これが淑女のコミュ力なのか
いやぁ、それにしても、美人が多いなと思っていたけど、貴族の子女が混じっていたとは、びっくりだね。
にこやかにお茶の準備が始まり、私はいつもの定位置へ。侍女さん達は私の真正面の席は避け、それぞれにソファーに座った。
とりあえず、無難にまずはお茶おいしいねという話から入ると、すかさずクラーラさんがどこそこのお茶を使用していてこういう特徴なのですよと続く。更に、アンネリースさんがどこそこの何というお菓子と併せるととてもおいしいですよ。食べたことありますか?と広げてくる。
こ、これが、貴族のお嬢様のコミュ力。しゅごい…。
目の前の会話に対し、私はただ頷いて合いの手を入れる事しかできない。
またクラーラさんとアンネリースさんが話の主軸を操作しつつも、全体の深みを入れているのがエルマさんとシアさんで、二人の仕事が光っている。
エルマさんは色々な人からの評価とか、どこの層に人気だとかそういう話題に強く、日ごろから交友関係の広さを感じさせる。
一方、シアさんはさりげなくお茶のサーブをしながら、どこそこの店とどこそこの店はこう違うだとか、その品ならこちらの店も良い品がありますよとか、そういう広げ方をしてくれる。店の情報に詳しすぎる。すごい。
これが上流階級の会話なんだなぁ。とてもお上品だ。そして全員とてもかわいい。
デレデレと聞いていると、どうやらクラーラさんはミルクティーが好きなようだ。しかも、甘いミルクティーが。
あまり頻繁には飲めないけれど…というので、やはり体型維持の為だろうかと思わずクラーラさんの全身チェックをしてしまう。そして、素敵なウェストと背中のラインへの努力に私は拍手を送りたくなった。
それに反して、エルマさんがきょとりとして好きな時に飲まれたらよろしいのではと口にした辺りで、エルマさんから食べた分の糖分は全てエネルギー変換すればいい的な体育会系の空気を察知した。
いやいやエルマさん、よく見て。クラーラさんはどう見ても生粋のお嬢様だよ。
絶対に相いれない世界線を観測した私はそっと話題の矛先を変えることにした。
「エルマさんは甘いものはお好きかしら?」
「はいっ。私は果物をふんだんに使ったものが好きですが、北の地はあまり果実の実りのない土地なもので、王都で働かせていただけるようになってこれほどまでに豊富な種類があるのだと知りました。」
はつらつとした笑顔に私もうれしくなる。王都での暮らしは苦ではない様だ。
まぁ、近くに彼女の父上もいらっしゃるという事だし、実家を離れていてもひどく寂しさを感じる事は無いのだろう。
果物と言えば…と、また今度は産地の話がシアさんから出る。
「アンネリース様のご実家の付近は様々な作物の産地でいらっしゃいますよね。」
産地の話までできるとは、シアさん、なかなか知識が多いな。
水を傾けられたアンネリースさんはとてもうれしそうに頷く。
「えぇ、穀物や野菜、放牧等も盛んですわ。」
そういえば、アンネリースさんは南に領地があるような口ぶりだった。彼女は土地をとても愛しているようだ。なのになぜ王都で侍女をしているのだろうと思いながら、その特産物の話に耳を傾ける。
放牧…いいなぁ。焼肉したい。
この世界に来てからというもの、とてもおいしい食卓に恵まれているわけだが、全てが手の込んだメニューで、正直、自分で炭火を囲んで肉を焼いて食べたいなと思う事もある。
カルビおいしいよね。カルビ定食。牛タンも捨てがたい。
なんて思うも、皆さん何の肉のステーキがおいしいですよねという話になっているので適度に話を合わせて相槌を打つ。
ペラッペラの肉でいいから焼肉したいなんて口にできる空気は皆無である。
ステーキでも何でもいいけど、牛串にしてバーベキューしたい。屋台の牛串好きだよ。
そんな食べ物談義から、いつの間にやら特産品の染め物の話になり、刺繍の話に移り、趣味の話題へと移ろっていく。
女性の他愛もない会話のスピードってそういえばこうだったねと大切な何かを取り戻してる感じがすごくある。
思えば四ヶ月もの間、まともな会話をしてきた相手はカーライルさんとアレクシスさんだ。あとは、私の身支度のあれこれの時にカーライルさんの所の侍女さん達の会話に相槌を打ちつつ聞いていたくらいである。
やはりというか、当たり前のようにお嬢さんたちは刺繍だとか、レース編みだとか、楽器だとか、詩作だとかが趣味らしい。
エルマさんは予想通りダンスが得意だという話に耳を傾けていたら、クラーラさんが嬉しそうに頬を染めながらそっと私に視線を投げかけてきた。
ピンクの頬と艶やかな唇に私の心臓は簡単に撃ち抜かれたのだった。うっ胸が…!
