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久しぶりに切れ散らかしたので引きこもりたい



 私の渾身の笑顔を受け、フレン様は一瞬視線を泳がせたような気がした。

 おや?私の笑顔、なんか変だっただろうか。疑問に思うも変な態度を出すわけにもいかない。

 平静を装ってとりあえずお茶を一口飲む。


「恐れながら、アオ様には今しばらくこちらでお待ち頂きたく。」

「今しばらく?しばらくとは?」


 あれ?ずいぶんと歯切れの悪い言葉が返ってきたぞ。と、私は数度瞬きを繰り返し、今度こそ小首をかしげた。


「えぇ、アオ様を聖女であると承認する場を設けますのに、少々日数がかかる次第でございまして、それまでの間はこちらでお待ちいただきたいのでございます。」


 私は、フレン様の言葉を咀嚼し、考える。

 今しばらく…数日…どちらもはっきりとしないものだ。そして、場を設けるのに時間がかかると言う理由付け。

 彼らは、スケジューリングという言葉を知らないのかな?

 いや、スケジューリングという単語を知らないのは当たり前なんだけど。それはさておき、予定を立てるという事はするよね?

 これはある意味祭事とか神事に近い事だろうと私は考えている。そうした催しであれば、準備や当日の手はずなどのために事前に日付を決めてそこに向けて準備をすることになるのが普通ではないだろうか。

 それが、準備をして、それから日にちでも決めるつもりなのか?馬鹿なの?

 すっと頭の中が切り替わる。私の中で仕事モードがパチリと起動した。


「フレン様」

「何でございましょう。アオ様」

「一つ、確認したいことがあるのですがよろしいですか?」


 じっと見据える私の目を見返すフレン様の顔が一瞬強張った。


「もちろんでございます。」

「ありがとうございます。勘違いで話を進めてしまうのは申し訳ないですから、快くそう言っていただけると助かります。」


 私は一呼吸置き、冷静に、冷静に。と自分に言い聞かせる。

 馬鹿なの?と思った時点でちょっと頭に血が上ってるのは確かなのだ。


「私がこちらに来るにあたり、教会の方々より急いでくるように。と、急かされたと記憶しているのですが、お間違いございませんでしょうか?」

「その節は大変失礼を…」

「謝罪は必要ございません。事実確認をお願い致します。」


 仕事モードになったために、いつの間にか敬語モードに入っているなと自覚するが、こちらの口調で押し進めた方が私的にも話しやすいから一旦淑女問題は端に寄せようとスルーする。

 私は事実確認をまずしたいのだ。

 バッサリ切るにはこっちのモードの方が都合がいい。


「は、さようでございます。」

「私がこちらへ来る予定については、事前に中央教会の皆様にはわかっていたはず。そして、私共は当初申し出た予定を繰り上げてこちらへ参りましたね?」

「さようでございます。」


 じっとフレン様を見つめていた私は、そうですよね。と頷きながらそこで一度お茶を口に含む。


「お互いの認識にずれは無い様で安心いたしました。ところで」


 と、ここまで浮かべていた笑みをかなぐり捨てる。私はちょっと怒っているのだ。怒っているとわかるように伝えねばいけないので笑みは今はいらない。


「急いで来るように呼び出していながら、準備が整っていないというのはどういう事でしょうか?」


 人の予定をなんだと思っているのだろうか。


「団体の規模が大きくなればなるほど、意見の統率に時間がかかることは私もよく理解しているつもりです。私を直接見てから決めなくてはいけない事柄ある可能性も視野に入れ、数日~2週間程は時間が空く可能性も考慮しています。ですが」


 一呼吸、間を置きじっとフレン様を見つめる。


「『今しばらく』というのはどういう事でしょうか。なぜ、具体的な日数が決まっていないんですか?私がこちらへ到着する予定日をお知らせしてからの日数だけでも、3週間程は準備時間があったはずでは?なぜ、急がせたそちらが、私達を待たせる事になるんでしょうか。」


 準備ができてもいないのに、こちらには急げと追い立てたのだとしたら、かなり腹の立つ話だ。エレイフとのバトルやその後の私の平和な生活返上は何だったのだ。

 それに、今後の私の時間についても、何だと思っているのだ。

 時は金なり。他人に時間を浪費される謂れはない。


「皆様方は、私が待てと言われればいつまでものんびりとここで日向ぼっこでもして待っているものだとでも考えているので?」

「そのような事は決してございません。」

「それは何よりです。では、皆様方は、私にも私の予定があるとわかっていながら、そちらの都合に合わせさせ、あまつ、いつまで待たせるかわからない予定のために私の時間を浪費しようとお考えだという事ですね。」

