はともあれ、今回の件に関して言うなら、アレクシスさんは貴族社会に詳しいわけだから、人選としては一番合ってると思う。

 従業員の皆さんの業務は、その日はほとんど免除されることになっているし、告知もしてあるので後はこの部屋の飾りつけをどうするかが大きな問題なのである。


「お礼を兼ねた新しい菓子類の試食というのはなかなか斬新ですね。」

「新しく開発する予定ではなかったんですが、料理人さん方とお話ししていたらそういう流れに。」


 感心してくれるアレクシスさんだが、そうしようとしてなったわけではないので苦笑を返してしまう。


「いくつかの種類があるので、それぞれに感想や評価を貰いたいんです。なので、配置や評価の貰い方を工夫したいんですが…それがなかなか難しくて…」


 テーブルの配置だとか、それぞれの場所に違う物があるのだとひと目で分かる様にしたいとか、そういう希望は尽きないのだが、いかんせん、その手段が思いつかない。

 私の生きてきた世界、生きてきた時代ならばこれができるから…あれをしたら斬新では…等が思い付くが、なんにせよこの世界の常識と、やれることの範囲がわからないのだ。


「そうですね、こういうのはいかがでしょう。」


 アレクシスさんからの案に真剣に耳を傾けながら、またわくわくとした気持ちが沸き上がる。

 何かを計画して成し遂げるというのは、本当に楽しい事だ。

 なにより、自分の知らないやり方や手段を知る行程が何より好きなのだ。

 こういうところがオタクに突き進んだ所以とも思えるが、悪いことではないと思ってる。

 新しい事は、楽しい。楽しいと思えることはいいことだ。


「それ、いいですね。」


 話を聞き終わった私は、思わず弾んだ声でアレクシスさんへと身を乗り出してはしゃいでしまう。

 はっと、見上げた顔の近さに驚いて慌てて椅子に座り直したが、アレクシスさんが少しだけ口角を上げ笑ったので、一気に顔が熱くなった。


 だから、私は、アレクシスさんの前でそういう失敗をするのはほんとやめよう?

 心の中で叱咤しつつも、アレクシスさんに嫌な顔をされなくて本当に良かったとほっとしたのだった。


 いつものサロンを飾り付けて。

 楽しさを込めてたくさんの布とリボンをかけたプレゼント。



 さぁ、お茶会まであとちょっと。



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