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出勤前の一幕



 王城へ行くようになって、私の生活は中央教会の私室メインだったのが一気に行動範囲と内容が広がった。

 欲望に忠実な感想を述べるなら、行動範囲が広がったこと自体はとても楽しいのでとてもよきな出来事ではある。だって、王城である。お城である。ぴっかぴかの内装を楽しまないはずがない。

 ただし、絶対に乙女ゲームのような事が起きませんように!できれば噂の『殿下』とかに遭遇しませんように!遭遇しても『おもしれー女』現象が起きませんように!!それだけは絶対に拒否します!!

 私は夢女子こじらせているSNSの住人達の悲鳴を浴びるのは大好きだけど、自分は夢女子の属性はないのだ。

 なれるなら、床か壁か天井がいいし、墓を打ち立てる夢女子たちの骨を拾って手を合わせるモブでありたい。

 だから王城へ行くたびに私は全力で祈りを捧げたけど、お願いごと系の祈りは全然神様に届く気配はないんだよねぇ。悲しみが深い。

 こんな時ばっかり超常現象や神様のご加護は期待できない世知辛さを突き付けなくてもいいのに。


「本日も王城へ行かれる日ですね。」


 朝食の席でカーライルさんが気遣うような視線を私に向ける。


「そうですね。今日で行くのは3回目になりますが、ディオールジュ家へのやっかみは何とかなりそうですか?」


 いつもカーライルさんは私を気遣ってくれているが、私は私でカーライルさんの立場とかの方が気になる。

 謎のいちゃもんをつけられているのはカーライルさんな訳で。


「はい。聖女様が先生方にお話くださった内容と我々の言葉に齟齬がない事は確認されておりますので。…その、ディオールジュ家の後ろ盾のせいでこのような事になり、本当に申し訳なく…」

「いえ、そんな…」

「全くですね。」


 しょんぼりとしているカーライルさんに何かフォローをと思ったが、即座に私たちを一刀両断するアレクシスさん。

 あまりにも鮮やかに叩ききるものだから、始まりそうだな。と冷静な感想が胸に浮かんだ。


「そもそも、全体の話を聞いてみれば、カーライルが頑なにアオ様の事を王城にお連れにならないから王命などという面倒なところまで話が大きくなったんですよ。」

「聖女様は私が後見人として付いているが、ディオールジュ家がその動向に干渉しているのではないし、貴族でもないのだから、連れて行く必要性などない。」


 予想通り、2人のバトルが開始されたようなので、私はそっと目の前の食事をおいしくいただくことにした。

 私は最近2人の繰り出す強めの語調に慣れてきた。


 どうやら2人は昔から私が思ってたほど和やかな感じではなかったらしい。と、フェルヴィドさんや、おばあ様くらいの年齢の侍女さんから昔話を聞き出すことに成功した私。

 その話を聞いてからは、こんなやり取りをしててもそこまで焦らず見守る事に決めたのだった。

 どちらも頭がよく、そして、参謀タイプな所が被っているために、同じ方向を見ている時は良いがそうじゃないとこんな風になりがちなんだとか。

 そんなところも、ちょっと幼さを感じてそれはそれでいいと思えるのは欲目なんだろうか。

 対等に言い合える相手なんて、頭が良すぎれば良すぎる程あまりいなさそうだと思うのだ。


 それはさておき、食事はおいしいうちに食べてあげたほうがいいので手元に集中する。

 今日の朝食はポタージュ系のスープでとてもおいしい。ジャガイモとかコーンとかともちょっと違う風味だけど、この世界特有の植物だろうか。おかわりは可能だろうか。


「城でもその一点張りで、あのプライドの高い者たちが納得するわけがないのをわかっていてやっているのか?全く、いつからそこまで馬鹿になった?」


 それにしても、アレクシスさんの語彙が以前に比べて随分ストレートになった気がするけど、これも昔からなのかな。


 スープ単体で食べきってしまってから、パンを置き去りにしていたことに気付き、しょんぼりする。

 好物に夢中になりすぎた。


「そもそも、王城へ呼び出す程の理由があるのかとこちらは納得のいく意見を求めたが、あちらはそれすら用意できなかったのだ。その程度の事で聖女様にご足労いただく必要性などなかったのだ。」


 そして、カーライルさんはなんというか、こんなところまでも私至上主義で、大丈夫なんだろうか。と心配になってくる。

 最近本当にカーライルさんが心配です。

 基本のスペックが高いはずなのに、なんで私が絡むとなんでそんなにまっすぐなやり口になってしまうのだろう。もっとなんか、のらりくらりとやり過ごす方法はあったのではなかろうか。