「まさか」

「まさか。そうですか。まさかそんなことは考えてませんよね。では、今後の予定につきましては私は私の予定を組みますので、先約のある日はそちらの提示する日程に参加できません。ご了承、頂けますよね?」


 フレン様の言葉をオウム返しにしたのを皮切りに、畳みかけるように言い放つ。

 まぁ、まさかそんなつもりは毛頭ないと普通なら言うよね。わかる。と、考えての発言なので、言葉を遮りオウム返しは見事にきまった。

 そちらが予定を提示しないのだから、こちらがそれに合わせる必要はないよね。と、心の底から思うし、何なら今言った通り実行することだって、私の左右にいる二人は請け負ってくれる自信がある。

 が、ここまで畳みかけた事でちょっと溜飲が下がった私は、ふと、これってフレン様に言ってもどうしようもなくね?という気持ちがわいてしまった。

 いや、意味はある。だって、フレン様も中枢を担う一人なわけだし。

 だけど、全てフレン様一人の意思ではないのに、全てこうやって畳みかけられて吹っ掛けられるなんて、窓口業務辛すぎる。という事を思い出させて辛み…となった。

 フレン様だって、言葉に窮して、それについては…と、あたふたされている。


 やっちまった…。


 いくら私にとって中央教会の窓口であろうと、全てここで決めろやおらぁというやり方は、窓口の方があまりにもかわいそうだ。

 ここまでの畳みかけで、私の言いたいことは伝わったはずだ。たぶん。


「と、言いたいところですが、フレン様にここで畳みかけても意味がないことは私も承知しております。」


 私は何とか自分の気持ちを軌道修正して、ここまで出た言葉はポーズなんだぜ。という事に落ち着けた。

 大人だからね。私も。

 しまうべき刃は心得てるさ。


「複数の承認が必要な事もあるかと存じます。私の意見は述べさせていただいた通りだとどうぞお伝えください。1週間以内に、今後の日程を提出ください。提出が無い場合は先ほどお伝えした通り、こちらは勝手に予定を立て、それに沿って動きます。予定は全て先約優先であると覚えておいてください。」


 ここまでの内容はよろしいですね?と、確認すると、フレン様と後ろの二人がそろってこくりと頷いた。

 三人で聞いていてくれているのだから、最終的な聞き漏らしはそこまでなかろう。と、判断する。

 一人で聞いてると、交渉とメモの両立が難しいからね。


「重ね重ね、ご迷惑をおかけします。」


 フレン様がそう言うのを、さっきとは違う気持ちで私は眺めた。


「1週間後に予定をご提出ください。」



 フレン様が去った後、その日も一日慌ただしかった。

 カーライルさんがいつ準備したのかわからないが家具を色々と運び込んでくれ、一緒に配置をあれやこれやとし、アレクシスさんはアレクシスさんで家具の色味を見てリネン類の入れ替えをし始め、意見を求められたりした。

 でも、絵画の飾ってある壁に掛ける布の色とか意見を求められても私も困るよ?

 そんなハイソサエティなことしたことないし、部屋全体の色調を見ながらカーテンとかベッドの天蓋とかの色を決めるとかも謎だらけで逆にどういう風に選んだらいいのか教えてくれと家庭教師に教えを乞うた。


 そんな感じで頑張った結果、お部屋は当初よりずいぶんと印象が変わった。

 窓には藤紫の透け感のあるカーテンがかかり、上方は飾り布が掛けられ、綺麗なドレープを描いている。また、カーテンの用途にはならない横幅20センチくらいの布が等間隔で垂れており、長さは窓の半分くらいの高さで揃えられている。布の端は三角に整えられ、菫の模様が刺繍されている。

 もう、窓だけでやたらと神秘的な美しさを放っていてすごい。

 透け感のある布だから夜になったら中が見えそうだなどと思ったけれど、カーテンを閉めてみるとあら不思議。光が透けて美しいけれど、外の様子は全然見えない。そこら辺の厚みも計算しつくされた布だと思うと恐ろしい。おいくら万円か聞くのはやめておく。

