フラグは先に折るに限る
13人ものおじ様おじい様をやり過ごした私は、次に騎士様方を紹介しますとフラウタンド様に言われて、扉の方へと体の向きを変えた。
私が通ってきた真ん中の通路を挟み、左右に綺麗に並ぶ騎士様方。
その様子はまさに物語で読んだ光景。
上位階の皆様はやはりそれなりにご高齢だったが、騎士様方は年齢がずいぶんとバラバラだ。
「第1大隊長」
「はっ!」
フラウタンド様の声にかっちりとした返事をし、通路へ3歩、くるりと体の向きを変え大股で3歩、胸板の厚い老齢と言うにはあまりにも生命力にあふれている方が目の前に立たれる。
そして、その後ろに付き従う一般の騎士さんが2名。
私の身長が小さいのもあるんだけど、体の厚みとか、肩幅とかの圧がすごくてとても大きい。単体でも大きいのに、更に後ろに騎士さんがいるので尚の事圧が強い。まさか全員から自己紹介とかされないよね?と、内心逃げ腰になる。
やっと13人もの自己紹介が終わったのだ、こっちはあっさり終わってほしいよ。
整えられた口ひげと短い髪の第1大隊長さんは厳しいお顔でじっと私を見降ろしていたが、ゆるりと膝をつき、私を見上げてきた。
後ろの二人も同様に膝をつくので全員の顔がよく見える。
これ、何の儀式?
「失礼。私の体は大きいため怖がらせてしまいますので…」
いかめしい顔に似合う太い声がそう説明してくれて、あっと自分の顔に気が付く。
どうやら膝をつかれて困った顔をしていた様だ。
「お心遣い感謝いたします。」
「とんでもございません。私は顔もこの様でございますので、子供を泣かせてしまうのです。」
と言う第1大隊長様のマントを後ろの騎士さんの内の一人がくんっと引っ張ったのが見えた。何かの合図だろうか。
すると、ゴホンと一つ咳ばらいをし、大隊長さんは自己紹介を始めた。
「私は中央教会第1大隊と騎士団の調整を任されておりますベルカントと申します。以後、お見知りおきください。」
「丁寧にごあいさつ頂きありがとうございます。互いに良き関係を築ければ幸いです。」
第1大隊長さんの挨拶はそれだけで、すっと立ち上がり元の場所へ戻られた。
大隊長さんだけの挨拶で私はほっと胸をなでおろす。挨拶も短いし、心遣いもできる老齢の騎士様って素敵だなと好感度はガン上がりである。
そこからはフラウタンド様の声に合わせて次々と大隊長さんが私の前に来て挨拶をし、戻って行く。
第2大隊長はやたらと装飾品が多い人だった。
立ち振る舞いはどこか優美で、貴族的な雰囲気の中年の方。後ろに3名連れていた。
堂々たる様子はなんかすごいなぁと思ったけど、貴族っぽさがあまり関わり合いにはなりたくないと思わせる人である。
第3大隊長は30代中ごろの地味な顔立ちの方だったけど、強かそうな印象を抱いた。
やはり3名の騎士さんを連れていて機会があればぜひ、他の騎士からもご挨拶をさせていただきたいものです。と、言われたので、機会があれば。と、今はノーだと意思表示しておいた。
まぁ、できる事なら未来永劫答えはノーなんだけどね。
そして、第4大隊長。エレイフの番になった。後ろには2名、知っている顔が並んでいる。名前は知らないけど。
中央教会についてからずっと離れて過ごしているので少々不思議な気分だ。
どうやら私はエレイフが付いている事に慣れ過ぎたらしい。いつもは斜め後ろについていたエレイフが、私の正面にやってくる。
「お久しゅうございます。中央教会にご到着されてからはお姿を拝見することは叶いませんでしたが、心安らかに過ごされておりますでしょうか。」
主様とも、アオ様とも口にしない挨拶。
多少なりとも周囲にマウントを取るだろうかとあれこれ予想していたのに、その予想は外れたようだ。
「お久しぶりでございます。ご心配頂きありがとうございます。日々つつがなく過ごしておりますわ。」
エレイフと名前を呼ばないように気を付けつつ言葉をかける。とても、むず痒い。
お嬢様言葉で会話するのなんて、初対面以来じゃないの?って振り返ってしまうね。
「それはようございました。」
なんてすまし顔で返し、定型の挨拶をするとエレイフは定位置へ戻っていった。
わー!おっとなー!
私の感想があまりにも大人じゃないというのは置いといて、エレイフの新しい一面にちょっとばかり感動しながら後姿を見送った。
続く第5大隊長は、年齢が全く読めない。
まっすぐ歩いてきた時には若々しいというか少し幼さの様なものを感じたのだけれど、挨拶しながら柔らかく微笑む表情からは老齢の紳士の包容力の様なものを感じ、全体的には如才ない。という言葉が浮かぶ人だった。
連れている2名の騎士はぎりぎり20代っぽい人と、20代半ば位に見える人で、やたらと若い人を連れているなと思った。
最後は第6大隊長。神経質な中年男性という感じである。
騎士らしさはあまり感じないけど、はきはきとしゃべる発声を聞いていると、話し方も騎士団では教えているのだろうか?と気になり始める。全員種類は違えど発声と活舌がやたらと良い。
3名の騎士はそれぞれに方向性の異なる表情をしていたのが印象的だった。
「以上、6名の者が中央教会に属する騎士団の大隊長でございます。」
「ご紹介いただきありがとうございました。」
「今後、護衛として顔を合わせる事も多くございましょう。ぜひ、これを機に親睦を深めていただければと。」
にこやかに笑うフラウタンド様を見て、護衛騎士という単語が脳内をよぎった。
そして、理解する。
正装の大隊長と、引き連れられた騎士たち。連れてこられた彼らは、ちゃんと見れば顔の良い部類ばかりである。
目の前に並ばれた時は、余裕もなければ興味もなかったのでよく見てなかったと言ったらどんな顔をされるだろう。と、思いつつ眼前の光景の意味が一つ一つつながっていく感覚に納得し、頭の中の雑多な情報が取り払われる。
若木の君ちゃんも、過去にこれで釣り上げられたという事か。
だが、そのカードを見せたのは間違いでしたね。と、私は目を光らせる。
せっかく頂いた好機。きっちりと私の考えをお伝えして爪痕を残させていただきますよ。と、私は渾身の笑顔でそこにいる全員を一度見渡し、フラウタンド様に向き直る。
「なんと深き懐でしょう。さすがは中央教会を束ねていらっしゃるお方でございます。長くこちらに留まる予定ではないわたくしに、そこまでお心を砕いてくださるとは、その優しさに感謝いたしますわ。」
一瞬だけ、フラウタンド様の笑顔がこわばったように見えるが、本当に一瞬の事で、もしかしたら見間違いだっただろうかと思うほどだった。さすが、議長を務めていらっしゃるだけある。
周囲を見渡せば、その胸中は様々な様子。
早く去ってくれた方が良いと思っていそうな表情をいくつか見かけたのは収穫だった気がする。ぜひ、認定の儀をさっくりやって早々に中央教会とはお別れさせていただきたいので頑張ってくれ。
「中央教会に留まる間、皆様方のお手を煩わせない様、努めますので、短い間ですがどうぞよろしくお願い致します。」
ただし、護衛騎士のフラグは折るけど。
と、私は一人心の中で戦いのゴングを鳴らす。
心の中で両手で持ったフラグを膝で真っ二つにへし折る私であった。




