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ディオールジュのお仕事



 仕事って素晴らしい。それがあるだけで自分がやるべき事が確定して心が安定する。

 無茶ぶりが過ぎると思った事は棚上げして、突然仕事を振ってきたレガートに感謝しつつ私は受け取ったばかりの料理長からの手紙を執務机に広げる。


 送られてきた内容は三人分の筆跡で資料がまとめられていた。料理長と料理人さん達がそれぞれにまとめてくれたのだろう。


 まず一枚目の資料にはレシピがまとめられている。ぱっと上から下まで視線を滑らせて二枚三枚とみていく。几帳面な性格なのか、一枚の紙に一つのレシピが書かれている。

 紙を贅沢に使っているけれど…この国での紙の価格ハウマッチ?未だに物の価格やお金の単位を知らない私は紙の束をじっと見つめて資料とは関係ない疑問を浮かべつつ、ざっくり次の資料を確認していく。


 四枚目からはレシピを補足する各素材の組み合わせや工夫の報告。これも一枚につき一つのレシピで、ずいぶんと字が細かい。文字の大きさは書いた人の性格故だろうか?

 六枚目が終わるとまた文字が変わった。


 七枚目からの内容は、ここまでの試作の過程や、試作状況から予想されるまだ試していない食材とのより良い組み合わせの予測、レーズン以外の果物で試してみたいという内容などなど。なかなかに濃い。

 ディオールジュ領内では木の実の種類は多くないので、ここまでの試作でおおよその種類は網羅されたという報告も書かれていた。木の実に関してはこれ以降更に新しい使い方ができないかを試行していくという事だった。


「レシピは料理長かな?最後の報告は確実に周辺地域の産物推しの料理人さんっぽい。」


 端的な書き方をしているが、最後だけ熱量が違う。内容が内容なだけに、紙の枚数も二人と違い五枚に渡ってびっちりと書かれている。

 仕事熱心というか、強めの郷土愛というか…あれやこれやと食材を出してきて語ってくれた料理人さんの顔が思い浮かぶ。まぁ、故郷に愛着があるのはいい事だよね。熱量に圧倒されるけど。

 ちょっと暑苦しさも感じるムキムキを思い出して遠い目をする。

 遠隔でやり取りする位がちょうどいい相手な気がしてくる。


 暑苦しいという感想はさておき、仕事ぶりはカーライルさんに報告しておいた方が良いだろうか。彼らの上司はカーライルさんなのだから。仕事の評価は大事。

 そして頑張りによってバックがあればやる気も上がる。これ以上のやる気が必要かは疑問だけど。


 そういえば、仕事を貰ったのはいいけど私の上司ってレガートになるんだろうか?報告ルートとか、状況によっての相談相手とか、確認しておきたい気がする。私が判断していいラインとかも決まっていないと危ない。

