下心の交流…いやこれは情報収集だから
「アオ様はお部屋から出ない様にお願いします。」
と、部屋に押し込まれる事約2時間。
状況がわからないのでとても落ち着かない私と、それをなだめようと柔らかい香りのお茶を入れてくれる侍女さんたち。
向こうの状況を教えて欲しいとお願いする私のために、ユナさんやマリエさんが代わる代わる部屋にやってきてくれるが、どうやら話は平行線をたどっているらしい。なんてこったい。
くわしい状況把握はままならないが、出入りしている人から情報収集はできるので、落ち着きを取り戻した私はそっと、ユナさんに聞いてみた。
「護衛騎士について、詳しい方っていらっしゃるかしら?」
一応、淑女教育を生かして口調を整えておく。じゃないとこの後呼び出された時にスイッチを入れられなさそうだ。それは困る。
せっかく練習に付き合ってもらってるのに、アレクシスさんにも申し訳ない。
「教会の事情に一番詳しいのはやはりカーライル様ですが…」
ユナさんは少し困った笑顔で答えてくれる。そりゃそうだ。
私も苦笑して、さて何て聞き出そうかと首を捻る。
さすがに何にも知りませんとは言ってはいけないだろう。みんな嘘だと気づいているだろうけど、私はカーライルさんの親戚として紹介されてここにいる。私は親戚。つまり、私はこの世界の常識程度には教会の事を知っていないとおかしいのだ。
護衛騎士が一般教養の範囲内かどうかなんて知らんけど。
「ユナさんの知っている事、聞いてもよろしいかしら?わたくしの知識だけではもしかしたら偏りがあるかもしれないと思うの。」
途中からお嬢様の口調がゲシュタルト崩壊しそうになるけど、気にしてはいけない。私は聖女。私は尊い。よし、行ける。
「私でお役に立てるのでしたら」
「えぇ、お願い。」
「では…護衛騎士様は、中央教会に属していらっしゃる直属の騎士隊の方々でいらっしゃいます。普段は、教会騎士と名乗っていらっしゃるのですが、聖人、聖女、神子といった方々が現れた際、その方々直属の騎士となられた隊の方だけが護衛騎士と名乗る事となるのだそうです。」
「そうよね。なのになぜ、あの方々は護衛騎士と名乗っていらっしゃるのかしら?」
あたかもユナさんの語った内容を知っているかの如く相槌を打ち、もともと疑問に思っていましたよと言わんばかりに口にする。私、嘘で天罰でもくだらないかな。大丈夫かな。
「それは、私にもわかりません。護衛騎士様がどのように決まるのかまでは…カーライル様であればご存知だと思うのですが。」
「ユナさん、気にしないで。わたくしの知っている内容が間違っていなかったとわかっただけでもありがたいわ。」
さて、問題です。
護衛騎士とは、一体、『誰』の『護衛騎士』か?
私?いやいやまさかー。
って思うけど、そのまさかの可能性があるから怖いんだって話だよね。そうだよね。
護衛騎士が私に突撃してくる前に、私はカーライルさんと話がしたいよ。変な事言って事態をこじれさせたくないよ。こわいよー。ひええええええええ
内心涙目で私はただただカップに口をつけ、音をたてずに静かに静かにお茶を飲み干す。
「ユナさん達がいつも過ごしやすい様に気遣ってくださるから、心地よく過ごせているのです。わたくし、感謝しているんですよ。」
にっこりと、私のできる限りの会心の笑みをユナさんへ向ける。
せっかく珍しく会話できているからね、しっかりと好印象をもってもらいたいじゃない。なんて下心満載の私。
いや、だっていつも思っているのだよ?
お屋敷の侍女さんたちほんとかわいいのよ。できればほら、仲良くしたいと思うのは当然じゃない?
「騎士様のこと、話してくださってありがとうございます。」
下心等ありませんよとでもいうように、私はゆっくりとカップを置く。
さて、目下の問題へ戻るが、結局のところ私がいくら悩んだって意味はない。
私の希望とは全然別のところで物事は動いているんだし。当然なんだけど。こうしてただただ待ってるしかできない。
正直しんどい。
「そういえば、中央教会に今いらっしゃる聖女様って…」
「あぁ、2年前に西の地方教会から中央へ呼ばれた方がいらっしゃるという噂ですが、あれ以来、お役目を果たされているという話も聞こえてきておりませんね。」
なるほど、聖女様いるのね。しかも、中央教会へお呼ばれしていると。
その聖女様、かわいいのかな。ちょっとわくわくする。だって、聖女様だし。
「2年も話が聞こえてこないということは、もういらっしゃらないのかしら。」
「生まれた土地へお帰りになる事もございますが、そういった話も上がってはないのです。」
「そう…」
その聖女様の騎士様が来るなんてことあるんだろうか?
教会騎士の中で聖女様直属になった隊だけが護衛騎士と名乗るのだから、一番守るべき聖女様のそばから離れて迎えになんて来るはずがないのではないだろうか?と、考えるとやっぱり私の騎士だとでもいいたいんだろうか。
しらんがな。
勝手に人の専属におさまるのはやめて欲しい。
うんざりと肩を落としかける私のもとへ、コンコンとノックの音が飛び込んできた。
もしかしてカーライルさんたちだろうか。と、少し期待して腰を浮かしかけつつどうぞと声をかける。
開く扉を凝視したが、入ってきたのは執事さん。その後ろからワゴンを押した侍女さんたち。
「失礼いたします。カーライル様より、本日はこちらでお夕食をとっていただければとご伝言をお預かりして参りました。」
期待したものとは違う言葉。
私はこの世界に来て初めての、一人の晩餐を楽しむことになりそうだ。




