長身で小動物な彼女
アレクシスさんにエスコートされて中央教会に戻り、長い長い廊下を何人もの話しかけたそうにしているおじ様やおじい様方を跳ね散らかして、私はアレクシスさんの管理する宮へと戻ってきた。
なるほど、ここに戻るには中央教会のあの入り組んだ本館を踏破しなくてはいけないのか。
ここに来てから1週間以上経過しているものの、建物からほとんど出ない私である。中央教会の正面からここまでのルートをたどったのはこれが初めてな上、行きは急いでいたことと、突然の王城というパワーワードに頭が飽和していたので気づかなかった。
それに、それだけ急いでいる私たちに、話しかけたいというそぶりを見せるつわものもいなかったのだろう。
帰ってきた時は、そわそわとした様子の人たちが視界にちらつくので大層煩わしく感じた。アレクシスさんがエスコートしてくれていなかったら絶対人垣ができていた気がする。
せめてみんなかわいい女の子だったらよかったのになぁ。おじ様かおじい様ばかりだもんなぁ。
どの顔も揃って、話しかける前にアレクシスさんの顔色を伺って、あ、無理だ。って顔をして引き下がっていったのは面白かったが。
ずいぶんと美麗すぎるセコムについてもらってしまったものだ。
宮に入ると、心配してくれていたカーライルさんが玄関ホールまで足早に出てきてくれた。
「ただいま戻りました。」
と、告げると、びっくりされたのがちょっとおかしかった。
おずおずと
「お帰りなさいませ。」
と、告げられるのも。
この世界で引きこもりを極める私である。
たまにはこういうのも悪くないなとかみしめてしまった。それにしても、やはりカーライルさんも大変顔がいいなと改めて感じ入る。
「リンフォール先生という地学の先生と、ゼローソ先生にお会いしましたよ。カーライルさんも、ゼローソ先生に色々と巻き込まれたことがあるとか?」
せっかく昔話を聞いたのだ。その辺りを本人から詳しく聞いてみたくなるではないか。
にこにこと口にしてみると、カーライルさんの顔が険しくなった。
「聖女様、大変お疲れになったのでは?夕飯まで時間もありますし、お休みになられてはいかがでしょうか?王城で起きた事柄はフェルヴィドに確認しますのでご安心ください。」
合間合間に、えっとか、あのっとか、声をあげるも、心配で一気に言葉を流したカーライルさんは、さぁ、お部屋へ。と、あっという間に決めてしまって、気づけば私は部屋に帰ってきていた。
あれぇ?
過去話は?
首を傾げ思い返すが、心配の塊みたいになったカーライルさんに更に心配をかけるのは忍びなくなるし、まぁ、仕方ないか。
あの様子から察するに、ゼローソ先生効果だと、確信をもって言える。くそぅ。先生め。
カーライルさんすらも大変な相手だと認識するほど何をしたか余計に気になるが、またの機会にするしかない。
それよりも実はもっと深刻な問題が、今ここには存在していたりする。
「…えっと…シアさん?何でここに?」
王城で私の後ろについていたシアさんが、なぜか今も私の後ろについているのだ。
なぜ?
いつもなら部屋で人を侍らせることなどないのをわかっているはずではないのだろうか。
女性の中でも背の高めなシアさん。
背の低めな私は彼女を見上げる。
王城から帰ってきた頃には普通に肩の力が抜けてたと思うのだが、今はまたガチガチな状態でそこに立っている。
「あの…?」
返答がなくて困ってしまう。
困ったままの沈黙が痛い。
ああ、そうだ。
謝らなくてはならないことがあったのだ。
数度、何かを言おうとして、それができずに口を閉じてしまうのを繰り返すシアさん。
私はゆっくりと息を吸って、吐いて、よし。と心の中で気合いを入れて口を開いた。
「先日は申し訳ありませんでした。」
「えっ」
大人として恥ずかしい癇癪と、八つ当たりをした自覚はある。先に様子がおかしかったのはシアさんではあったが、それをなだめられなかったのは、私の対応が悪かったせいもある。
そして、最終的に投げやりになって子供の様な態度をとってしまった…今思い出しても、顔に火がつきそうである。
なにより、背は高くとも小動物のような様子の彼女に何という無体な事をしてしまったのかと…こうして再度対面し、深く反省し直す事しきりである。
女の子に優しくしたいと思っていたはずなのに、本当に申し訳ない事である。
「シアさんに、無茶な事を言ったり、癇癪を起こしたりと、ご迷惑をお掛けしてしまいました。」
「そっ、そんな。いえ、あの、私、私がいけないのです。あの時私は舞い上がっていたのです。その上、勝手に恐慌状態に陥り…無礼を働きましたのは私でございます。」
シアさんは首を振り、きつく眉を寄せている。それを眺めながら、私は困り果ててしまった。
反省しきりな様子で肩を縮めるシアさんに、何を言えば良いのかわからない。
気を楽にと言ったところで、先日の二の舞にしかならないだろう。
お互いに、落としどころが必要だ。という事はわかる。わかることと実行できることは違うのである。
「えーっと…シアさん」
「は、はい。」
「その、私に無理に付き合う必要はないので、普通に仕事をしてもらえれば大丈夫です。」
私もビジネスライクが一番楽だと思って生きてきたのだから、無理に距離を縮める事は、関係を壊す可能性もあるといい加減思い出すべきであったよね。
やっと出てきた最適解に、私は力強く微笑んだ。
「私はアレクシスさんの恋人でも何でもないですし、中央教会での用事がなくなれば去る人間ですから、日々の生活を乱さずどうぞ仕事に専念してくださいな。」
私の事は、いっそ視界から消してもいいよ。という気持ちを私は笑顔に込めたのであった。




