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呼んでないのでお帰りください


 光の貴公子が祝福という名のひと悶着を残していってくれたおかげで、私のライフはがっつりなくなったわけだけど、興奮状態となったお屋敷の人をカーライルさんが鶴の一声で即座に治めてくれた光景は私の心に強く残った。

 カリスマというものにとんと縁のなかった人生だった。生まれて初めて目にした光景に、感動以外浮かぶはずもなく。私はただただ感嘆のため息を吐き出した。


 遅くなってしまった夕食の後、私はまたカーライルさん、アレクシスさんの二人と話しをした。

 祝福の件はさておきだ。私にはもっと差し迫った案件があるのだよ。そんな時になんで光の貴公子呼んでんのかな私。最近あれやこれやあってほとんどお呼び出ししてなかったのに。ちくせう。


 という反省はさておき、二人の意見と自分の考えを総合して、私はカーライルさんに後見人をお願いすることにした。

 そして、懸念していたもう一人の後見人は、カーライルさんとは全然違う派閥の方が良いだろうと、アレクシスさんが確実な人に手紙を書いてくれるという事になった。

 これから手紙を出すというのに、断られる可能性を排除した言い方がとてつもなく気になったけど、気にしたら負けな気もするし、何よりアレクシスさんについては言及しない約束をしているので、私は華麗にスルーを決めた。それはそれは華麗なスルーである。決して元々人の背景を掘る会話が不得意なわけではないからな。うん。違うから。

 二人は仲がいいのかなと思っていたけど、派閥とかそういうの、違うのか…と、私はそこに驚いた。二人が言うには、そもそも在籍している教会がどこかでまず所属の違いがあり、そこからまた派閥がどうのという事になっていくらしい。そして、地方の教会はそれぞれ一番近くにある大教会の傘下にあるというから、中央と6分された地方という感じなんだろう。

 そりゃあ、中央所属のアレクシスさんと、大教会管理者のカーライルさんじゃ全く違うわけだなぁ。

 その上、家のつながりとかも影響してくるという。ややこしい。教会だけならすんなり行くのに、お家関係とか勘弁して!

 その辺りは難しい話しだからわからなくとも仕方ないですよ。と、カーライルさんも言ってくれたので、まぁ、うん。最終的に一般人ではわからないのを許して欲しい。


「後見人についてはいいとして、アオ様のご意思を確認したいところですね。」


 小難しい話しはさておいて。という体で、アレクシスさんが切り出した。


 あーうん。そこですよねー。

 私がどうしたいのか。

 正直私も、どうしたらいいものかわからない。という感じはある。

 けど、人様の事情に巻き込まれたくない。というのが一番でかい。

 私の様な一般人育ちでは、陰謀に飲み込まれても太刀打ちできないし、誰がどこで糸を引いてどんな意図で何をしているかとか深読みできないし、分かった所でどこをどのように治めるのが正解かとかもさっぱわからん。


