すぐそうやって奇跡になるー
さて、それから私はアレクシスさんともう少し話をし、夕食の後に3人で再度話がしたいとお伝えして一旦お開きとした。
何かもう、いろんな情報やら、人と話した疲労やら、気疲れやらなんやらかんやらで今日は既にへとへとだ。
部屋に一度戻り、へろへろとソファーに埋まると、ズブズブと意識が沈むのがわかった。
あ、これは不味いなと、少し踏ん張って一度体を起こし、なんとか部屋の入り口へとたどり着く。廊下をのぞき見れば、すぐ近くに働く侍女さんがいらっしゃった。
私の奇行にすぐ気がつきやって来てくれる侍女さん、優しすぎか…仕事中に申し訳ない。
しかし、もうだいぶ眠気が限界でやばい。
私は少しふわふわした状態で、何とか夕飯の時間に起こして欲しい旨を伝えて部屋へとまた戻ったのだった。
再度沈み混むソファー。
一人がけのソファーだが、それなりの広さがあるそこにすっぽりはまるように丸くなると、それはそれは心地よくて、全体の包まれてる感の幸せと安心感がはんぱない。
幸せ…
あぁ…
ソファー…
最高…
素晴らしい…
眠りに落ちながら、更に心地よい温もりに包まれたような気がしたがよくわからなかった。
ふと、目覚めたら柔らかい光が見えた。
寝てからそんなに時間が経ってないのかなとふわふわしながら窓に目を向けたら一番星…って、まって。どういうことかな。
がばっと身を起こすと、ソファーのひじ掛けに優雅に座るきらきら貴公子と目が合った。
「えっはぁぁ?」
「こういう時は、おはよう。と、言うものであったな?おはよう。」
「おはよう…ございます…」
久しぶりの光の貴公子。
本日初めて気づいたけど、神様がいるとあったかくて心地良い。
「久しぶりですね。」
「そうだな。そなた、主神の加護が強くなったのだな。」
「おかげさまで。」
光の貴公子は御印のある額をそっと撫でて来た。
女神様とも違うが、なんだかとても心地良くてふふふと、笑いが出た。
「女神様、やっぱりとても麗しかったなぁ。」
「そうか。主神の喜び様が目に浮かぶ。」
「女神様と顔を合わせたりしないの?」
「我らは多世界にまたがって存在する。人の子の感覚でいえば、数十年お会いしない事もあるのだ。」
へぇーと、私は息を漏らした。
広い世界であまり顔を合わせない神様達は、寂しくないのだろうか。
むしろそんな感じなら、こんな風に毎週毎週顔を合わせてる方が煩わしいのではなかろうか?
「私、神様の事呼びすぎですね。」
「気にすることはない。そなたと過ごす時間は我にとっても宝であるのだから。」
大げさな…と、苦笑しそうになった私に、ガタリッと、大きな音が届いた。
どうかしたのかと音のした方を見やれば、さっき起こして欲しいとお願いした侍女さんが入口で立ちすくんでいた。そして、ゆるゆると両頬に手を添え、顔を赤く染めて、涙が浮かびあがっていく…あの顔は知っている。知っているぞ。
「き…奇跡…」
ボロリと、大粒の涙がきらきら光りながら落ちて行った。
「聖女様…」
胸に両手を置き、ずるずると床に崩れ落ちてしまった。何という事でしょう。私を起こしに来てくれた侍女さんは、扉を開けたところで床にぺたりと座り込んで歓喜に打ち震えている。
あぁ…侍女さんよ…貴女が扉のストッパーになってしまっている為に、廊下の向こうから何人かが何かあったのかと駆けつけてきているよ。頼む、扉を閉めてくれ。
「神様の効果が凄すぎる件について」
「そなたの祈りの結果だ。」
「はぁ、何か申し訳なくなる。」
「もうしわけない?」
「大層な人間ではないので、だましている様な気分だなぁって」
遠い目をしながら、増えていく人だかりと歓喜の顔を眺める。いたたまれない。
「ここのお屋敷の人たち、本当にすごいんですよ。レベルの高い事要求されてて、それをちゃんとこなしてて、それで、すごく優しいんです。たくさんお世話になっているんだけど、私に返せるものが何もない。」
がやがやとなっていく廊下の向こうから、カーライルさんの声がした。
「ここのお屋敷の統率を取ってる方が、この辺りの教会の管理もしてるんです。勤勉な方だし、すごくよくしてくれてて。」
もっと早くにちゃんとこの世界で自分で生きるための方法を考えればよかったなって後悔してるのは、カーライルさんに何かを返せるようになりたいという気持ちが芽生えているからでもあって。やっぱり、申し訳なさが募る。
人の波が割れて、青い目と目が合った。
「あれが我が教会管理者か。」
「はい。綺麗な青い目の方がそうですよ。」
神様を見上げると、精悍な笑みでその手が頭を撫でてきた。基本、私に触れる事などないのに、今日はよく触れてくるなと、不意に思った。
「我が聖女がこの世界を受け入れるきっかけとなった者達のその勤勉な姿勢に、祝福を。」
とりまく光が強くなり、その中に貴公子の姿は霞み、消えた。
言葉が耳に残っている。
虚空から部屋の出入口へ、視線を向けると、多くの人が驚いた顔で虚空を見上げていた。視線の先には、キラキラとした光の欠片。光はふわりと舞って消えた。
そこでようやく気が付いた。
神様は、この目の前の人たちへ祝福を与えた。もしかすると、屋敷中の皆さんに与えられたのかもしれない。
でも待って神様。
私、皆さんに何か返したいとは言ったけど、神様の祝福は私の力じゃないから、私、こんな…みんなに奇跡!って目を向けられても困るんだって。
私じゃない。ちがう。やめてくれ。私もそれは望んでなかったから。
えぇい、何でもかんでも奇跡にするな。
ぐっすり眠って回復した体力はこの一瞬でがっつりそがれた。
ライフは…ゼロです。
もうやめてぇぇ…




