これが聖女の経済効果…
申し訳ありません。
前回ここの話を飛ばして更新していました。
順番正しく入れ替えました。
計画をするには正確な数字が必要だ。
と、いうわけで、一応やることの方向性が定まった私は、情報収集のため、料理長を探して屋敷の中を歩き出した。
てほてほと歩いていると、みなさんが慎ましやかに私の進行方向からどいてくれるので、正直、お屋敷の廊下は気軽に歩きづらいんだなぁ。障害なくまっすぐ歩けるのはありがたくはあるんだけど、心に深刻なダメージが…。
当初、あまりにもしんどみが過ぎて、私は引きこもりまくった。それも今となってはいい思い出である。
何度聖女様と言われ、何人に傅かれようと、結局のところどこまでも庶民の私だ。決してこの現象に慣れた訳じゃない。
けど、これも彼らの仕事のひとつと思って尊重すべきという考えに切り替える事で、私は少しばかり自身の肩の荷を軽くすることに成功した。
要は見方の転換が大事って事である。
どうもエレイフと話すようになってから、その影響を受けつつあるようだ。と、こういう時に実感する。
振り返ってみれば、これまでの私は少しばかり考えの幅が狭まっていた様に思う。変えさせようとする人も居なかったし、人を避けていたから、誰かとの対話も極端に少なくなっていた。
こうしたちょっとした悩み一つ一つなどは、カーライルさんには言いにくかったし…お屋敷の持ち主にいうのは憚られる内容だから。アレクシスさんとかは、これはそういうものなのだからと言われかねないとも思うし…やっぱり育ちが絶対違うんだよな。いや、それは置いとくとして。
そこへいくとエレイフはと言えば…
「こうやってたくさんの人が自分に道をあける光景ってどう思う?」
一度そんなことを聞いてみたら
「みなさん職務に忠実に頑張ってるなと思いますよ。ご苦労なことだ」
「…それ、どういう気持ち?」
「嫌いでも好きでもやらなくてはいけない事を、ちゃんと感情を乗せずに出来るというのも、能力のひとつだなと。」
「エレイフの気持ちを聞いたのに、侍女さんたちの気持ちの方に寄せられるとは思わなかった。」
「はは、俺の正直な感想をちゃんと述べてたつもりなんですけどね。」
少しばかり口調に嫌みを混ぜつつ言われるけど、エレイフの言ってることは私に入ってきやすいところがある。それに、その視点はなかった。と、素直に思わせてくれる。
あまり印象のよい出会いはしなかったけど、こうして距離を縮めるとなかなかどうして得難い相手だなぁとしみじみと思うのだ。
彼ら自身の行動も、彼らの仕事だと思えば、お疲れ様ですという気持ちで心穏やかになれるというものだ。
私がどうのという話ではないのだからと。
そんなちょっとした心境の変化があった私は、以前よりもずっと過ごしやすい生活を送っている。
「料理長さんいらっしゃいますか?」
厨房にたどり着き、私は入り口から中をのぞきこみつつ声をかけた。
衛生面の問題や、仕事の邪魔をしてはいけないという気持ちから、私は下手に厨房には入らずじっと反応を待つ。
中からはすぐに料理人さんが ちょっとお待ちください。 と、反応を返してくれ、一人がバタバタと奥へと走っていくのが見えた。
「ゆっくりで大丈夫ですよ。」
私がにこりと笑うと、より慌てた様に頭を下げる料理人さん。
うーん。どうしてあげたらこれは緩和されるのかな。それとも、私が聖女としての実績を持つ限り無理なんだろうか。
でも皆よく見て欲しい。
自慢じゃないが私は、無一文のニートだ。
そう、仕事もしてなければ金もない。
その上、縁も所縁もないカーライルさんに養われている。
ヒモか?
あーでも、女性もヒモっていうのだろうか?
思考がまた迷宮に入りかけたところで、のしのしいかつい男性が奥から現れる。
「これは、聖女様。また何か作られますか?」
立派な髭を蓄えた巌のような料理長だが、にかりと笑うと愛嬌がある。優しい雰囲気が出るのは目尻のシワの効果かな?
