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うららかな昼下がりに



 さて、フレン様に1週間で予定を持ってこいと言い放ってしまったので1週間くらいはぽっかり時間が空くものだと思っていたのだけど、なんと、スピーディーなことに神様と森で会ったその日の昼に、またフレン様から面会を求める申し出が来た。

 そんなに早く物事が決まるんだったらなんで初めから予定組をしていないんだと思いつつ、それでは明日の午前中にとお返事を返して出迎えるための準備をする。


「明日はどちらのお菓子にしたらいいですかね?前回出してないレーズンサンドか、ケーキのどちらかをお出ししたいなと思うんですが。」

「さすがに、お酒の強いケーキは昼間にお出しするのは向かないですね。」


 苦笑するカーライルさんは、お久しぶりの教会スタイル。

 たっぷりとした袖がひらりとしていて私は好きだ。教会スタイルは、全体的に布が多くて体のラインが出ないし質素なんだけど、ローブ状の上着は裾が長くひらみがあるし、袖も裾に行くほど広くなっていて目に楽しい。

 そこから上に視線を移せばいつもの髪型が目に入る。ゆるく縛った髪が肩の前に垂らされ、一緒にまとめられずに顔の横に垂らされている髪ががたまに目の端を隠すのが、ちょっと色っぽいことに気づいてしまった。何を考えているんだ私は。

 一番見慣れていて安心する格好のはずなのに、新しい発見をして自分の首を絞めてる気がする。

 不自然にならない様に努めてゆっくりと視線を外しつつ、私は顎に手を当てる。


「そしたら、レーズンサンドが良いですね。うーん。お酒の強さを考慮すると、今後ケーキを振る舞える場面が限られそうだなぁ。」


 売り出す前にできれば王都の人の間に広めておきたいのだけれど、難しいだろうか。と、考え込む。


「でしたら、フレン様を晩餐にお招きしてみてはどうでしょう。」

「お招きと言っても…私が招くのはありなんでしょうか?ここはアレクシスさんの管理されている建物ですよね。」


 部屋を間借りしているに過ぎないのにという気持ちなのだが、カーライルさんは交流は大事ですから。と気負う様子もない。強心臓だ。


「それに、この宮の料理や配膳などに必要な人員の7割程は、現在当家から人を出しておりますし。」

「え?」

「アレクシスは普段最低限の清掃人員くらいしか配置しておりませんので。」

「昨日お茶を淹れてくれた方以外も、カーライルさんの所の人だったんですか!?」

「おや、彼にお気づきでしたか。」


 驚いているのは私のはずなのに、カーライルさんの方が驚きに目を開き私をじっと見降ろしてきた。いや、私も全員はわからないけど。


「えっと、あの、たまにカーライルさんの横にいらっしゃるのを見かけてましたし。」


 アイスブルーの視線にドキドキしすぎて、声が上ずる。

 仕方ないんだ。顔面偏差値が高すぎて慣れる気がしないんだ。今日は珍しく二人だし。

 かっこ悪すぎるので早く壁になって私じゃないかわいい子とカーライルさんの、一枚絵の様な姿を端から見ていたいです。


「そうですか。…フェルヴィドも喜ぶでしょうね。」


 あの方はフェルヴィドさんというのか。まぁ、名乗られない限り名前をお呼びすることはないんだけど。

 ずいぶんと華やかな見た目だったのと…あぁ、これは思い出すのはやめておこう。うん。まぁ、ちょっと印象深いことがあったからお顔を覚えているだけで、全然どんな方かわかっていないから、喜ぶと言われてもちょっともぞもぞする。