 さて、空っぽのスープ皿…おかわりが可能かどうか、それが問題である。チラリと斜め後ろに視線を投げかけると、数日前から私専属みたいな形になってしまったシアさんがそっと控えていてお皿を下げに近づいて来る。

 私の横に来たシアさんを見上げると目が合った。

 シアさんは少しびくりとして、1拍あいてから少し居住まいを正した。


「いかがなさいましたか?」


 びくりとする事はないではないか。と思うが、そんな簡単に人間関係はうまくいくものではないのでそっと胸の奥に押しやる。


「おかわりを頂戴できるかしら?」

「厨房に確認いたしますね。少々お待ちください。」


 この数日こういうふとした時にぎこちない反応が出る事があるが、ちゃんとにこりと笑ってお皿を持っていくシアさんはやっぱり侍女としての教育が行き届いているなと思う。

 シアさんを見送ってから正面に視線を戻すと、むすりとしてお互い横目で睨み合っている2人がいる。


「カーライルさんもアレクシスさんも、せっかくのおいしいスープが冷めてしまいますよ?」

「そうですね。」

「こちらのスープはお口に合ったようですね。何よりです。」


 しれっと食事に戻っていくのはアレクシスさん。

 アレクシスさんと会話しつつも私の様子をしっかり見ていたらしいカーライルさんは嬉しそうに微笑んだ。


 それにしても…と、2人の食事風景を眺める。

 さっきの会話の通り、今回の発端は頑なに人の話を受け入れなかったカーライルさんのやり方が悪く、王城のお偉いさんたちが王様にまで話を奏上してしまった事にあるらしい。

 頑なな様子から、何か隠し立てをしているのではという勘ぐりをするきっかけとなってしまったようだ。

 もともとディオールジュ家と王城の関係性は少し他の貴族とは違っているのだという。

 『神無き』とまで言われるほどに追い込まれた土地の貴族たちをまとめ上げ一門に加えて庇護し、不安から人々が暴走しないように注力し、生産力の向上、品質向上等まで行っていた中心がディオールジュ家で、それは、いち貴族としてはすさまじい功績で。

 王の覚えはめでたいものの、危険視する者の存在は否めず…という感じなのだという。

 まぁ、ここまでチート設定が過ぎると、心配性という病が蔓延しやすくはあるよね。


「アオ様、おかわりをお持ち致しました。」

「ありがとう。シアさん」


 音もなくスープ皿をテーブルに置くシアさん。

 目の前には湯気の立つスープが。おかわりやったー。

 私は今度こそパンの存在を忘れまいと、スプーンより先にパンへと手を伸ばした。スープにパンを浸してもぐもぐ。はぁ、パンにつけてもおいしい。

 パン特有の甘みが一緒に広がって、これはこれで手が止まらない。

 気が付けば、パンもスープも私の目の前からは消えていた。あぁ、おいしかった。なくなってしまってちょっと寂しい。


 私が食べ終わるのと丁度いいタイミングで今度はそっとティーカップがテーブルの上へ乗った。

 その手をたどって見上げれば、フェルヴィドさんの穏やかな(おもて)がそこにあった。

 フェルヴィドさんの凄いところは、カーライルさんのタイミングも、私のタイミングも見ていて、どちらへもきちんと対応しているところだと思う。


「ありがとう。フェルヴィドさん」


 お礼を言うと、毎回心底嬉しそうにされるので、ちょっとむず痒い。

 お茶を淹れる時は絶対にフェルヴィドさんが淹れてくれるのだが、何か意味があるのだろうか。アレクシスさんの分だけは他の侍女さんが淹れているから、これはディオールジュ家対応?

 ひと口お茶を含めば、柔らかい香りが広がる。

 あぁ、おいしい。

 満足感に浸りつつティーカップを一度下ろす。


「何はともあれ、呼ばれてしまったのは仕方ないですし、アレクシスさんが何とか交渉してくれて助かりました。ディオールジュ家への変な勘ぐりがなくなれば行く必要もなくなりますし、疑惑が解ければ何も問題はないですよ。カーライルさん」


 そう、起きてしまった事は仕方ないので、次のステップで何とかすればいいのだ。


「アオ様は、もう少しカーライルに厳しくされたほうがよろしいかと。」

「えぇぇ…」


 アレクシスさん突然の無茶ぶりはやめてください。

 それに、厳しくも何も、保護者側なのはカーライルさんのはずなのだが。実年齢はともかくね。


「これ以上聖女様にご負担をかけないためにも、早急に今回の件が片付くよう尽力いたします。」

「いえ、そこはさすがに私の事より、ディオールジュ家の誤解を何とかする事に集中して欲しいですよ…」


 私よりなによりそっちを大事にしてくださいって。

 お茶を飲みつつ、私は心の中でも2人の反応に突っ込みを入れた。



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