 でも方針を決めないとなぁとはわかっているのだ。


 うーん…と唸り、ため息をはく。


「私も、何を基準に考えたらいいのか結局考えあぐねているんです。そもそも、この世界でどうやって生きていくかも考え始めたばかりだったので。」

「聖女様自身、こちらの世界に来てまだ3か月程です。わからない事の方が多い中では、決断も難しい事でしょう。」


 私を思いやってくれる眼差しが向けられる。嬉しい反面むず痒い。


「都度方向転換していく前提で、我々もアオ様の意思を尊重します。」


 ぐるっと回って結局スタートに戻ってしまっている私の煮え切らない意思に喝を入れてくれつつ、上手くレールの敷き方を示唆してくれるアレクシスさん。

 ここで一つくらい自分の気持ちを固めなきゃ、あれはやだ、これはやだとか並べてる場合じゃない。わかってる。

 ぎゅっと手を握って顔を上げる。


「私は、誰にも利用されたくない。自分で生きていく方法が欲しい。」


 聖女というものに胡坐をかけば、いくらでも働かずに生きていけそうだと思う。この三か月間実に見事なニート生活だった。

 しかし、それは人の用意してくれたお城だし、自分の思ったように生きてるとは言い難い。

 何より、人の手の平の上にいれば、その人の思惑で踊らされてしまう。


「今は完全にカーライルさんに養ってもらっていて、自分で何も生計を立てられていないけど、自分の力で生きていきたい。と、いうのが今漠然と思っている私の目標です。」


 本当に、漠然としすぎなんだけどね。


「なので、中央教会の聖女だと言われるのは嫌です。」


 今はっきり言える部分はここだけ。


「どこに属するか。自分が何になるのか。この先見聞きしたもので決めていきたい。それが、今の私の意思です。」


 二人はそれで良いという様に頷いてくれた。


「今はそれだけわかっていれば十分です。」

「中央の思惑に乗らない、おもねらない。となれば、基本、カーライルの管理する大教会に帰るという姿勢を貫くのが良いでしょうね。」

「でも、またカーライルさんに負担がかかるのでは…」

「わたくしは、聖女様をお守りすると、であったあの時より決めております。どうかおきになさらないでいただきたい。」


 だから、それ、それなんだってぇぇ…。心の中で叫ぶけど、その心が通じるはずもない。ううう…


「アオ様は常にそれを気にされてますから、カーライルは貴族として後見人につけ、中央教会の者にもう一人の後見人を頼む形で考えております。あまりこの大教会に比重が片寄らないようには配慮しましたからご心配なく。」


 ありがたすぎる伝心っぷりに感激してしまう。アレクシスさんんんんっ


「どうせ身の回りの事はカーライルがやりたがりますから、あまり変わらないとは思いますが。」


 一瞬であげて落とされた。

 なんでや、アレクシスさん。


 そんなやり取りを交えつつ、今後の準備を話し合う。

 

 まずは、私が馬に乗れるようになるのを重要事項として盛り込む。それと共に、地理の把握や、方角を確かめる術、距離感のつかみ方だとか、旅に必要な知識を習得しなければならない。

 人間関係の把握もできればしたいけど、家名を覚えるのが果てしなく苦手なんだよねぇ。どうしようって顔をしていたら、アレクシスさんから、なるべく覚えてください。と、苦言を呈された。

 おぅ…さすが家庭教師様。苦手分野に颯爽とくぎを刺してく。

 ごまかすように笑っておく。心の中で、善処します。と、唱えながら。

 知識とは別に、できれば身につけておいた方が良いですよと言われたのがマナーである。こっちは完全に見栄の張り合いの様なものだが、相手になめられない様にするためにも、隙を見せない様にするためにも、できていた方が良いという話しで、私はなるほどと頷いた。

 扱い易しと思われてはかなわない。ただでさえ今は見た目年齢も若いわけだし。

 そうして必要な期間を捻出するための作戦は結局のところアレクシスさん、カーライルさん頼みで解散となった。


 と、案外やる事が盛りだくさんな事が判明した私です。

 寝る前に気づいたけど、もしかして、淑女教育開始したという事では…!?

 気づいた時には時すでに遅し。なるほど必要ですねー。って答えちゃった後だよ私!なんてこったい。

 ショックがでかすぎて、呆然としながら現実逃避の様に私は布団の中に無心でもぐりこんだ。

 全部中央教会のせいだ!うわぁぁんっ


 次の日、目覚めると早速乗馬服が届けられましたよ。わーい。仕事がはやーい。

 つか、服ってこの世界、そんな直ぐできるもんじゃないよね?わからんけど。

 あとなんでドレスが一緒に贈られてきてるの。おかしい。おかしいよ。誰だ。いや、どっちだ。私のところに送り込むドレス何て作ってたやつは。

 晴れやかな顔でソファーへとそれらを並べる侍女さんたち。あぁ、すごい笑顔がかわいいです。

 でも、着ないよ?

