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余計な予定が増える謎


 そうして迎えた次の日。


「急な訪問にも関わらず、快く受け入れていただきありがとうございます。」


 と、フレン様は丁寧に礼をとられる。

 できれば打ち解けたかったなぁ。という悲しみが溢れるが、でもあの時はきちんと言うべき時だったとも思うので致し方なし。と、心を慰める。ちょっと言いすぎてしまったのは頭のすみっちょへおいやるとする。

 今後頑張ろう。未来の自分、宜しく頼んだ。


「今日は幸いにも予定もございませんでしたので。」


 他に言いようがあっただろう自分。と思いつつも、誤魔化すように微笑みかける。

 私達も中央教会に来たばかりで色々な調整をしている段階だ。主に、カーライルさんとアレクシスさんが。だから私はステイな状況なのだ。

 まぁ、フレン様のために、カーライルさんとアレクシスさんの予定をすり合わせてもらったので、急な訪問は良くないとは思う。


「フレン様がいらっしゃるという事でしたので、またとっておきのお菓子をご用意させていただきましたの。ぜひご賞味いただきたく存じますわ。」


 よし。今日はスムーズにお席にご案内で来たぞ。やればできる。と、心の中で自分に拍手を送りながらソファーの方へと誘導する。

 フレン様とお付きの二人が昨日と同じ位置に来るのを見計らってゆっくりと腰を落ち着ければ、今日も今日とて素晴らしいタイミングでお茶が出てくる。


「どうぞ、冷めないうちに。」


 今日も食いしん坊万歳な私はお茶を口に含み、芳醇な香りを楽しむ。さすがわかっていらっしゃる。今日のレーズンサンドは濃いめの味がするから、お茶もそれに負けない香りと味のしっかりしたものが出されている。

 お菓子の指定はしたけど、合うお茶までは私にもわからないので丸投げしていた。できる人たちがいる安心感の素晴らしさよ。

 チラリとフレン様とお付きの二人を見れば、フレン様は先日と同じ柔らかい笑みを浮かべていらっしゃるけど、後ろの二人の顔が緊張で硬い。

 この間はやっぱり言い過ぎだったか。申し訳ない。


「フレン様のお口に合えばいいんですが。本日のお菓子も、新しく考案したものなのです。ぜひ感想を伺いたいです。」

「おぉ、先日のクッキーはとてもおいしゅうございましたから、こちらも大変楽しみです。」


 私とフレン様は同時にレーズンサンドを口にした。

 私の知っているレーズンサンドは何口分かある大きさだけど、紳士淑女が食べることを考慮したこのレーズンサンドは一口大である。

 ぼろぼろ零れる心配もないので安心してつまんで食べる。

 幸せの味がする。

 できればクッキー生地はもう少し柔らかくてもいいのだけれど、そうすると全体の強度の問題も出てくるから難しい。それに、この世界のクッキーの常識に照らし合わせると、もう少し柔らかい方が好き。という意見が斬新すぎる様で、料理長が日々試行錯誤しているんだよね。

 そして、どれが正解かを模索してくれている。

 私の不用意な発言で大変な事をさせてしまって本当に申し訳ない。

 クッキーとクリームとレーズンの取り合わせを二人黙って咀嚼して、そしてまたお茶で口を潤す。


「またずいぶんと不思議な風味が。これは何が使われているお菓子なのですか。今まで味わったことがない風味でございますが。」

「ふふ、レーズンにちょっと工夫を。これ以上は秘密です。これから皆様方にご紹介していくものですから。」

「企業秘密という事でございますね。」

「そうなんですの。でも、喜んでいただけて嬉しいです。先日お出ししたクッキーと一緒に手土産に包ませていただきましたので、よろしければお帰りの際にお持ちくださいませ。」


 フレン様はとても嬉しそうに顔を綻ばせる。

 やはり、フレン様は甘いものがお好きなようだ。お付きの二人はどうかわからないが、一応、心証はよくしておいた方が絶対にいいよね。


「少し多めにお包みしておりますので、そちらのお二方からも、感想を頂戴できれば幸いです。」

「このようにお気遣い頂き感謝の念に堪えません。」


 みんなでぜひ分け合っていただきたい。と、笑顔を振りまくが、お二人とも緊張の面持ちを崩されることなくありがとうございます。ととても丁寧に礼を取られた。

 そんなに怖くないよー。とってくわないよー。と、思うも、一度怖がられてしまったのであれば致し方ないことかもしれない。何せ、この夢の様な美少女顔は圧があるのだとアレクシスさん、カーライルさんのお墨付きなのだから。

