反目する二色
「私の部屋なんですが、今後ディオールジュ本家からの仕事に関する資料をまとめていく事になりますし、情報管理を考えると、更に人の出入りを絞れたら嬉しいなと思うんですが、可能でしょうか?」
資料整理や情報の管理について考えた結果、お昼に二人に相談をしてみることにした。
どんなに気を引き締めて管理しようとしても、私一人では万全に守り切るのは難しい。机の上に出しっぱなしにしない様にはするけど、不測の事態という物もあると思うのだ。
この間のシアさんの件は不意打ち過ぎたけど。
「アオ様の周囲の人員配置は既に最低限に絞っているので、これ以上は難しいですね。」
カトラリーを置き、口元をそっと拭いてからアレクシスさんが言う。
この宮の中の状態を保っているのはアレクシスさんの所の侍女さん達である。
普通は、私の身の回りの世話とか、お話相手とかにもっと人を割くものらしいが、いかんせんそういうのはいらないので断固としてお断りしている。
結果的に、今私の部屋に出入りしている人間は本当に最低限部屋の掃除やベッドメイクに必要な人員のみだと説明される。
「ディオールジュ家からの仕事ですし、逆に、文官をお傍においてはいかがでしょう?」
「文官ですか?」
「えぇ、当家にて書類の作成のや書類整理はもとより、手紙の代筆に関してもきちんと教育しておりますのでご安心頂けるかと。」
仕事をする上で文官の仕事やスキルの説明をカーライルさんがしてくれる。
今までは、私がカーライルさんに何か返せないかと考えた結果、たまたま新しいお菓子を料理人さんが作ったり研究をしたりと狭い世界だけの話だった。
それがとんとんと話しが進んで、今では土地の外にも広めて販路を作るという大役を任されるまでに至っている。
これまでは個人の思い付きで動いていたのだが、これからは本家から要請された正式な仕事として動くこととなる。一人で全てをこなすには無理のある内容だと言われれば、確かにそうかもしれないとうなづかざるを得ない。
「書類の管理も文官の仕事です。聖女様の懸念点も解消されるのでは?」
うぅん?出入りする人間を減らそうとしたら、逆に人が増えそうなんだけど?
「カーライル…」
話の流れにこのまま乗るべきなのかと考え始めたところへ、アレクシスさんの咎めるような声音が響いた。
その声が驚くほど厳しいもので、瞬時に食事の席が何とも言えない場に変わってしまった。
軽い質問のつもりで口にしてしまったが、食べ終わってから話すべきだったと後悔する。
この間はちゃんとご飯を食べ終わったタイミングを見計らって話したのに、今回は気軽にペロリと話し始めてしまった。へたをうってしまった。
眼前では、アレクシスさんがカーライルさんをじとっとした赤い瞳で睨みつけている。
睨まれているカーライルさんはどこ吹く風で朝食の続きを口へと運び、嚥下すると、何か?という青の視線をアレクシスさんに戻す。
二人の間に流れる空気に今まで感じた事がないような刺々しさがみえる。この二人、こんな雰囲気だっただろうか?
私は困惑を誤魔化すようにお茶に何度も口を付ける。
こちらからふった話題なのだけれども、どうしてこんな重めの空気になっているのかと問いたくなる。最近、話題が重くなることが多い気がする。
そして、アレクシスさんはあからさまな溜息をついてまた口を開く。
「お前の所の文官は男ばかりだろう。専属の侍女も傍に置いていないアオ様につけるには難がある。」
出てきたのはそんな苦言。
仕事で必要な人員をつけるという話だったので全くもって私には思い至らなかったのだが、貴族社会ではそういうのは致命的な事だと言われれば何となくは理解できる。
痒い響きだが、私は未婚の女性であるという意識を持たないといけないらしい。難しい事を言うなぁ。
アレクシスさんとの関係といい、恋だとか結婚だとか男女の距離だとかの話が行き交うと、身の置き場がなくなるよ。
水分は十分なんだけど私はまたくぴっとお茶を飲む。
「アオ様、周囲に常に人がいる状況は好まれないとは思いますが、侍女を一人お傍に置いてはいかがでしょうか?」
「アレクシス、その提案こそ本末転倒では?ディオールジュ家の情報を外に出さないためにと聖女様はお考えだというのに。」
「私の所には商家からの紹介で来ている侍女もいます。書類のお手伝いもできますし、何より商家の情報を集めやすくなりますよ。」
カーライルさんがお返しのように溜息をついて見せるが、今度はアレクシスさんがそれをしれっとスルーして、そんな売り込みを私にした。
どちらの提案も苦言もごもっともすぎる。
もっともすぎて、どちらかの案を取るというのは難しすぎる。
内心頭を抱えている私に気付いていないのか、どちらの利を取って、どちらの損を退けるか…私にその決定をゆだねてくる二人。
まって欲しい。そんな選択を突然迫られても困るよ。
そもそも、断言する、決断する、即決するとかは、人生最大の苦手分野民族だったんですよ。
場を取り仕切ったりとかやたらと難しい事ばっかり最近要求され過ぎだと思います。
大人しくもぐもぐしながら、悩む。
悩んだところで結論がすぐ出せない事は自分でもわかっている。
書類作成とか、管理とか、この世界の仕事の在り様もさっぱりわかっていない私よりカーライルさんのとこのめっちゃ仕事のできる方にお任せした方が良いに決まってる。
アレクシスさんからの提案も、商家に通じている人が側にいた方が、後々話を繋げやすくなるかもしれないと考えるととても魅力的だ。
一通りお皿の上を綺麗にさらって、ゆっくりとお茶を飲んでから、私は二人に返答をする。
「即決は難しいのでまた考えておきます。」
問題の先送りと言われればそうなんだけど、もしそれを指摘する様な人間が居たら逆に問いたい。
こんなん即決でどっちかとる事ができる人いるんだろうか?
できる人がいるのであれば、ただただ真顔で冷や汗を流す私を助けて欲しいよ。
「今日は午後に試食をした後、一人でご当主様宛の書類の続きをしていようと思います。」
すぐには結論出ませんよと言う気持ちを込めて、笑っておいた。