 昨日の事で私は学びましたよ。アレクシスさんは絶対普通の貴族の出じゃないし、普通の中央教会の人間でもないと。

 生まれも育ちも私とは比べ物にならない相手と、金銭感覚のすり合わせをするのは無意味である。

 むしろ、お金を持っている彼が経済を回すのはいい事だ。

 私の心が痛むという事に目をつむれば何の問題もない。はず。

 そして、絵の描けられた壁だが、布の種類が結局決まらなかった。

 貧相な私の豪華さの象徴と言えば、ベロアの赤か青しかない。けれど、白い壁、黒い窓枠、藤紫の神秘的なカーテンと、黄昏から夜に向かい朝へと経過する5枚の絵画に似合うわけがない。というか、これ以上余計な色を入れる必要があるのだろうかと疑問に思う。

 家具類も全体的に色味の抑えられたもので構成されており、なぜかどれも銀細工で加工されててとても美しい。

 部屋の基本構成が白、黒、銀、紫に統一され、どちゃくそ聖女様って感じのお部屋できゅんきゅんする。ここが私の部屋でなければもっときゅんきゅんしてハスハスしたと思う。

 最後まであれやこれやと話した結果、なぜか星銀灰色の布をディオールジュ家から取り寄せることになった。私の予算組どうなってるの、レガート。と、心の中で呼びかけてしまう。


 ちなみに寝室については少し趣が異なっている。


「アオ様はどのようにされたいですか?」

「家具類は執務室と同様の物で揃えさせていただきましたので、どのような色でも合うと思いますよ。」


 と、最初に聞かれた私は、とにかく落ち着く部屋が良いと伝えた。

 圧もなく、かといって隣の部屋の様な神秘的な美しさもいらない。さらに言うなら甘いかわいさもそこまでいらない。ていうか、私、2、3週間くらいで中央教会を出るつもり満々だったから、物を置くのは気が引けるんだよね。

 精神的負荷がかかるとわかっている物を寝室には持ち込みたくない。

 という事で、新しいものは買わなくていいのでありあわせの中で気に入るものを選ばせてもらった。


 窓には落ち着いた深緑のカーテン。カーテンの縁には銀のフリンジがしゃらしゃらとしている。床には灰色をメインとした落ち着いた絨毯が敷かれ、ベッドの天蓋はとりあえず何も考えず白い布をかけておいてもらった。寝る時に余計な色があるのも落ち着かない気がしたから。

 家具類や衣類はもう全てお任せして入れてもらったのでクローゼットの事は何も見ていない。


 一通りの入れ替えが終わり、私はくたくただ。

 お疲れ様でした。とねぎらわれたが、全行程付き合ってくれた二人の方が疲れたのではなかろうか。


「色々手配頂いてありがとうございました。」


 と、お礼を述べると二人ともこのくらいはどうという事もないですよと笑って退室していった。

 そして今日も一人になってからベッドにダイブする。


 もっふりお布団に包まれながら、今更ながらフレン様に切れた自分に対して、言葉にならない感情がこみ上げてきた。

 うわあああああ、フレン様だけのせいじゃないのに切れ散らかしちゃったよおおおおおお。

 しかも、アレクシスさんとカーライルさんの前でドチャクソ切れ散らかしちゃったよおおおおおお。

 途中で思い直したとはいえ、フレン様だって自分に言われてもって思うよね。うわぁんっ。

 めっちゃおじいちゃんに甘える孫ばりに仲良くなりたいと思ってたのに。絶対無理だよ。教会の馬鹿ー!

 明日から顔合わせるのが気まず過ぎる!このままベッドに引きこもりたい!


 人前だったからしまい込めていた暴れる心がここにきて私の中で大爆発した。

 この気持ちを叫びたい!けど、ここは中央教会。そんな奇行に及べるはずもない。

 ただひたすら枕に向かって頭突きをするようにボスンボスンと何度も顔をぶつける事しかできなかった。

 今夜は長い夜になりそうだ。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新ありがとうございます。 [一言] これで1週間の余裕が出来たし、アオが煮詰まっていることもアレクシスさんは気づいているはず。 「ふたつ目の町 ファンサをしないためのファンサ」でのアレ…
[一言] アオさん、お疲れ様でーす(笑) せっかくカーライルさんが忠告してくれたのに、フレンさん、やっちまいましたね。 全く(状況も心も)準備してなかったやつー。 カーライルさんも内心、だから言った…
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