やっと私もチート主人公入りなのでは!と、思ったこともありました。
しばし光の貴公子との戯れを楽しみ、お土産と共に立ち去る姿を見送って、私は再度、気合を入れねばと机に向かった。
神様にも楽しみにしててと言ったわけだし、しっかりルートの確保をして、おいしい物を作ってもらわねば。
目下の目標としては、出発までに試作品の完成までたどり着きたい。
そして、作った物の味見兼、感想、アドバイスをこのお屋敷の皆さんにしてもらう。
ここまでが第一段階である。
だがしかし、料理の研究をするのは残念なことに私ではなく、料理人さんたちなんだなぁ。申し訳ない。
私の案を元に料理人さんたちが研究を進めるための時間を貰う等の許可を、カーライルさんにもらったり、更にはその後の流れをどのようにしていくかという案を提出して、いくつか指摘された部分を練り直す…といった作業を私がするのは自然の流れで、気づけば私は企画提出係となっていた。
企画するのも、計画するのも、運営するのも好きだから願ったりかなったりだけどね。
このままただのニートでいるはいくらなんでも嫌だ!
新しいお菓子の開発…という流れになった時、ようやく私も異世界知識でチート開発者ルートに入ったのだと思った。思いました。
しかし現実はそんな簡単な物じゃなかった。
開発するのは私の拙い知識と情報をもとに、ただひたすら頑張る専門家という構図。
私にできる事は、彼らのサポートおよび、その後の流通の形成に関わる整備や、開発者への定期的なマージンの提供などといった分野に口を挟む事位。
最終的にきちんと形にして公文書にし、法的効力を持たせるのは、カーライルさんのお仕事なわけで。
お菓子をたべ、口をはさみ。彼らの権益のために、法に口をはさみ。
どこに対しても私は口をはさむだけ。
憧れの異世界転移チート主人公との落差がすごいわー。
「ただお茶会を開くだけだった予定が、何でこんな話がどんどん大きくなるんですかね?アオ様は」
常に私について回っているエレイフ。
私がひたすら机に向かっている間も、警護と称して傍らに控えている彼は、私の作業がひと段落すると、驚きと呆れを混ぜつつも楽し気に笑ってそう言った。
今は私室に二人きりなので、大分砕けた口調で軽快に話しかけてくる。
しかし、その顔はさっきの光の貴公子の余韻を引きずっていて、少しばかり硬い。
急に神様を呼び出してしまうものだから、心の準備も何もなく高いところから投げ込まれるかのような心境だ。と、よく言われるのだけど、なおしようがない所なので勘弁願いたい。
どうせ神様と会話してるの私だけだし。みんな遠巻きに眺めてるだけだし。
今回は珍しくカゴ探してくれたり、お花を挿し出してくれたりしたけどね。
今日もエレイフは頑張ってる。えらいえらい。と、心の中で褒めてあげる。
「私も、こんなことをするつもりはなかったはずなんだけどね。」
「天のお方に楽しみにしてて等と言う方、初めて拝見しましたよ。」
「え、そっちの突っ込みなの?別に、美味しいお菓子作ろうとしてるんだから、悪いことじゃないし、いいのでは。」
「いえ、言いたいのはそこではないんですが。」
「そうなの?まぁ、私と神様の会話については深く考えないのがいいよ。お茶会仲間だし。私のお菓子丸ごと勝手に持ってっちゃったのいまだに恨んでるし。」
「は?え?恨みって…怖いこと言わないでください。この世を支えられる一柱ですよ!?」
「私も、神様の事は好きだよ。」
にっこりとエレイフに笑って、そして、続けて言い切る。
「でも、それはそれ。これはこれ。」
そんな会話をしつつ、書き上げた企画書におかしなところがないか確認し、インクが乾くのを待つ。
いやぁ、仕事してるって実感があるなぁ。ほんと、あるなぁ。
憧れのチート開発者にはなれなかったけど、脱ニート素晴らしい!
お菓子の開発は、長身の料理人さんが中心になって行う事になった。
彼、新しいレシピに興味深々だったしね。
素材選びは、この辺りの特産品推しの大胸筋がっちりの料理人さんがする方向になっているので、この大教会周辺の土地への還元もばっちりだ。
二人の監督として料理長が目を光らせる事となっているので、話が逸れがちな二人でも安心というものだ。
開発したものの判定をするのは基本私という事になってしまったので、中央教会に行ってからはここで料理人さんたちが奮闘し、料理長が合格としたものを私に送ってもらい、そこからまた判定を返す流れとなっている。
料理長が合格にするものに間違いはないと思うんだけどね。
まぁ、私というか、聖女様お墨付きというのが重要なんだろうし、おいしい物が食べれるので私に否やはありはしない。
最終的に私が合格にしたものの内からいくつかを選び、今度はカーライルさん経由で土地に新しいお菓子の製法を降ろしていく事になっている。
その一方で、私が教会や王城へそれらを売り込み、事前に流通経路を確保していく運びとしているので、まぁ間違いなく売れるだろう。たぶんね。
聖女効果を信じよう。
オレンジのジャムとお気に入りの茶葉が品薄になる位の聖女様効果を…くっ…食べ物の恨みは怖いからな…私のジャムとお茶…。
ところで、お酒って何歳から飲んでいいんだろう?
味見用の小瓶まで貰ってすでにいくつか味見した後だというのに、まだ誰にも聞けないでいる私である。
タイミングを逃すとこうなりますね。
いつもいつも色んなタイミングを逃してる気がするけど、どこで誰に聞けば正解だったのだろう?
私にはさっぱりわからない。
「さて、私はアレクシスさんの所に行くから、一旦仕事に戻ってて。」
私はくるくると書類を巻きながら、エレイフにそう言った。




