星のまたたく庭
お久しぶりの更新です。
致命的な誤字というか、人物名間違いをしていたため再度更新致しました。
突然感じた振動。それはどう考えてもソファーに誰かが座ったものだ。
誰もいないと思っていた私はそれに驚き、慌てて向けた視線の先に流れる星を見た。
交わった視線。鏡写しのように相手の瞳も見開かれ、零れ落ちそうだ。
数度瞬きをすると、驚きの声とともに相手は体勢を崩した。
倒れる。そう思って私はとっさに手を伸ばした。
何とかつかんだのはどこだったか。慌てている頭ではよくわからない。
ただ、相手の体が不安定な体勢で止まった。
そのおかげで、手の中のぬくもりを伝えるものが腕であると認識でき、その腕の中にある書籍が落ちそうになっているのが見えた。
腕をつかんでいるのとは反対の手で急ぎ本を支えたあたりで、気の抜けた声が聞こえてきた。声にならない音は、ほんの少しの安堵を含んでいる。
見覚えのない相手を通り越した先には、不自然な体勢を取っているフェルヴィドさんがいる。
私の手では相手を支えられるはずもない。どうやらフェルヴィドさんが背中側から支えてくれている様だと察した当たりでやっと私にも冷静さが戻ってきた。
というか、フェルヴィドさんが見せている余裕のある顔のおかげで冷静さの片鱗が戻ってきたという方が正しいだろう。
「あれ…フェルヴィドがなんで…?」
さっきより少しはっきりとした知らない声が驚きの言葉を形作った。その声はまだまだ子供の域を出ない少年のものだった。
コホン
空咳を1つ。
居住まいを正して、少年はこちらをまっすぐ見た。
私は今、最初に腰を落ち着けたソファーとは別に設置されているテーブルとそろいで置かれた椅子へと収まっている。
テーブルをはさんだ反対側、目の前には目元の涼しげな少年が奇麗な姿勢で鎮座している。
少年の髪は星が流れるように時折光をはじく濃い灰色。
一番最初に星を見たような不思議な感覚を覚えたのはこの髪色の為らしい。
そして、瞳は深い紺色。水底に光が躍るような、ゆらりと踊る光の軌道から目が離せなくなるような瞳をしている。
「先ほどはお恥ずかしいところをお見せしてしまい、申し訳ございません。」
「とんでもございません。お怪我がなくて安心いたしました。」
ぴんっと伸びた姿勢に少し緩やかに紡ぐ言葉のテンポ。感じられるのは育ちの良さと、教育の行き届いた様子。
人に聞きやすいスピードというのがよくわかっている。と、まだ未成熟な年齢ながらもそう感じさせる話し方である。
ちらりと助けを求めるように少年がフェルヴィドさんへ視線を投げてしまうのはご愛敬だろう。なぜ私にフェルヴィドさんがついているのか問いたいとその顔には書いてある。そういうところはまだまだ年相応という事なのだろう。
かわいさの塊。そんな君でいて欲しい。と、つい言ってしまいたくなる可愛さと隙である。
「もしかすると僕の名をご存じかもしれませんが、名乗らせてください。僕はアルディメンテと申します。」
いつも以上に笑顔を心掛けていたのだが、少年の紡ぐ名に全く存じ上げないのだが…となってしまった。
フェルヴィドさんと知り合いの様だし、ディオールジュ家に関係する人なのだろうとは思うのだけどね。ごめんね。全然全く心当たりがありません。
何と答えるべきか、笑顔を維持しながら考える。
角が立たない方法って何だろう?
脳内検索するも、人間関係のことは全くわからない。私にわかるのは仕事相手から意味の分からない言葉が来た時は、存じ上げないことをさっと伝えてご教授願うのが最適解だということだけである。
やたらめったら長考してもわかるはずがないのだからとっとと聞くのが一番である。
時は金なり。仕事は先延ばしにするものではないのだ。
いや、これは別に仕事ではないけれど。
とりあえず、角が立たないように聖女フェイスをフルに使うべきだろう。
女神様のお創りになった至高であれば何とか出来ると自己暗示をかけてゆるりと頬に手を当て、こてりと首をかしげる。
私はかわいい。大丈夫。そんな呪文を心で唱える。
表情筋が望んだとおりに仕事しているかはわからないので、ぱちぱちと数度瞬きもつけ足しておく。
「不勉強で申し訳ございませんが、お名前を存じ上げず…。おそらくディオールジュ家の方とは存じますが、どちらの方かお伺いしてもよろしいでしょうか?」
柔らかく伝えることはできただろうか?ちょっと心配に胸を押さえながら少年を見る。
少年はすっきりとした目元を大きくまんまるにしてからまたちらりとフェルヴィドさんを見る。
ごめんね。ディオールジュ家の事情を私は知らないんだ。
明らかに動揺する少年を目の当たりにし、いじめている気分になって心が痛い。
正直、王家の家族構成も分かっていない私である。ディオールジュの家族構成を聞くのもすっかり忘れ切っていた。
なんていうか、多分こういう人の繋がりとかに無頓着な所が私やアレクシスさん、カーライルさんの欠点なんだろうな。
家格だとか、家名だとかのことは教えてもらったんだけどねぇ。
「わたくし、この国について明るくないのです。」
最近来たばかりで。と、口にしながら少年の表情が曇るのを見るにつけ、申し訳なさで胸がじわりと痛む。
どうも私は年下の少年に弱いのかもしれない。旅の途中で出会ったかわいい少年のことがよぎる。
あの少年の時のように柔らかな関係を築けたらいいと思う。
私は歩み寄りの姿勢で自分の名前を少年に名乗る。
「わたくしはアオです。家名のない、家も家族も持たない者ですが、大教会を管理されているカーライルさんにお世話になり、縁あってレガートからディオールジュ家の色を許され、中央教会から王城へ通っている次第です。」
口にしてみて思うが、全然何一つわからない自己紹介である。これぞまさしくなるほどわからんというやつだなと、我が事ながら感じ入る。
「僕は…アルディメンテ・ディオールジュ…一門を束ねますレガート・ディオールジュの息子です。」




