一般人にはしんどみが過ぎる
結論から言うと、その日は結論を出さない。という事にした。
考えるための素材が少ないから冷静に情報収集がしたいし、カーライルさんとアレクシスさん、できればそれぞれ別に話を聞きたい。
二人はそんな私の要望に頷き、一日だけ猶予をくれた。
貴重な一日。
なぜ一日だけかと言えば、出発を遅らせるにしろ、手紙を出すまでに時間をかけすぎればせっつかれるし下手をすれば迎えを寄越されてしまうと言うことで、私は明日の昼までによくよく自分と向き合わねばならなくなった。
っていうか、自分の人生をよく考えて決めなきゃと思ったばかりなのに、決める前にビッグウェーブが来やがりましたよ。どんな嫌がらせなの?
中央教会ギリィ…
いや、やらかしたの私ですけども。
と、そんなわけで私はとりあえずカーライルさんと二人、膝を付き合わせることにした。事が事なだけに、日中にも関わらずカーライルさんは本日はお屋敷にいる。
そして、私はカーライルさんの執務室にお邪魔することとなった。これまで全然お邪魔したことの無いカーライルさんの執務室。
深い茶色の皮のソファーに、重厚なテーブル、重厚な執務机。並ぶ本棚も同色でどっしりとしている。なんというか、とても渋いチョイスだが、落ち着きと趣きと重厚感のある素敵なお部屋だ。
勧められるまま座ったのは、カーライルさんの正面におかれたソファー。
「ここから中央教会まで何日くらいで着くものですか?」
「早馬なら一日かかりませんが、馬車なら2日~4日程でしょうか。馬車の速度によりますね。」
「案外遠くないんですね。」
思ってた以上にここは王都に近い土地だったらしい。もう少し距離があるのかと勝手に思っていたので少しビックリした。
カーライルさんやアレクシスさんに、この世界のことを教わってはいるが、土地勘はさっぱり無い私である。そこは行く前の改善点だなと、カーライルさんにもらった紙にメモをしておく。
不思議なことに私の文字は、私が日本語で書いている意識なのに、気付くとこの世界の文字に変化するようになってました。前はこんなこと無かったのに、女神様の恩恵なんだろうか?おでこの印を意識すると頬が熱くなるので、慌てて意識を散らす。
元々会話や本を読むことに苦労はしなかったけど、文字だけは覚えなきゃと後の課題として心に止めていた事柄だったので、ありがたいような、ずるをしてしまったような…そんな気持ちにもなったりはする。
それも、考えない様に振り払う。
と、また私は話がそれてしまう。
「その距離なら、王都へ話が流れやすいのも頷けますね。」
「王都にある中央教会、それから王都を囲むように6ヶ所の大教会があり、そこから更に国の外側に24ヶ所、地方の教会があるのです。それぞれの教会は行き来がしやすいようまっすぐ道が整備されているので、他の町へ移動するよりは王都へ早く移動ができるのです。」
なるほど、純粋な距離と言うよりは環境故と言うことか…あれ…
「カーライルさんの管理されてる教会って、大教会…?」
「その通りでございます。」
にこりと微笑み、さすがお気づきになるのが早いですねと誉められるが、逆に3ヶ月もお世話になってる環境を理解してなかったことに物申した方がいいのでは?と、自身のことながら思うのだが…。
ほんとに私はこの世界についての知識が浅いし少ないし片寄ってるっていう三重苦…辛い。
「このまま中央に無策で行った場合、偽物として誰かに強く言われたり奸計に嵌められたりする可能性はどの程度あると思います?」
さっきは害されるなんてあり得ないという態度を見せてはいたが、実際のところが知りたいのと、カーライルさんから見た私の環境を知りたくて、私はこの質問をした。
嵌めたいと思う人がいるということは、政治的理由か、派閥的な理由が発生する環境が私側にあるということになる。
「それは…一言で表すには難しい質問ですね。」
やっぱり、そういうことはカーライルさんから聞くのは難しいだろうか…。
私…というか、聖女というものに対して神聖視しすぎな節が多大にある人だしなぁと、そこについては置いておこうかと思ったが、その顔は、そういう理由での悩みを浮かべてはいなかった。
「聖女様、ご質問の内容の前に、私からお話しさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「むしろ、大歓迎です。教会の事で何か教えてくださるということですよね?」
「左様でございます。」
にこっと笑ってカーライルさんは私に聖女が現れた時のこれまでの教会の動きについて教えてくれた。
聖女が現れた場合、教会はそれがただの噂なのか、それとも真実聖女なのかを見極めるためと中央教会へ呼び寄せるそうだ。
それは、国の都合もあるし、聖女を騙る者が土地を人心を乱すのを防ぐという理由があるそうだ。まぁ、当然だなと思う。だって、ぺてん師が現れる可能性だってあるわけだし。
そして、聖女かどうか判定する前に、あらかじめ後見人をつけるのだそうな。後見人は二人。貴族からと、教会関係者から。
そこまで説明して、カーライルさんは息を一つついた。
「後見人が早く決まるかどうかでも聖女様を取り巻く人の動きは変わりますし、誰が後見人になるか…それでも大きく事は変わるわけです。」
「…現状だけでは誰がどうなるかわからない訳ですね…。」
「はい。しかし、多少それを意図的に絞る事は可能だと思います。」
カーライルさんの目は強い力で光っている。
意図的に…つまり、後ろ楯を先に決めて乗り込むということだろう。たぶん。恐らく。自信はないけどそういうこと…だよね?
