美形と囲んでも嬉しくない食卓
朝の清々しい空気の中、初めての爽快なマラソンを果たした私が館へ戻ると、なぜか、光の貴公子に出迎えられた。
走りながら楽しくて嬉しくて気持ちが高揚していたのは覚えているがまさか過ぎる。
額を抑え、肩を落とした後で、その姿を見上げた。
「おはようございます。神様」
「おはよう。人間たちのこの挨拶をするのは初めてだな。」
元々上機嫌だった顔にますます深い笑みをうかべる神様のお顔はきらっきらしている。すんごいきらっきらだ。うっ眩しいっ…!目がー!目がー!!なんつって。
視界を遮ればまたこのべらぼーに美々しい方に優しく手を取られるんだろう。
もう何度も繰り返したから覚えた。迂闊なことをすれば私がもたない!私の心臓と、精神が!!
何とか自分の手の動きを封じながら私は少し迷ってから提案してみる。
「良ければ、この後一緒に朝食でも食べます?」
それに光の貴公子はますます嬉しそうにする。なるほどなるほど。と思いながらその様子を可愛いと思う自分がいてなんだか不思議だった。
きらっきらだけど、可愛いと思える余裕が生まれる日が来ようとは。私も日々成長しているのだな。ふふふ
神様、おやつも全部持ち帰っちゃうし、食べるの好きなんじゃないかな。そう思うと更にかわいさが加速する。
「あ、朝食の前に着替えてくるので少し待っててもらえますか?」
「良かろう。」
鷹揚に頷く貴公子。その様子に安心した私は、後ろを振り返りアレクシスさんを見る。すると、また凄い顔でこちらを見ているアレクシスさんと目があった。アレクシスさんには早めに神様耐性をつけてもらった方がいい気がしてきた。
私が無意識でお呼びしてるから予告もできないわけだし。ほんと、申し訳ない。
申し訳ないが、一緒に行動をするのが増えるなら必須だもんねぇ…。
それにしても奇跡のように理想のお顔。走ってきた後だから、少しお髪が乱れてるけどそれをさらっと後ろに流すしぐさがまたハイパー性癖に突き刺さる。
もーね、優雅さと男らしさと硬質さが完璧なの。奇跡なの。私、幸せです。
「アレクシスさん、また無意識に神様をお呼びしてしまったみたいなので朝食の席に同席することとなりますが、宜しいでしょうか。」
知り合いでもない人間…いや、神様だけど…そんな相手とご飯を一緒に食べることを勝手に決めてしまって、不快に思われる可能性は高いが、まぁ、相手は神様だし、そこまで怒らないのではないか…と、淡い期待をもって話しかけた。アレクシスさんは固い顔をしていたが二、三度深く息を吸うと頷きを返してくれた。
「わかりました。カーライルと、厨房には私からお話ししておきますので、聖女様は先にお着替えを。」
「いや、でも。」
「お任せください。」
「う…」
言い出した手前、そんな申し訳ないと慌てるが、念を押すように強く言われ、視線をうろつかせてしまう。
申し訳なさと、言葉を拒否するのはもっと悪く思う気持ちでぐるぐるしてしまう。どっちの方がましなんだろう。
でもここまで言われたら、したがった方がいいのかな。一応私は見た目若いのだし。相手もそのつもりだろうし。年功序列大事。
「で、では、よろしくお願いします。」
「お任せを。」
うっはぁぁ…アレクシスさんの美声でそんな台詞言われたら、死ぬ!!15度のお辞儀をしてる途中で良かった!きっと凄い顔をしてた。顔見られてないはず。
何せ身長差というハンデがあるのだからね!ふふんっ
心を落ち着けてから顔をあげて、光の貴公子に行こうか。と、促して室内へ歩きだす。
とりあえず、いつも食卓を囲んでる部屋に神様を置いて部屋に急ぐ。
ぬらしたタオルをマリエさんが用意してくれていた。ありがたくそれを受け取って顔や首をまずは拭く。
「聖女様、一度お髪を解かせていただきます。」
「え…あ、はい。」
せっかく結ってもらった髪。残念すぎてすぐに返答できなかったけどおとなしく頷く。
走り回ってきたし、もし葉っぱとか絡んでたら…朝食の席でそんなのは悪い。
マリエさんの手が髪をまとめてる紐にかかり、さらさらと解かれていく。驚くべき事に、癖ひとつつかず、絡みもなく、真っ直ぐすとんと髪が背中に広がった。
