秘密の小箱は開けられた…けどもう一回閉めてくれ
「…歓迎されていないようですし、わたくし、帰っても良いと思いませんか?アレクシスさん」
白髭のおじい様はアレクシスさんに用があるらしいし、白熱している二人は私がいなくても話が進むだろうし。私、ここにいなくてもいいと思うんだわ。
そんな気持ちで同意をもらえたら部屋を出ようと、アレクシスさんに話を振ってみる。
「そうですね。こちらの会話はアオ様に関係ないことばかりですから、お送りいたしますよ。」
あれ、同意だけしてもらえたらよかったんだけど、なぜかこのまま連れ出してくれるらしいアレクシスさん。おじい様の話はいいの?大丈夫?と、心配しつつも一人になるよりは絶対いいのでありがたく私はその申し出に乗ることにする。
「助かります。では皆様、ご用ができましたらお越しくださいませ。失礼いたします。」
マナー的には、退室の許可を本当はもらわないといけないとは思うんだけど、あの部屋で一番位が上っぽかったおじい様は、アレクシスさんよりも立場が下であるという意思表示をしていたから、アレクシスさんの判断であれば、後で怒られたりはしないだろう。と計算して私は何もかもをガン無視した。
ぐるぐるもやもやぐにゃぐにゃとした気持ちがお腹の中にうねってる。
この世界に来てこんな気分になることは滅多にないので、自分の気持ちにうまく名前を付けられない。あえて名前を付けるなら怒りというか、むかついているというか、苛立ちというか、そんな分類だ。
けど、何に対しての怒りなのか自分でもよくわからない。
ところで
「そういえば、出てきたはいいけど、私ってこれからどこで過ごすのか聞いてなかったです。」
アレクシスさんと二人きりになって、はた…と気が付いてしまった。
どこまでもポンコツな自分に羞恥心がすごい。
「大丈夫ですよ。それについてはあの部屋にいた全員意見が割れた事でしょうから。」
「全員って…」
そんなばかな。と、思いつつも耳を傾ける。
「あのままいても面倒毎が増えるばかりでしたでしょう。」
預言者の様な物言いは、確定した未来を確信している様で落ち着かないなとちょっともぞもぞする。
「本当は、先ほどの部屋でアオ様の後見人になったフレン様と対面していただくはずだったのですが、面倒な者が同席したために少々順番が狂ってしまいましたね。いくつかするべき話もできておりませんし、アオ様のお部屋についても、意見が分かれることは明白だったのですが…」
これは予想ではなく今抱いた確信なんだけど、アレクシスさん関係の人はいる予定じゃなかったんだろうな。それを考えると、カーライルさんはその人を追い出すつもりで応戦していた?もしかして。
ちょっと後ろめたさがむくりと顔を上げる。
うぅ…あとで謝ろう。
アレクシスさんは玉と呼ばれてたけど、玉と呼ばれる意味は何だろうか。玉が指すものは国の中でも特別らしいとは、一連の出来事ですぐわかる。私のヲタク的無駄知識から見ても、玉って特別な意味を持つよね。場合によっては王を指すこともあるし…ひぇ…。
そして、カーライルさんと白熱バトルをおっぱじめた人は、たぶん、アレクシスさん推しの一派なんだろうな。
様子から察するに、かなり強火めの人なんだろうな。関わりたくない。
「今後はアオ様と対面する顔ぶれは、アオ様に関係ない者が混じらない様にもっと厳しく対応しなくてはいけませんね。」
「そう…ですね。アレクシスさん関係の人はそっちで何とかして欲しいです。目の前で白熱した舌戦をされてもただ困るだけですし。」
根掘り葉掘りしない約束は忘れていないですから。関わらないのが一番である。
耳にすればそりゃぁ気になっちゃうじゃん?玉って?とか調べたくなるじゃん?
そういう事をしないためにも、情報の規制をお願いします。と思うのは普通だよね。
なのに、アレクシスさんは急にクスクスと笑い出した。とてつもなく艶やかな掠れた笑いが喉の奥から零れ落ちて降ってくるのが落ち着かない。そわそわする。
「あう…なんで笑うんですか。」
困り果てて私はアレクシスさんの方を向けずに通り過ぎていく廊下の壁の模様を視線で追いかけながら口を尖らせた。
「いいえ、律儀な方だと思っただけです。ですが、あの時の約束を、そこまで強固に守らずとも、もうかまいませんよ。」
「…」
かまいませんよって言われても、私はかまいますよ?
綺麗なお声の真意がわからず、私はむむむ…と眉を寄せた。
「面倒な気配を察知。」
そっぽを向いたままの私のつぶやきはしっかりアレクシスさんの耳に届いたらしい。小さな破裂音が聞こえてきた。
アレクシスさんでも思わず吹き出すことってあるんだね。
ところでもうこの神殿の構造がわからないんだけど、あとで地図ってもらえるのだろうか。
「部屋の話に戻りますが、こうしてカーライルに先んじて手を打てるのは私としてはありがたい。」
私は目が点になりながらぽかんとアレクシスさんを見上げる。
「何もお伝えせず、選択肢も与えず都合のいい場所に引き込むのは、貴女に対してはしたくないので真っ向から伝えさせていただきますが、このまま私がご案内する部屋で過ごす場合、しばらくカーライルが忙しくなるでしょうね。」
「それは、アレクシスさんも私をアレクシスさん陣営に入れようとしてるっていう話であってます?」
「さて、ここからの話は廊下でするものではありません。少し庭を散歩でも致しましょう。」
優雅に私の手を引き導く先は、折よく廊下から渡り廊下につながる場所になっていて、渡り廊下から私たちは外へと出た。
ふかふかの緑の絨毯はよく手入れされており、木々の生い茂る庭はとても広そうだ。
木漏れ日の下、整地された道をたどりながら、その綺麗さに私は目を奪われる。
「正直、私は私の陣営などなくて構わないのですが、そうならないのが派閥という物です。」
完全に会話から意識がそれてしまった私を、アレクシスさんの言葉が引き戻す。
せっかくのお庭なのに…とは思う物の、さすがにちゃんと聞かなくてはならないので、私はその言葉に耳を傾け、ふむふむとうなづく。
昔から、神輿を担ぐ側は勝手に自己解釈で走り出すものが多いのを知っている。いろんな物語や伝記ものに描かれていたからね。
担がれる側はたまったもんじゃないと思うのに、言葉は曲解され、希望の道を走りもしない。アレクシスさん陣営は、その典型なのだろうか。
「ただ、私はここにいることで私の派閥の動きを牽制し、抑えている状況です。それとは別に、あの部屋にいた少々頭に血の上りやすいタイプの…」
「強火めアレクシスさん推しの中年の方ですね。」
「あのメンバーはまた違った観点で私の役に立つつもりでふるまってくるので、アオ様にとってはそちらが問題かもしれません。」
「具体的には?」
「今日のように、『聖女』の存在よりも私の方が意味のある物である…というようなことを主張したがるのです。行動理念がいまいち理解しかねますが。」
「じゃあ、アレクシスさんの下にいれば大人しくしてもらえるんでしょうか?」
「そこが読めないのが痛いですね。もちろん、貴女への面会を許可することはありませんが。」
アレクシス陣営、もしかしていくつか系統があるの?と考えつつも、これ以上ご自身の背景を話そうとする姿勢を…やめてはいただけないだろうか…。
私はここまで全力で避けてきたアレクシスさんの話題でちょっとアップアップです。
どうにか話を逸らせないものか…頭をひねるも、だから私にそんなコミュ力はないんだって。私が一番わかってる事じゃんと絶望した。