でも、そんなこと、どうやって?と、まぁ、家だとか地位だとかそういう情報がなにもない私にわかるわけがないんだけど。
「教会側にしろ、貴族側にしろ、どちらかの後見人、よろしければわたくしに務めさせてはいただけませんか?」
私は、ぽかんとカーライルさんの顔を見返した。
これまでかくまってくれて、家庭教師としてアレクシスさんまでつけてくれて、自由に過ごさせてもらった。
すでに大変色んな事をしてもらって、本当に、もらってばかりで、それなのに、自分からこんな面倒きわまりないだろう私に協力を申し出てくれるなんて。
「あ、あの、でも。カーライルさん、ここの教会は?」
「しばらく補佐の者へ代行させても平気ですよ。中央教会にもたまにはいかなければいけないところでしたし。」
「後見人ってことは、色々またあっちでも私の面倒見るっていうことですよね?そんなにいつもご迷惑ばかりお掛けして…」
「どこまでもご一緒させて欲しいと、そう願っているのはわたくしの方なのです。これでも貴族出身ですので、生粋の教会の方々に比べればつても、顔の広さも、段違いですよ。」
ふふっと優しく笑っているけど、やっぱり、この人生まれからして私のような一般人とは違うんだとすごく納得する。国の中でも六ヶ所しかない大教会の管理者で、美人で、長身で、更には貴族出身。
隙の無い超人だろうか?
自分と同じ人間とは思えないお方だ。
「後見人の事は少し考えさせてもらえたらと。」
「はい。どちらにしても中央教会までは一緒に赴き、無事送り届けさせていただきます。」
「ありがとうございます。」
100%好意で言ってくれているのだろうその言葉に、私は素直にお礼を言った。
後見人の事は…受け入れた方がいいのか、断った方がいいのか、正直私には全くわからない。
たぶん、自分の事だけ考えればここまでしてくれるカーライルさんにお願いした方が絶対いいに決まってる。危害を加えたり、私に不利なことは考えないだろうと信じられる。見知らぬ土地、陰謀が隠れてると確定している土地。そこで得られる安心は、何物にも替えがたい価値がある。
そうはわかっているが、正直、カーライルさんの立ち位置がわかっていないのだからどうしたものか…後でアレクシスさんに聞いてみてそれから判断という形で一旦保留を決め込む。
それからしばらくカーライルさんから教会についてや、貴族、王様とのパワーバランスについて教えてもらい、情報収集はお開きとなった。
聞いた話は解釈が難しくて頭が痛い。この国だけじゃなく世界のあり方が、神様ありきなのが当然なので、私の常識は全然歯が立たない訳で…。
そもそも神様の名をむやみやたらと振りかざす事等あり得ないけれど、教会は神への橋渡しとして重要な場所で、国や貴族からの寄進でその財政は成り立っているらしい。国の運営のためには神からの祝福が重要となるから当然という顔でカーライルさんは言っていた。
そして、教会は土地の運営や民の生活を見回り、貴族の領地経営で民が苦しんでいればそれに物申す立場でもあるらしい。
貴族の寄進で運営してるのに、対立もするような形で上手く行くのか?とは思うが、土地が潤えば民からも農作物等の直接的な献上があるらしく、その辺りで釣り合いをとっているということだろうか。なかなか難しい話だ。
そして頭を抱えた私は一旦お昼をとることとした。
カロリーをチャージして、少しは頭を動かさねばね。何せ次はアレクシスさんと話をする予定なのだから。
それにしても…聞かされたカーライルさんのご身分を思うと、アレクシスさんのご身分も何かありそうで、私はとてもとても怖いです。はい。
貴族…か…
家の大きさだとか、家格だとか、そんなことはほんとに全くわからないけど、ただ貴族という響きだけで正直、私には重たいです。はい。
続きの更新にもしかしたら少し間があくかもしれません。
よろしければ下のランキングポチっとしてもらえたら喜びます。




