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古(いにしえ)の庭



 扉の先はまっすぐな窓のない通路が続き、もう一枚扉をくぐる作りになっていた。

 教会はつるりとした継ぎ目のない白い謎の素材で作られていたが、お城は全然違う。素材や作りはわからないが、壁はタイルがはめ込まれており美しい模様を描いている。

 この通路は地味な造りになっているけれど、それまでに通ってきた通路は、白をメイン色にしたずいぶんと華やかな造りをしていた。

 そんな風に観察しながら奥の扉を抜けてたどり着いたのは、城の中なのにやたらと緑の濃い場所だった。


「…っ!」


 思わず息をのむ光景。


 苔むしたどっしりとした木が何本も生えており、ここが城内であることが不思議に思える場所。

 だって、木々の間からお城の壁が見えるのだ。

 大樹と森深い場所の空気が漂い、まるでここだけ時間を切り取って残したみたいだ。

 落ち着いた静謐さを感じる雰囲気は嫌いではない。貴族の子供を集めた場所のはずなのに、こんなに静かな場所が現れるとは思わなかった。


 手入れされた芝と、あえて残された苔と、どっしりとした木々と、レンガのような大きさがきっちりと揃えられた石が敷かれ整地された道。


 人の手と残された自然が交じり合っている。

 道をたどれば、大きな石を組んで作った建物が大きな口を開けて待っている。

 ここまで歩いてきた王城の作りと全く異なる趣に、はて?と、首を傾げる。

 ふらふらと近づきペチリと壁を叩くと、組まれた大きな石のひんやりとした温度と密度の高い硬さが手の平に響く。


 教会とも、カーライルさんのお屋敷とも違う素材だ。


「もしかして、こちらの造りにご興味が?」


 その感触と建物の形に視線を注いでいたら、隠し様のない嬉しそうな声がかけられる。

 かろうじて弾んではいないが、弾みそうになるのをぎりぎり抑えられたというだけという感じのする声。

 それを耳にしながら、先生の教えている分野を思い出す。地学を教えているのだったか。建築様式とかも分野に入るのだろうか。それとも、素材の方向からの切り口で喜ばれているのだろうか。


「ここだけ建物の様式も、材質もずいぶん違う様だと思いまして。」

「そうっそうなんですよ。この鶸宮(ひわきゅう)は、国でも最古の地をそのままに残した場所なのです。」


 最古の地。

 その響きにロマンを感じて私はそわりとするが、ゴホンとフェルヴィドさんから咳払いが聞こえた。

 ここまで気配を消したように静かについてくるだけだったというのに、どうした事か。

 そろりと振り返ると、フェルヴィドさんは失礼。と言った後、事務的な笑みを先生に向けた。


「僭越ながら、姫をこの様な所で立たせたままお話を続けるおつもりですか?」


 どことなくひんやりとしたものを感じさせるのは、さすがカーライルさんの従者という感じだろうか。

 別に私は、この好奇心を満たしてくれるのであればこのまま詳しく話を聞いても構わないのだけれど、立ち話等淑女らしさに欠けるという事なのだろう。

 うっかりこのまま話し込むところであった。危ない危ない。


「それに、本日はそのようなお話しのために呼ばれたのではないはずです。」


 先生がうっとなるが、私も同様である。

 すみません。欲望に忠実過ぎて最初の目的などすっ飛んでました。

 私は、自分は怒られてないよという顔でフェルヴィドさんから先生へ顔を向け直し、周囲にばれない様にゆっくり呼吸するとニコリと笑って見せた。


「また、お時間がある時に是非ご教授くださいませ。わたくしとても興味がございます。」


 何事もTPOが大事である。

 例え、自分の興味的にはそちらを優先したくとも。


 入り口からはまたしても窓のないまっすぐな通路。10段程の階段が数メートルおきに3か所ある。

 その通路を上がっていけば、明るい光の見える出口の手前に見張りらしい人が2人立っていた。


 揃いの制服は、教会の騎士と基本の形は一緒だけれどカラーリングや飾りで採用されている模様のデザインなどが全く違う。所属が異なるが騎士であることが一目でわかる造りである。

 腰に佩いた剣をチラリと見つつ、リンフォール先生の後ろについていく。

 先生は右側の騎士さんへ声をかけ、2、3やり取りをすると顔だけこちらへ振り返り、ついてくるようにという顔で頷いた。

 私はそれに頷き、騎士のお2人に略礼を送ってから続いた。

 仕事中の騎士さん達は終始真顔だったが、私が通り過ぎる前にどちらもチラリとこちらを見た気がした。

 何もやましい事はないけれど、見張りの横を通るというのは存外緊張するものなんだと初めて知った。


 通路を抜け終わるとまた緑の溢れる場所。

 首を傾げながらぐるりと見渡せば、それは建物に囲まれた庭なのだとわかる。不思議な造りの建物だ。

庭に面した1階の通路は全面的に庭側に開けており、柱と腰までの高さの壁が続く。一定の距離で壁がなくなっており、簡単に庭に出れる。

 庭と逆側の壁にはいくつかの扉と、いくつか別の通路へ通じている角が見える。

 上の階はバルコニーなどはなく、アーチ状に石が組まれ、窓の木枠がはまっているのが見受けられる。


「さ、こちらへどうぞ。」


 庭から見える風景を眺めまわしている私へ、にこやかにリンフォール先生が声をかけてくれる。足が止まっているのに気づいてくれたらしい。やってしまった。

 周囲の目さえなければとても冒険したいこのワクワクよ。何もできないのが辛い。


 さほど大きくない庭をまっすぐ通り抜け、廊下に上がると、また通路。

 恐らく、庭を中心にドーナツ状に作られている建物がいくつも連なっているのだろう。

 窓のない通路がまた続く。この左右に部屋があったりするのだろうと思うと、通路に窓がないのは頷ける。

 通り抜けた先にもやはり同じように庭を囲む建物。

 今度は庭へ出ずに右の廊下へ歩き出す。そして、リンフォール先生は2つ目の扉を開き中へと招き入れた。


 部屋の中は石造りの建物に絨毯が敷かれており、壁にも布がかけられている。おかげで部屋の中は武骨さよりも温かみを感じるものになっている。

 部屋に置かれた木を彫り上げた椅子と机は、華美にはならないまでも華があり、実用性を優先して作られているようだった。

 そして、その椅子の1つに既に人が座っていた。


「おお、これはこれは…」


 その人はこちらに顔を向けると、満面の笑みで立ち上がり歩み寄ってくる。

 思った通りリンフォール先生の服装は制服だったのだとわかる、色違いのそろいの形の衣装。ズボンと靴とベルトは個人の物のようだ。そこだけはそれぞれ全く違うものを使っている。

 色は階級か何かで違うのだろうか。それとも、単に何色か制服があるのだろうか。気にはなるが、聞ける余裕はなさそうだ。


「突然のお招きにもかかわらずこうしてお会いでき、大変光栄でございます。」


 目の前でその人は優雅に、かつ、少しばかり仰々しく礼をとった。言葉もどこか大仰な抑揚が付いており、そういう人なのだろうととりあえず突っ込むのはやめておく。

 顎の高さで切りそろえられたまっすぐな髪の毛は、彼が動くと一緒にさらりと揺れる。リンフォール先生と同じく、彩度の低い髪だ。白っぽい茶色のような髪色。

 瞳は髪色とは打って変わって強めの色をしているがやはり彩度が低い。蘇芳色である。


「わたくしはここで語学の研究を執り行っております、ゼローソ・サメンテと申します。」




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