クラーラさん可愛いよ。とても可愛いよ。
「あの、聖女候補様のお好きな事は何ですの?ぜひお伺いしたいですわ。」
「私も、ぜひ知りたいです。」
と、私が撃ち抜かれていたら、クラーラさんの口からそんな無茶ぶりが…。
いや、これはチャンスというべきだと気を取り直す。
なにより、勇気を出して聞いてみたという風情のクラーラさんの様子がめちゃくちゃかわいいので何でもしゃべるよ!と言いたくなる。
おっと、そんなとち狂った感情の暴走はさておきだ。私はしばし考える所作で間をとりながら、用意した言葉に誘導する方法を考える。
ここからうまい事物語を聞き出せる流れに持っていきたいところだ。
「趣味…ですか。」
「はい。」
「ぜひ聞きたいですわ。」
よくよく周囲を観察すれば、クラーラさん以外もだいぶ前のめりである。
え、そんなに私の趣味ってホットワードなの?
「そう…ですね。私はお茶をするゆっくりとした時間が好きですわね。」
思い出すのは、光の貴公子と過ごした時間。
私が好き勝手しゃべったり、ただのんびりとお茶を飲みお菓子をつまんだりする緩やかな時間が私はとても好きだ。
私の話を静かに聞いてくれたり、嬉しそうにお茶の味を楽しんだりする光の貴公子の様子を見るのもとても好きだ。
あの光景を想う度、もっとたくさんこの土地の人々が頑張った形を神様に見て欲しいと思うのだ。
「それから、読書でしょうか。」
カーライルさんの所の蔵書は伝記もの、聖女の伝説、神話、魔法関係などの専門書がどうやら多かったらしいがどれも楽しかった。もう少し時間があったらそれぞれを年代別に並べて物語の時系列を追いたかったなとふと思い出す。帰ったら絶対にやろう。絶対楽しい。
うふふと笑いかけると、お嬢さんたちはそれぞれにきょとりとした顔をした。
「聖女候補様はどのような本を読まれるのですか?」
そんな中で、最初に質問をしてきたのは珍しくシアさんだ。
「そうですわね…伝承の類のものや神話等も好きですが…」
「まぁ」
「聖女候補様は専門知識がおありなのですね。」
「すごいです。」
なぜか称賛され始めた。どういう事だってばよ。
今度は私がきょとりとしてしまう。
「伝承や神話などは古い言葉で書かれているものばかりなのに大変勤勉でいらっしゃるのですね。」
シアさんの称賛に、なんだって?と、目をむいた。
私の読書は、この世界が自動で私の知る文字に変換される。だからなのだろう、元の文章に違いがあるなんて全く気付かず読んでいたらしい。
そりゃぁ、お嬢さんたちがびっくりするわけだよ。
やっちまった…と、反省会をしつつもここは淑女の技で乗り切るしかない。
即ち、乗りたくない話題は全スルーである。
「そういえば、私、人から物語を聞くのも好きなんです。」
「物語…で、ございますか?」
「えぇ、運命の乙女の物語など、皆様それぞれに好きな物語はございますか?」
にこやかに、華麗に、本日の一個目の目標地点へと着地する。
「その人の好きな物語をその人の口から聞くと、その方がどのような気持ちでその物語をとらえているのかがわかってとても楽しいのです。」
よろしければ私に聞かせてくださいませんか?と、お願いすると不思議そうに瞬きをするも、全員喜んで。と頷いてくれた。
よしよし。うまい事話を持ってこれたぞ。
一瞬どきっとする方向に話題がそれかけたが、何とか行きたい場所に着地できて私は胸をなでおろすのだった。