 って思いながら乗馬服に着替える。なんで乗馬服私の体格にピッタリなんだろう。

 編み上げブーツを履き、髪型は全てお任せコースでお願いする。


 いつもの簡素な運動用の服装と違ってすごくセレブーな空気を放つ乗馬服は、襟元からふわりと広がるレースがとても上品かつかわいくて、かっちりとした上着は華やかさを抑えていていいバランスだ。ウエストをきゅっと見せるハイウェストなパンツは、腰回りは少しゆったりしていて動きやすいし、ブーツの中に裾を収納するからだぼっと感もなくすっきり見える。

 いつもと大分違う仕上がりに、今日髪を結ってくれたマリエさんはうっとりした顔で素敵です。と言ってくださった。

 私も逆の立場だったら人様のお着替えにうっとりできただろうに、着替えてるのは自分である。

 このポジション、ほんと慣れない!恥ずかしい!いたたまれない!

 でも、ありがとうってちゃんと言える人ではありたい。

 必死に笑顔を意識しながら


「今日もありがとう。マリエさん」


 と、お礼を言って外へ繰り出した。


 はじめての乗馬は、はっきり言って怖かった。高さがまず怖い。そして、相手は馬!怖い!自分の体のバランスを馬の動きに合わせて何とかするのもハラハラする。

 しかし素敵な事も判明した。

 それは、この体の取り扱いが前よりずっとわかってきたってことだ。

 走るのも、側転も、やってみてはじめてこんなことができるんだ!って感動したけど、馬に乗ってもバランス感覚が最高によろしいのだよ。このお体は。

 きっとチャリもすぐ乗れる子だな。この体。

 って、私なんですけど。


 そんな感じで、案外とすんなり進んでいる乗馬訓練は、最初こそ午前中にガッツリ盛り込まれていたけど朝の運動時間だけに変更となっていった。お陰で午前は地理のお勉強、午後はマナー訓練というスケジュールに組代わり…正直、ハードモードなんですけど…どうしてこうなった?


 乗馬服と一緒に送り込まれたドレスとコルセットは、午後の私の戦闘服と成り代わりました。チーン…


 頭も体も酷使して早半月。

 マナー訓練の合間のお茶の時間が私にとっての至福の時間。そう、例えこれが、淑女のお茶会を想定した訓練時間であったとしても。

 お菓子をつまんで食べても良いし、紅茶を楽しんでも良いのだから、まだ、楽しい。ご飯の、テーブルマナーの厳しさやたるや!!!

 美味しいご飯を美味しく食べないなんて、食への冒涜だと思うよ!?

 心の中の罵詈雑言はさておき、しずしずと私は菓子をつまみ、喉を潤す。


「このチョコレート、いつもとお味が違いますわね。」


 口調も矯正されてます。はい。


「先日、聖女様へと街の商人より届いた物と伺っております。なんでも、これから流通させる予定の新商品とか。」

「まぁ、おそれおおい…じゃない、ありがたいことですわ。」


 言葉選びで自身を卑下してはならない。厳しい縛りが私をさいなむ。クソつら…。

 ごまかすようにゆっくりと紅茶を飲む。はーおいしい。

 ゆったりとした時間の中、たゆたっていられたらなぁ…なんて、詮無き妄想を繰り広げる私の耳に、聞いたことの無い音が遠くから響き届いてきた。


「…何の…音でしょう?」

「馬の蹄ですね。それも、複数の。午後のレッスンは中断しますよ。アオ様」

「は、はい。」


 緊張をはらむアレクシスさんの声に、私の心臓は速度をあげる。お屋敷の中も騒がしくなり、動いていく状況が意識の外で理解できないままに加速していく。


 いったい何が…と立ちすくむ私に、それは訪れたのだった。


「中央教会より参りました護衛騎士。エレイフ・ゼイルと申します。聖女候補様をお迎えに上がりました。」





いつもより長めになりましたが駆け抜けました。

しかし新キャラが出たとは言いがたいような?



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