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亡国戦線――オネエ魔王の戦争――  作者: 石和¥


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ハルピュイアス・ダウン

 魔王城尖塔上空。


 白翼大隊の精鋭突撃降下中隊100名が尖塔に突入してから5分。

 中隊長ヨハナ大尉と副官以下5名が高度1000mで旋回しながら、魔珠による本隊司令部への定期報告を行っていた。

 数キロ先を見通す有翼族特有の視力を生かし、空中待機しながら地上各部隊からの手信号を中継するもので、いまや魔族軍の共同作戦に不可欠なこの空中観測(サーベイランス)構想は先代魔王の発案・指導によるものだ。

 最初は誰もが否定し嘲笑し、当の有翼族も自分たちだけ負担が大きいと王命に反抗したが、初の運用となった帝国軍との衝突で予想以上の効果を発揮したため、その後は呆気ないほどすんなりと受け入れられた。運用が重ねられるごとに連携も連絡もスムースになり、各部族は積極的に利用・参加するようになった。有翼族にとっても自分たちの地位向上にプライドをくすぐられた結果、抗命どころか改善案の具申までするようになる。

 このあたりは変わり身が早く利に敏い魔族ならではのことだ。


「いまのところ問題はありません。各部隊、敵影確認されず」

「無抵抗のまま陥落する気か? 先王の代なら、有り得ないことだな」

「懐かしむようないい方に聞こえますよ、大尉」

「懐かしくはないが、正しくはあった。そうは思わんか? あのまま続いていたら、今頃は小型魔珠による相互通信で手信号など不要になっていたはずだ。あの王は、少なくとも(・・・・・)前に向かっていた(・・・・・・・・)

「お止め下さい、大尉」


 魔珠は送信状態になってはいないが、王城倉庫から盗んだ低質のゴミ魔珠だけに、何かのはずみで混線する可能性はある。将軍メラリスは自らが王を弑した身ながら……いや、だからこそというべきか、部下の反抗に敏感だ。いつか先王のような事態が我が身にも降りかかるのではないかと怯えているようにも思える。


 地上に動きがあったのは、その直後だった。自分たちが視覚から得た情報を大尉に中継する観測尉官たちが、状況を正確に把握しようと文字通りの意味で飛び回る。だが、遠距離からの視覚だけで何もかもわかるわけではないのだ。


「城内裏門側に敵60!」

「報告にあった軽装歩兵じゃないのか」

「城内に30は確認している、裏門のは別物(・・)だ」

「そんな兵力は存在しない、間違いじゃないのか。新魔王が死霊術を使うという話は?」

「使い手は従者だけだ。だが死霊術の痕跡なし、死霊兵の反応なし、やつらは生者だ」

「そんな、はずは……」

「尖塔内から魔導兵器の反応、退避しろ!」


 高度1000m、地上からの矢も届かない安全圏にいたはずの大尉が、くぐもった呻きとともに動きを止め、真っ逆さまに墜落していった。副官が上官を墜死から助けようと慌てて降下する。


「ヨハナ大尉被弾! 受け止めろ!」


 低高度で伝令飛行中の有翼族兵士たちが異変に気付いて集まってくる。彼らは自分たちの指揮官に何が起きたか見極めようとしたのだが、誰ひとり事態を理解することはなかった。上昇してきた有翼族兵のひとりが落ちてきた大尉の身体に接触した瞬間、首に突き立てられていた棒状の矢から淡い緑の光が瞬き、無数の砕片となって飛散すると部下たちの身体に突き刺さったのだ。


 矢に塗られていた神経毒により呼吸が出来なくなった有翼族兵士は次々に墜落して地上に激突した。飛行向けの身体とはいえ上空数百メートルからの落下では無事ではいられないが、地面に叩き付けられるよりも前に、彼らは絶命していた。

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