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騎士の誓いとか重すぎる…



「騎士、エレイフ・ゼイル。この地を見守られる天上のお方へ、お誓い申し上げる。我が剣、我が命、聖女アオ様をお護りするため在り続けんことを。これは魂の誓い。アオ様の騎士が如何にあろうと、この誓いは永久にアオ様のもとに。」


 真剣な視線と、神聖な言上げ。

 突然のことに言葉なく固まる私になどかまわず、エレイフは頭を垂れる。


 夜闇の中、エレイフの言上げの余韻が静かに消えると、すっと、天から一条の光が降りてきた。

 そして、ふわりと美しい姿が舞い降りる。


「…かみ…さま…?」


 驚くべきことに、この土地を見守る光の貴公子が、私とエレイフの間に降り立ったのだ。


「…っ!天上の…」

「騎士の誓い、この地を預かる我が聞き届けた。誓いの証をそなたに。我らが主神の願いの聖女を、二心なく守り続ける限り、この剣は騎士と共に。」


 エレイフは激しく動揺したが、何とか膝をついた姿勢を崩さず、光の貴公子が天から降ろしたように見えるひと振りの剣を、恭しく両手で受け止めた。

 剣がエレイフの手に渡ると、光の貴公子は私へと振り返り、どこか思案げに私を見下ろしてくる。


「どこへ行こうとも、いつでも我に祈れ。そなたの祈りは、必ず届く。」


 光の貴公子の言に少し驚いたが、光の貴公子は神様だ。私が、中央教会に行くのをわかっているのだろう。

 私は余計なことは言わず、ただこくりとその言葉に頷いた。


「ではな」


 光と共にまた天へ帰っていく。降臨してからお帰りになるまでの時間は、今までで最速の記録ではなかろうか。

 その虹彩の最後のきらめきが消えるのを、私とエレイフはただじっと見守っていた。

 私は、祈らなくても神様が降臨する事なんてあるんだ!?って、正直心底びびっている。

 今は奇跡とか、ほんとすみませんって感じのメンタルなんだけど。

 でもこれは、今回は、エレイフが呼んだんだから、ノーカンだよね!?ノーカン!

 私は呼んでない。

 全然呼んでないから。

 これはエレイフが呼び寄せた奇跡だから。うん。


 当のエレイフはといえば、剣を捧げ持ったままピクリとも動かずにいる。

 私は何も言わずそれを見守る事にして、黙って座っていた。だって…なにを言えば良いかわからない。

 そんな感じでちょっと指先が冷えてきたなぁと思う頃、ゆるりと剣に視線を落とし、やっとエレイフは立ち上ったのだった。


「騎士の誓いが、神に届いた…」


 呆然とした声がこぼれ落ちる。擦れた声に、高揚感が混じり合ったような響き。

 良かったねと思う反面、いやだから、何でこの世界の人々及び神々は、こうも急展開なんだ?と、心底問いたい。問いただしたい。


「アオ様のお陰だ…」

「何でやねん。」


 私は思わず突っ込んだ。


「その剣は、エレイフの誓いが二心ないものだったから、神様がくれたんでしょ。」

「アオ様が、天上のお方が見守る聖女様だからこそ、騎士の誓いに恩寵をお与えくださったんだ。」

「何でそうなる…」

「アオ様こそ、聖女である自覚を持ってください。」

「敬語も敬称も勘弁してよ。」


 さっきまで軽妙なトークを繰り広げてた仲なのにいきなりどうした。やめてくれ。

 もっとフランクに行こうぜ。フランクに。


「それに、何でいきなり誓いなんてし始めたの…」


 脱力し、膝の上に突っ伏する。

 勘弁してほしい。

 誓いなんて要らないよぉ。


「許可を得ようとするからのらりくらりと逃げられるんだなと思いまして」

「おいおい何だと?」

「それなら、自分の事ですし、自分自身と天なる方へ誓えば良いかなと。」

「嘘だろ。フランク過ぎかよ。」

「しかしこれで、私が嘘偽りなくアオ様の為に在る事が証明されましたね。」


 今世紀最大の、欲しくなかったものナンバーワンじゃい。ばっきゃろー。

 月明かりの下、最大限爽やかで素敵な笑顔の騎士様を、今とっても殴りたい気分です。はい。


「何の力もないのに期待されても困るんだって…」

「なるほど、先程からのお悩み事はそれですか。」

「敬語やめろ。」

「しかしながら、祈りとはすなわち、結果です。結果が全てなのです。アオ様は、結果を出されたので、今、敬われてる。ただそれだけの事です。」

「だーかーらー。敬語はやめて!あと、私はエレイフには何もしてないから。」


 半ば涙目になってきた私に、エレイフはきょとりとしたあと、仕方ないやつとでもいうように笑った。


「本気です?まぁ…今は希望を聞いてあげるかな。了解。アオ」


 ほんとに、どこまでも態度がでかい弟みたいなやつである。


「まぁ、そういう悩みなら、解決する術はないと言わざるを得ないな。」

「わざわざそんなこと言わなくていいよ。」

「すねるなって。アオ」


 ほら。 と、差し出される手に、ぱちぱちとまばたきをし、見上げる。


「もう遅いから、そろそろ寝なって。」

「…わかった。」


 私は大人しくその手に手を重ねて立ち上がり、ひっそりと部屋へと戻った。

 少し、心が軽くなったのは、フランクなエレイフのお陰だった。



 次の日の朝、支度をして玄関に行くと、エレイフがにこにこしながら外に立っていた。


「お待ちしておりました。我が主。」


 ハートが付きそうな上機嫌さで紡がれた言葉に、鳥肌がたつ。


「え、きもちわる」

「淑女はどうされたんです?淑女は」

「や、だってもう、今さら…」

「ダメです。外には人目がありますから。それでなくとも我が主は、気持ちがすぐ漏れるのですから。」


 ほらほら、朝のお散歩の時間なのでしょう。と、背中を押され、厩へと向かわされる。

 嘘でしょ。待って。

 お前ついてくる気か?

 いやいややめろし。アレクシスさんがいるし、なんて説明したら…


 とかなんとか無意味な抵抗の末、厩へ辿り着いてしまう私。と、笑顔のエレイフ。と、馬を連れたアレクシスさん。と、エレイフの馬の準備をしてたらしい騎士さん。4者がかち合うこの場所のなんと空気の悪い事か!

 私と騎士さんが心底気まずい顔してるのにお気づき頂きたい。

 そして、この場を解散して欲しい。

 頼む。


 そんな私の必死の願いは、儚くも消え去る運命にあるのだろう。


「アオ様、どのような経緯で第4大隊長殿とご一緒されているのか、お伺いしてもよろしいでしょうか?」


 硬質な口調で、アレクシスさんがそう、質問してきたからね…。


「はい。すみません。」


 他に言葉が思いつかず、ただ私は謝罪した。

 祖国の癖って治らないよね。


 あぁ、塩鮭食べたいなぁ。



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