まじか。奇跡のスーパーストレート!さすが女神様御自ら手掛けてくださったストレートヘアー。女神様のお力を見せつけられたよね。
奇跡の薄水色の髪の広がりを見つめていて私の手は汗を拭く事を忘れていた。
女神様凄いよ。女神様。
「聖女様、よろしければ改めてお洋服に合わせて結わせていただきますが、いかがいたしましょう?」
私がさっき名残惜しげに返事をしたのに気づいてくれたのか、マリエさんが優しくいってくれる。なんと気のつく方なんだ。
私は喜んで何度も頷き、急いで汗を拭いて着替えた。
いつものシンプルなワンピース。その中でも肩の膨らみ以外はごくごくシンプルだけど柔らかな深緑が綺麗なワンピースを選んで着る。
余計な飾りはないし、体のラインに柔らかく沿った作りでふんわりスカートの広がるデザインで、とても物静かな優しさを感じるからこのワンピースは好きだ。
窓の外の木の下で静かに読書してる憧れの君。ってこのワンピースを呼んでる私です。
あー、この鏡に写るのが私じゃなければ…と、毎日のように思うのをやめられない。それと同時に、この理想の見た目を私の希望通り着せ変えられるのは役得とも思ってるから、なんだかんだお着替えは楽しいイベントなんだなぁ。
「お待たせしました。」
着替え終わって小走りでマリエさんへかけていくと、マリエさんは優しく微笑んでくれる。侍女の皆様ほんとにかわいいしきれいだし、眼福眼福。
鏡の前に座ると、髪型の要望を聞かれるけど難しい髪型はわからない。
「今日から勉強があるので、そのときに邪魔にならなければ何でも」
と、お願いした。
マリエさんもまたユナさん同様に歓喜を表し、お任せください!と、奮起された。
嬉しそうなのはとても嬉しい事だけど…私です。聖女様、中身、私…はぁ。代わりの聖女様、見つからないかなぁ。
マリエさんのお手もとは早く、右と左に編み込みが作られ、編み込みの間には器用にリボンが織り交ざってる。うなじまで編み込みが来ると、そのリボンが結ばれ、パッと見下の方で二つ結びにされたような髪型で、編み込みの華やかさと、すっと垂れ下がる真っ直ぐな髪の清楚さが服装にマッチしていてマリエさんの趣味のよさが際立つ。
しかも、リボンが服の色に合わせられてて派手すぎず調和しているのだ。
「マリエさん、ありがとうございます!」
鏡の中の髪込みやリボン結びを何度も何度も覗きこんで私は振り返った。マリエさんは真っ赤になってほほを両手で押さえて笑ってくれた。
あーかわいいよぉ。
さて、女の子にハスハスしてないで朝食をとりに行かねば。
私は重ねてお礼を言ってから部屋を出た。
ノックを三回。それから扉を開く。
室内にはにこにこきらきらの神様がいた。
先に紅茶を出されておもてなしされている。あ、今日の紅茶の香りフルーティーでいいなぁ。
「待っていたぞ。」
「お待たせしました。今日の紅茶、いい香りですね。」
神様の横の椅子に手招きされるままに座る。
思ったまま口に出したら、控えていた侍女さんが緊張した面持ちと口調で産地と原料について簡単に教えてくれた。
ふむふむと聞いて、私ももらえるか聞くと、すぐに準備してくれる。
してもらうことに慣れてきてる自分をいかがなものかと思いつつも、ありがたくお茶に口をつける。
ふんわりと薫っていたフルーティーなフレーバーが鼻孔一杯に広がるのに、口当たりはあっさりとしていて重みがない。その差異がまた良い。
「美味しいですね。神様」
「そうだな。我も気に入った。彼の地の者達へも祝福を約そう。」
満足げにカップへ口をつけ、香りを楽しんでいる美々しい横顔。私も同じように紅茶を楽しんだ。
少しして、カーライルさんがアレクシスさんと一緒にやって来て朝食と相成った。
しかし、会話が基本神様と私で、心底辛かった。二人へ話を傾けるも、カーライルさんも、アレクシスさんも、神様に直接話さず、私を介して来るし、逆も然りと言う感じで、目の前にいるのに仲介にさせられる私…。
いや、私そんなコミュ力ないんだってばよ!?
驚くほど疲れる朝食だったが、最初に出てきたカボチャのスープがむちゃくちゃ美味しかったので、侍女さんに料理長へスープの感想を伝えてもらえるようにお願いしておいた。
あわよくばまた出していただきたいなんて下心しかない私です。




