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ディオールジュ兄弟の予算組みって…



 森の途中でエレイフと別れ、私は貸してもらっている部屋に戻った。

 今日もいい運動をした。清々しい気持ちで、しばらくはあの湖に通おうと心に決め、寝室に用意されている洗顔用の水で再度顔を洗い直し、クローゼットで身支度を整え直す。ベールはここでさよならだ。

 クローゼットを出た後は、怖いので部屋の窓の鍵が閉まっているかを確認し直してから隣の部屋へ移動する。

 この建物の安全がどれほど保たれているのか私にはわからないので、クローゼットの安全管理というプレッシャーがはんぱない。


 隣の部屋に移り、まだ少し時間があることを確認すると、私はカーライルさんが用意してくれた執務机に座りメモとペン一式を取り出した。

 バタバタしていたとはいえ、レガートから託された仕事がある私は、毎日何かしらお手紙や書類も書いたりしている。仕事はきっちりこなさなくてはね。

 料理長宛のお菓子についての詳細を送ってほしい旨の手紙は王都につく前にしたためて送ってあるので、そろそろこちらに返事が来る頃ではなかろうか。それが届いたらレガートに送る内容をピックアップし直して送らないといけない。

 カーライルさんのお屋敷でやった屋敷の従業員の皆様への慰労会についての報告書は合間の時間で頑張って作って早々に送ってある。レガートからの返事が来る頃には、例の交渉しないといけない商家候補一覧も一緒に来るのだろう。それはあまり来てほしくないが…。

 やるべきことと、やった事のメモを一個一個確認し、さて、これからどう動こうかと考える。

 今できることと言えば、試作品の噂を広める事だろう。

 お菓子を広めるなら女の子だよなぁと思うのだけど、如何せん、最近顔を合わせた相手は男性、しかも、おじ様やおじい様ばかりなんだよね。お酒を強めに使っているケーキなんかは男性受けはいいとは思うが、ふるまったところでうまく広がるとは思えない。


 ふと、慰労会の項目が目に入る。


 レガートはいいやり方だったと言ってくれていた。それを踏まえて今後何等かの事が出来たらいい様な事も言っていた。

 女の子…従業員…。

 侍女さん達におやつとしてわけるのはどうだろうか。

 それは、大変わくわくすることではないだろうか。

 だって侍女さん達美人さんが多いんだよ。

 お近づきになりたい。

 今日は一日暇なのだから、交流を持つにはちょうどいいのではなかろうか。

 なんなら、エレイフに忠告された物語を集めてもいい。

 うまいこと怪しまれない理由をつらつらと考えている間に朝食の時間になってしまう。


 今日の朝食は、フレンチトースト的な料理。この世界での名前はわからない。

 牛乳と卵でコーティングしたパンはおかず用に塩っけのある味でまとめられ、かりっかりに焼かれている。うーんおいしい。

 おかずとのバランスも最高だ。

 カーライルさんが連れてきたらしい料理人さんは卵料理がとてもおいしい。

 オムレツなんか、やたらとバリエーション豊かだし、キッシュとか、スフレなんかも出てきた。どれもとてもおいしかった。

 今日もとてもおいしいです。カリッカリなところとか好みです。と、侍女さんに伝言をお願いした。

 いつもの、また作ってねの下心を添えて。

 これだけ卵料理の扱いが完璧なのだ、特徴を伝えれば卵焼きも完璧に作ってくれるのではなかろうか。という考えがよぎる。

 フワフワのだし巻き卵も好きだけど、お母さんが作るあの何とも言えないかたさの卵焼きも好きなんだよね。一層一層がペラペラでちょっと硬い感じのやつ。しょっぱいのも甘いのも私は好きだ。