 それにしたって、私ばっかり話している状況はちょっと辛い。

 正直、ここからどうスムーズに話題ふりをしたらいいのかさっぱりわからない。コミュ障にこういう会のホストをさせるのはやめてもらえないだろうか。

 にこにこと笑顔を保持しながら、いくら考えても話のとっかかりがわからない。スムーズな会話ってなんだろう。日常会話すらおぼつかないのに。


「フレン様は甘いものがお好きなご様子でしたので、ぜひゆっくり味わっていただきたいと思いましたの。」

「嬉しいことを言ってくださる。」


 ふふふと二人で笑顔を振りまく空間は、お花が飛んでそうな空気にも見えるが、全然そんな事がないのは私にもわかるよお付きの人たち。


「ところで、アオ様には連日重ねて大変な失礼を致しました事、申し訳なく思っております。」


 お菓子トークで何とか場をつないでいた私とは違い、すっとフレン様が話題を変えてくださった。さすが年長者でいらっしゃるありがたい。

 にこっと笑ってどうぞ進めてくださいという空気を出しておく。謝罪に対して受け入れるのか受け入れないのかを明言するのもよく考えてやらないといけないんだから貴族って早死にしそうだよね。


「承認の儀につきましてはお約束の日までに予定をお知らせしたく存じますが、その前にぜひ、教会についてアオ様には知っていただきたいのです。」

「教会について…ですか?」


 思ってもみない申し出に、私はちらりと左右を見た。

 今日も今日とて私の左右にはカーライルさんとアレクシスさんが控えてくれている。

 ありがたいことに、何かあれば対応してくれる心づもりのお二人の涼しい顔にちょっと勇気づけられて、私はフレン様に先を促す。


「教会内のご案内と、騎士団と高位階の者のご紹介をさせていただきたいのです。」


 ひえ…と出かかった音を何とか喉の奥に押し込め、笑顔を保持する。

 何それ怖い。

 教会の中は迷子になるから、案内してもらえるのは嬉しいけど、騎士団とか、私は紹介してもらわなくて全然いいよ?と思ってしまう。何せ護衛騎士を選ぶ気がない。そして、高位階って…教会のトップとご面会という事ですか。そうですか。遠慮したい。

 遠慮っていうか、全力でお断りしたい。

 したい…が、私の目の前のフレン様の困った笑顔に、嫌とは言いにくい。

 アレクシスさんの事情やら、カーライルさんの仕掛けやらを考えると、どう見てもこの立ち位置は貧乏くじとしか思えなくなってきていて、その笑顔に同情を禁じ得ないのだ。

 うぅ…会いたくない。合わなくていい。けど…致し方ない。


「…アレクシス様とカーライル様の予定が合う日でしたら、是非に。」


 逃げ出したい私は、ギリギリのところで逃げ腰にならないように頑張りながら、前提条件だけは忘れずに絞り出す。


「後見人であるカーライル殿はわかりますが、アレクシス様も…ですか?」


 それに対し、フレン様は恐る恐るといった様子で私の次にアレクシスさんの様子を伺ってきた。


「えぇ、アレクシス様は私の…」


 あえて一拍、呼吸を置く。私の心も落ち着けて、言葉を紡ぐ。

 『(ぎょく)』と謎の表現をされているアレクシスさんの事を中央教会の人に向けて語るのは、さすがの私でも勇気がいる。否定や拒絶は誰でも怖い。


「家庭教師。で、ございますので。」


 この場所というよりは、この世界に慣れていない私にとって二人との関係は命綱の様なものだ。

 ね、アレクシスさん。という気持ちを込めてアレクシスさんへ視線を送ると、その通りという顔でアレクシスさんが頷き、部屋の中がシン…と静まる。


「かてい」

「きょうし」


 お付きのお二人がポロリとぼうぜんとした声を出した。


「フレン様には伝わっていると思ったのですが…?」

「え、えぇ、はい。こちらをお出になる際にそのようにはおっしゃっておりましたが…本当に、アレクシス様に?」


 私にとってはガチの家庭教師様で、私の導き手なのだけれど…ほかの皆様にはどうやら行方をくらます体のいい口実だと思われていたらしい。もしくは、アレクシスさんが人に教える事ができるはずがないと思っていたかのどちらかだろうか。


「もちろんです。とても分かりやすく説明してくださいますし、とても丁寧な指導ですのよ。道中も、至らないわたくしを色々とフォローしていただきました。」

「アオ様はとても呑み込みがよろしいですから。素直でとても良い生徒でございますよ。」


 ほんのちょっとだけ口角が上がる笑みに、私も嬉しくなる。

 人前だから取っているポーズだったとしても先生に笑って褒められて嬉しくないはずがない。


「御覧の通り、お二方はとても仲の良い先生と生徒なのですよ。」


 カーライルさんが更に柔らかく付け加えてくれる。仲良く見えてるなら私としては嬉しい。

 へへへ、と場違いかもしれないけど頬が緩んでしまう。くすぐったい気分だ。


「そういうわけでございますので、予定につきましては、お二方の予定も加味してくださいませ。」

「承知いたしました。」


 それにしても、余計な予定が増えてしまったな。

 部屋で一人になった時、胃痛しかない案件に私は天を仰いだ。


「そういうのはいらないんだってばよ。」



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