 この土地の事どころか、世界の常識すらない私が決定権を持つなんて恐ろしすぎる。

 資料をより分けながら、仕事上で必要な摺合せが足りていない事に気づく。料理の内容と一緒に問い合わせないと。


 つらつらと考えつつ、ざっと目を通した資料一枚目に再度戻る。

 まずは必要情報だけをしっかり読み込んで先に資料を作成しよう。

 料理の手順や分量についてはレガートに知らせないからわきに置く。後で確認する用にどこかに保管場所を作りたいな。

 ファイリングするための文具が欲しい。あとで聞きたいところだけど…予算という文字が頭によぎって仕方がない。

 情報整理のためにも自分用のメモを作らないと。と、引き出しから筆記用具と紙を出そうとして私はぴたりと動きを止めた。


 いつもと配置が違う。


 首を傾げて引き出しの中身をじっと見る。

 最後に使ったのはいつだっただろうか。しまう時に何かしたっけ?と記憶をたどって思い出す顔は侍女のシアさんだった。

 そうだ。あの日全部出しっぱなしで引きこもったのだった。

 私の配置とは違うけれど引き出しの中に綺麗にしまわれた筆記用具たちと紙の束。一番上にあるのは物語の覚書である。


 サーっと私の頭から血の気が引いていく。

 物語の覚書を怪しまれやしなかっただろうか。

 出身その他情報を一切非公開にしている私である。この国の人間ですらないとわかったらどうなるのだろう?国外との関係性までは教わっていないので全く分からない。

 場合によっては迫害対象になったりしないだろうか。と、心配になる。そんな事になったら、『原初』であるというカードを使わざるを得なくなりそうだ。それは絶対に嫌だ。

 そんな神話レベルの壮大な存在として周知されるとか、絶対無理。


「どうしよう…」


 またシアさんと話をしないといけないだろうか。

 でも、まともに話せる自信がない。なぜなら、お互いに混迷を極めた前科があるから。


 また一つ悩みを増やしつつも仕事はしなくてはいけないので、のろのろとした動きで紙と筆記用具を取り出す。

 机の上にコトリコトリと並べて、この間書いた物語をまとめるための走り書きをちらりと見てそれは一旦しまう。まだきちんとまとめ上げてたわけじゃないから、聞いた話の概要と、土地による違いのメモ程度だ。

 これだけを見て、何らか怪しまれるような事ってあるだろうか。

 動揺しすぎてまともな判断ができていないだけではなかろうか。

 また思考が迷宮入りしてきた気がする。


 私はそっと目を閉じて深く息を吸う。


「よし。仕事しよう。」


 なにはともあれ、仕事は仕事。

 私的な事情より仕事が最優先。と、私は頭を切り替える。


 七枚目以降の資料を基に、どう情報を落とし込むかをメモ用の紙に控える。

 レシピまでは今回は提出しなくていいという事だったので、クッキーとケーキの簡単な説明と、特徴となる素材があればいいかな。と、箇条書きに記載すべき項目のリストを作っていく。

 こういう、レシピに関する資料にはカントリー風の挿絵があったらかわいいのになぁ。と、思うのだが、残念なことに私に絵心は無いのでそれは書かない。

 私にも神絵師の才があったなら…と過去に愛した薄い本をそっと思い出す。


 さて、それぞれのメニューの決め手となる素材について資料の七枚目を要約して記載しなくては。

 お酒のケーキはお酒の種類によって出来上がりが全く違う物になるので、できるだけ色々な種類のお酒が欲しい所だ。

 ラムレーズン的な部分になる素材も、お酒が必要だけど、レーズンの品質やそもそもの食材の品種によっても変わるだろうと記載がある。

 アーモンドプードル的なクッキーは一通り土地の食材で試し終わっているから何をそろえてもらったらいいかが悩ましい所である。うーん。と、思案して、とりあえず他の使い方も考えたいと書いてあるし、一通り木の実をそろえてくれと依頼すればいいだろうか?


 と、メモに簡単に書き込んでいく。


「こんなものかな?」


 ペンを置いて、一旦箇条書きにしたものを上から下まで読み返す。多分良さそうだが、少し時間をおいてからもう一度確認しよう。

 今思いつかなくても何か出てくるかもしれない。


 それから、紙の余ったスペースにどのようにまとめるかを並べていく。

 紙はなるべく無駄にしたくないので小さい字でちまちまと書いて頭をまとめていく。この世界にパソコンは無いので、上から順に整然と描かないといけないのが大変なんだよね。

 途中挿入の素晴らしさをかみしめながらかりかりとした音と共に綴っていく。


 メモのまとめがひと段落したところでまたペンを置く。

 さすがに根を詰め過ぎたらしい。背中と肩が硬くなってる。

 ぎゅーっと伸びをして背中と肩を伸ばしてほぐす。

 そろそろお昼の時間だ。残りは午後にすることにして、私は机の上を綺麗にした。書類管理、大事。

 午後はカーライルさんとおやつの予定だから、それまでに内容をもう一回さらっておいて、現物を試食した感想を踏まえて最終資料を作ればいい。

 と、午後の予定を考えながら引き出しをきちんと閉める。

 仕事の内容は管理必須。他の人に情報が渡らないように何か考えないといけないだろうか。




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