 とどのつまり、私は卵焼きが好きだ。単体でおかずに出来る程度には好きだ。

 中にミートソース的なものを入れたりするのも好きだし、結構実験的な感じで色々入れて試してみたこともある。


「今日は誰も取り次がない様言ってありますが、もしどなたかが訪ねてきても、お出にならないようにお気を付けください。」

「もちろんです。」


 朝食を口にする中、アレクシスさんの注意を受けて、私はこくりと頷いた。

 そういえば、一応アレクシスさんとカーライルさんには聞いておいた方がいいかなと、朝食を食べ終え、食後のお茶を頂く段になって私は二人に話しかけた。


「今日なんですが、一日この建物の中ですし、侍女の皆さんと交流をしたいのですが、よろしいでしょうか?」


 皆さんそれぞれにここでのお仕事があるはずなので、無理にとは言わないが、できればいいよって言って欲しいところだ。長時間拘束はしないし、ちょっとでもいい。私にもうるおいタイムをください。


「かまいませんよ。本来、彼女たちもアオ様のお相手をするのも務めの一つです。」


 何だって?私はびっくりして一度持ち上げたカップをすぐソーサーへ戻してしまった。


「心を許せる、口の堅い侍女は貴族女性にとっては万金に値するともいわれますので、聖女様もそうした相手をおつくりになってもいいかもしれませんね。」

「いや、さすがにそこまではいいです。できれば、お菓子の評判を広める窓口になってもらえたらと思っているくらいで…」


 アレクシスさんからの驚き発言に続くカーライルさんの驚き発言。

 私は力なく首を何度も横に振ってしまう。最近二人の高貴発言が加速したまま止まらないんだけど、何かきっかけありましたっけと問いたくなる。

 ちなみに私の頭ではさっぱりとわからないので、ぜひ誰か教えてくれ。


「なるほど、それは良い案ですね。」

「そろそろ屋敷から料理長の返信と、再改良した分のお菓子が届くはずです。最初に持ってきた分は惜しみなくお使いください。」

「ありがとうございます。」


 またしても、貴族特有の文化に戸惑うことになったが、それはそれとして置いておくこととする。無理やり頭の隅の隅の隅へ押し込んでしまう。

 だいたい、ここの侍女さん達って、アレクシスさんとこの人だよね。

 勝手に引き抜いちゃだめだと思うの。

 あぁでも、許可が出てよかった。嬉しくてうきうきしてしまう。

 うきうきついでに、もう一個お願いしてもいいだろうか。


「それと、料理人さんにもお願い事があって、厨房へ伺ってもいいでしょうか?」


 せっかくなので、卵焼きを食べたい。とっても食べたい。

 お昼はお二人がいないので私一人だ。多少珍妙な料理をお願いしても許されるのではないだろうか。

 まぁ、お願いしてすぐにメニュー反映してもらえる可能性は限りなくゼロに近いだろうけど。

 厨房にも厨房の予定がある。


「それならちょうど良かったです。実は近いうちに聖女様には彼に会っていただきたいと思っていたのです。」


 にこやかなカーライルさんの顔を見ながら、私は、はて?と首を傾げた。なぜまた料理人さんに?と、疑問符が浮かぶ。


「兄より、聖女様の口に入れるものには細心の注意を払うようにと、聖女様専属の料理人が配属され、現在こちらの厨房を取り仕切っているのです。聖女様が主となりますので、きちんとご挨拶の場を設けたいと思っていたところだった。というわけです。」


 私は、ポカンとしてカーライルさんを凝視し、困って、アレクシスさんにも視線を向けたが、私の戸惑いなど二人には全く分からないのだろう、特に気にした様子もなくお茶をすすっているアレクシスさんが視界に入るだけだった。


「え、あの、専属?」

「はい。なので、希望や、新しい試みなどは何でも気軽にお伝えいただいてよろしいのですよ。」


 私の方は全然よろしくない。なんだってそんなことになるんだ。私はレガートに散財よくないと伝えたはずではなかっただろうか。それとも、ご本家様にとってこのくらいは金を使ったうちに入らないという事だろうか。

 いやいやばかな。人を雇うという事は、人を養うという事だ。会社の中でも人件費はかなりの割合を占める出費だぞ。

 私一人に対して使われている予算の内訳ハウマッチ!

 ディオールジュ兄弟なんなんだ。

 頭を抱える案件が増えたが、既にこの厨房で働いているのだから拒否するわけにもいかない。

 なにより、キッシュもまた食べたい。

 私はまた一つあきらめの境地という物を覚えました。



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