個人的にめちゃくちゃ好感度高い料理長に私はにこにこしてしまう。
「そうなんです。ちょっとお願いしたくて。詳しい話をする時間はありますか?」
「今は暇ですから大丈夫ですよ。」
快く即答してくれる料理長さん。
ありがたい事だ。無理だけはしないで頂きたい。
私は手早く事のあらましを話し、希望と質問内容を伝えると、料理長さんも即座に質問に答えてくれる。
私が知りたいのは材料についてと制作時間の相談だ。
お屋敷で働く人の詳しい人数はまたノラさんに聞かなくては…と、私と料理長さんで話していると、周りの料理人さんたちがそわそわとこちらを見てくるのが視界に入る。
「もしかして、お仕事の途中でしたか?」
恐る恐る聞いてみると、料理長さんはバツの悪そうな顔でガリガリと頭をかく。
どうかしたのだろうかと思っていたら
「おめぇら、気になるならこっちに来い。」
おぉ、普段私には随分丁寧に話してくれてるけど、こっちが地だろうか。べらんめぇ言葉がよく似合ういかつい料理長さんに少し面喰いつつ、これはこれでとても良いと思います。そんなことを思いながらまたにこにこしていると、料理人さんが二人、互いに目を見合わせた後にそろりとこちらへやってきた。
その様子につい私は
「取って食ったりしませんよ。」
と言ってしまう。
お二人はそれにちょっと驚いた顔をした後、照れたように笑ってくれた。
それにしても、このお屋敷の料理人さんは、筋肉が無いとなれない決まりとかがあるのだろうか…。
料理長さんもなかなかに厳ついおじさまであるが、料理人のお二人も、なかなかどうしてムキムキである。
一人は背が高く、細マッチョ系だが腕の筋がすごい。
もう一人は身長はそこそこだががっちり体形で大胸筋が凄い。
二人を見上げる私としては、どちらの身長も高いんだけどね。
低身長からすると、どこからが普通の身長なのか、計り知れないので一定より大きい身長は総じてみんな『大きい』の一言に尽きる。
そこからいくと、カーライルさん、アレクシスさん、エレイフの三人も、もう誰がどれだけ身長差があるか私からは計り知れない。全員デカすぎるんだよなぁ。
もっと小柄な小動物みたいなかわいい子が友達に欲しい。
首が痛くならないような、真横を向けばかわいい笑顔が見えるような。
っと、かわいい子成分を欲しすぎて思考が横にそれたな。
「し、失礼します。」
どもりながらもやって来た料理人のお二人。本当に、そんなに緊張しなくてもいいのだけれど。
「その、聖女様が我々に手料理を振る舞ってくださると聞こえてつい。」
「宜しければ我々も微力ながらお手伝いさせていただきます。」
「すごくありがたいです。宜しくお願いします。」
緊張の面持ちのまま、はいっ!と、息ぴったりに返事をする二人に苦笑しつつ、私はまぁいっかと話を継続する。
「以前作った焼き菓子をまた作りたいのと、やはり、人によって好みがあると思うので、型崩れし辛いもので別の種類も用意した方がいいかなと思っているんです。」
以前作ったのはパウンドケーキのようなもの。この世界で呼ばれている名前はよくわからない。
オレンジジャムを上に塗って焼き上げたのは、神様に全部持っていかれたという悔しい思い出付きである。
おいしく召し上がって頂けたのは何よりだと思うけど。
「あの時のオレンジジャムですが、現在品薄であまり手に入らないんですよ。」
「え、この辺りの特産と聞いていましたが、地元でも手に入らないものだったんですか?」
私が目を丸くすると、いえいえ。と、筋肉のついた料理人さんが手を振って笑った。
「聖女様のおかげで、あの工場の製品は今飛ぶように売れているんです。」
「どういう事です?」
「天上のお方が賞賛された品という事で、以前はこの辺りで密かに火が付いている状態でしたが、王都に聖女様の名が届くと、各地から注文が来るようになったのですよ。」
最後は背の高い料理人さんが言葉を継いで説明してくれて、私は ほわーっと口を開いて変な声を漏らしてしまった。
知らぬこととはいえ、とんでもない事になっていた。
「聖女様が気に入られている紅茶も、現在軒並み品薄となっている次第です。」
何という事でしょう。
そうすると、最初に私が考えていた案がほぼまるっとつぶれる。
オワタ。
聖女の付加価値と経済効果について、私、今度調べる必要があるんじゃないだろうか。