「私はちょっと見覚えがあるなという位ですし、そんなに喜んでもらう事でも…」

「あぁ、警戒なさらなくても大丈夫ですよ。彼も、聖女様が人に膝をつかれるのは望んでいないと重々わかっておりますから。」


 この世界に来たばかりの頃の出来事を思い出して、胸を深くぐっさりと刺される。あんなことはもう起きないとは思うけど、思い出すだけでもダメージが甚大だ。


「そ、そういえば、今日はアレクシスさんは中央教会の方に呼ばれてるんでしたっけ。」


 話題をそらそうと思いついた話題を早口で唇にのせる。

 今までほとんどなかったカーライルさんと二人という状況を改めて思い出させる話題ふりをしてしまった事に一瞬後悔した。さらりとゆれる柔らかな髪が視界の端に映る。


「簡単にでいいんですが、アレクシスさんのお仕事って、どういったことをされてるか聞いてもいい…ことですか?家庭教師は本業じゃないですよね。」

「ふふ、そうですね。アレクシスが家庭教師…というのは、呼んだ私が言うのもなんですが、ずいぶんと面白い。」


 珍しくも顔全体が楽し気に彩られるカーライルさん。その右手が軽く握られ、口元に添えられるのを私は目で追いながら、面白い?と復唱する。


「アレクシスの仕事について、アオ様にはあまりお話ししたことはありませんでしたね。」


 私も約束の事があったから余計にそれについては触れなかったしね。と、頷く。


「基本的には中央教会で魔法の研究をしていますよ。たいてい引きこもって一人でやっているので、本来王宮の研究機関所属でもいいのですが、もう一つ、アレクシスだけが携われる研究があるので、神殿に属しているのです。」

「アレクシスさんだけ…」


 この間、教会の方が言っていた『(ぎょく)』というのと関係あるのだろうか。

 聞きたいような、耳をふさぎたいような気分だ。

 カーライルさんは意味深な視線を私にまっすぐ向けて、一呼吸おいてから口元を緩めた。


「祝福と奇跡に関する研究…ですよ。」


 思いっきり首を吹っ飛ばされたような衝撃的情報を与えられ、私はあほのように口をぽかんと開けてしまった。


「祝福と…奇跡…」

「えぇ、実はアレクシスをそれで釣り上げたのです。普段なら中央から動かない予定の人ですが、聖女様がこの世界の方ではない事、至上なる御方との繋がり等各所へ隠すには場を引っ掻き回す必要と、口の堅い家庭教師が必要でしたので。」


 あれぇー?


 ここ最近の出来事で、アレクシスさん事情に巻き込まれて、(ぎょく)がどうのとマウント取られたのだと思っていたけど、なんか、事情がまた変わってきた気がする。

 逆か?逆なのか?

 カーライルさんが全部巻き込んだのか?

 なんか、あれ、今まで思っていた事や感じていた事と現実が食い違っているように感じるのは、気のせいだろうか。

 それに…だ。研究内容がそれって、もしかしなくとも、私ってば研究対象だった?


「中央にいるはずだったところを留守にしていたので、今は上層の皆さんに呼ばれている頃でしょう。」

「呼び出し…」


 本来の仕事の為かと思ったら、もしかしてお叱りを受けているのだろうか。

 叱られるというのがアレクシスさんと全く結びつかないけど。

 ところで、さっきから驚きすぎて私はずっとカーライルさんの言葉を復唱してばかりである。

 間抜けが過ぎるのでどうにかしたいが、思考が追い付かない。


「えっと、そうしたら家庭教師ってもしかして中央では難しいですかね。」


 そろそろ中央の仕事の話からなんとか話題をそらせないかと、私は舵をきる。

 この話題は中央についてからちょっと心配していた事柄でもあったから、するりと唇からでてきた。


「そこは大丈夫だと思われますよ。それに、朝から呼ばれている理由はそれだけではないはずですから。」

「良かった。まだいろいろと知りたい事も多いので。」


 ほっと胸をなでおろす。

 まだ今しばらくは近くに居られるらしい。


「そうですね。たった4、5か月ではこの世界の事を知るにはあまりにも短い。」

「町の中も歩いてみたいですし。」

「抜け出す話を覚えていらっしゃいましたか。」

「忘れませんよ。だって、私の知らない世界ですよ。いろんな場所を見たいじゃないですか。森の様子も、私の生まれた世界と違いましたし、通ってきた丘陵地帯も、あんな風景初めてでした。」


 パレードはいただけなかったが、馬車の窓から見える風景に私は高揚した。知らない世界。知らない風景。知らない植生。騎士の駆る馬は美しく、並走する騎士の装備が陽光をはじく様は物語の一幕のようだった。


「それに、商家の方とお会いする前にお金に関する常識を身につけないとまずいなと思ってますし。」

「…そういえば、この世界の貨幣についてお教え…していなかったですね。」


 あぁ、時折現れる、基本的過ぎてすっぽ抜けてた系の事柄がまた一つ。

 カーライルさんとか、現金を持ち歩く必要のない人種だもの。お金の数え方なんて意識に上らないだろう。


「早いうちに穴埋めしていかないと…ですね?」


 にこっと笑いかければ、そうですね。と微笑みを返された。

 ぜひ近いうちに市場でお買い物がしたいところである。


 そんな雑談をさしはさみつつ、私はカーライルさんと一緒にフレン様のお出迎えの準備をしたのだった。



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