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聖女の付加価値たっけぇな?


 聞いた話を要約するとだ。


 この周辺地域の、とりわけ貴族の方からの福利厚生の一つに、主人が従業員にお茶などを振る舞う事があるそうだ。この世界に福利厚生って言葉はないけど。

 その日は従業員の皆さん揃って仕事はそこそこに、手の空いた順、または、そのお屋敷で決められた順に解放されたホールやサロンで普段では味わえないものを楽しみ、和気あいあいと砕けた交流をし、女性などはちょっとしたお洒落を楽しむのだとか。

 人によっては豪勢な食事を用意し、晩餐会を開く事もあるのだとか。

 ふむふむなるほど。


 しかし、私が振る舞おうとしているのは私の作ったお菓子なんですけどね?


 と、あまりにもやる事の規模が違いすぎて、頬が引きつりそうになる。

 それに、ここで皆さんに何かを振る舞うにしてもだ、金を出すのはカーライルさんだよ。

 私の金じゃないよ。

 人の褌ってレベルの話じゃない。


 懇切丁寧に話を聞かせてくれたエレイフには申し訳ないけど、参考にはならないのでは…。


 また、私の顔は無になる。


「アオ様なんて顔してるんですか。」

「いや、私ごとき素人が作ったお菓子を振る舞うだけだし、何をするにしても全てカーライルさんの懐から出るお金だし、皆さんへのお礼にならないと思うと、働いていない我が身が嫌になって来た。」


 虚空を見上げ、これがニートという物か…と、しみじみ思う。

 私、ニート向いてないわ。

 自分の金じゃないのにって、心底思うし、ほんと、一体どうしたら。


「アオ様が作り、アオ様がねぎらってくださった。という事に意義があるので良いのでは?」


 そこにどんな価値があるというのか。

 悪いが私本人にはとんとわからん。


「聖女様の作ったお菓子を食べ、聖女様から直接言葉を賜る機会を貰い、聖女様自らお茶を淹れてくださる。それ以上の価値ある事があるとでも?」


 返事をしない私の無言の反論を正確に汲み上げたかのような言葉。だが、その顔は別に私の心情や表情を慮っての物ではないと、私は気づいてしまった。

 ナンテコッタイ。

 こいつ、ただの盲目従者属性か?

 怖い怖い。

 それ、絶対バッドエンドフラグだから、早く捨てな?


「それ、小石を宝石ですよって渡すようなものだよね。」

「貴女が手ずから渡したものなら高価格間違いなしのパワーストーンになるんですよ。」


 詐欺ってこういう事だぞ。


「この辺りの民全員から羨望の眼差しで見られること間違いなしなので、ご安心ください。」


 安心とは何か。

 哲学か?

 私は、残念なものを見る目でエレイフを見上げる。

 エレイフ…あなたいつからそんな残念な狂信者属性になってしまったの?そっちの属性もあまり好きじゃないからお勧めしないよ。

 どうやったら再教育できるんだろう?こういうの。


「そもそも、それってお屋敷の主であるカーライルさんが皆さんを労って開くべき催しであって、私がしてどうするの。」

「持ち主が好きに使っていいと言ってるんですし、逆に言えば、ここの主はアオ様を利用しているという事でもあるんですから、心苦しく思うより、利用されてる自覚を持たれては?」

「利用ねぇ…。」


 カーライルさんからは程遠い言葉に思えるが、私も盲目的に信じ過ぎなのだろうか?

 それはさておき、良い情報が出てきたので私は少し笑顔になる。


「ねぇ、私がお茶会を催す事で、カーライルさんにどんな利益があるの?」

「…なんで嬉しそうなんですか。」


 ちょっとやな顔をしつつも、エレイフは律儀に話を続けてくれる。


「お屋敷に勤めているから聖女様の恩恵を受けられる。というのは、相当な利ですよね。人は心で生きているものだ。というのが私の見解ですけど。日々のお給金の他に、心満たすものがあればやる気も出ますし、仕事の効率も上がります。忠誠心の向上というのも、大きな付加価値です。」

「そう考えると、お茶会をするのはカーライルさんへのお返しにもなるのか。」


 なるほどと私は頷いた。

 ここまでで、相当な金額を積んでいただいている私である。返せるものがある気がしなかったのだが、これはもしかしたらチャンスかもしれない。

 例え財布の持ち主がカーライルさんであったとしても。例え聖女という怖い肩書きを利用する物であったとしても。


「いい話を聞けたわ。ありがとう。エレイフ」

「貴女の力になれるのが俺の幸いですから。」

「うん。そういうのはいらない。」


 えー という顔をされるが、冷たくあしらっておく。じゃないと際限ないからな。この男。


「アオ様は、俺にだけ厳しい。」

「他に返しようがない事言うからだよ。エレイフ自身にはそれなりに好感持ってるよ。」


 途端、ぱぁっと輝く笑顔。はいはい。爽やか爽やか。かわいいかわいい。

 背が高すぎて頭は撫でてあげられないが、二の腕の辺りをパシパシ叩いておいてあげた。


「聖女信者じゃなければ、いい人なのにねぇ。」

「アオ様に命を捧げているので信者ではなく、貴方の騎士ですよ。」

「それもねぇ…。私はエレイフとは友達になりたいかな。」

「それについては喜んだらいいのか…悩むところです。」

「私を信じていいよ?」

「…考えておきます。」


 なぜ友達じゃダメなんだろうね。

 できる限り友達を押していこうと心に決めつつ、私は再度考える。

 さて、このヒントを元に、あまり人を煩わせずに済んで、そして、みなさんに喜んでいただける事を考えねばだね。

 久しぶりの企画書作りだ。

 仕事をしていないこの身だからこそ、腕がなりますね。


 私はうきうきと部屋にあった真っ白な紙とまだ使い慣れない羽ペンを持ち出すのだった。




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