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亡国戦線――オネエ魔王の戦争――  作者: 石和¥


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初めてでもない籠城戦

 アタシは城のテラスで、お茶のカップを持ちながらレイチェルちゃんの報告を聞いている。優雅なティータイムというわけだ。


「宰相派の残党は、どうなった?」

「帝国軍壊滅により、ほぼ勢力圏を失っていますね。彼らは元が文民ですし、本当に烏合の衆といった程度です。こちらがある程度の兵を出せば掃討は時間の問題なのですが、肝心のその時間と人手が取れません」

「ちなみに宰相派の支配地域はどのくらいあったの」

「三割といったところでしょうか。いまこちらに取り込まれたのが一割強、残り二割は中立という名の日和見ですね」

「しばらく放置するしかなさそう。将軍派は?」

「現在も魔王領の七割近くを将軍率いる軍部が掌握しています。叛乱軍の兵力は七千ですが、魔族兵は人間のほぼ三倍、約二万に相当します」

「もぉーッ、また二万!? 今度は敵がちょっとだけ少なくて済むと思ったのに」

「それより厄介なのは、王権承認魔術を行う魔術師を拉致して王位の簒奪を狙っていることです」


 ちなみに、お茶の葉は亜熱帯産。つまり魔王領内で産出しないため輸入するか作るしかない。いま飲んでいるのはパットの見つけた香草茶。鎮静効果がありビタミンミネラルが豊富で健康にはすごく良いが、商品にするには苦味が強すぎる。アタシは顔をしかめたが、原因はお茶の味じゃなかった。


「それはわかった。というか、いままさに実感してる」


 城は叛乱軍、つまりは元魔王領軍の将兵に包囲されていた。まだ距離は二キロ近くあり、恐らくこちらの出方を見ているところだ。

 パットの偵察ではその数約二千。彼らは総数七千の叛乱軍で、正面戦力のほぼ半数。残り二千は別行動中なのか魔王城近郊に姿はない。ちなみに正面戦力以外の三千は支援や偵察、輜重などの後方戦力。他に、王国遠征軍からの――離反者か義勇兵か知らないけど、姫騎士を裏切った――人間の兵士が五千ほど合流しているはず。魔族には特に統一された軍服や装備がないから、今回の二千に混じっている白っぽい服装の一団が元王国軍の兵士なのかもしれない。


 対するこちらの戦力は、30名ほどの軽装歩兵(と70を超える輜重兵)だけだ。現状は鹵獲品で補給物資こそ潤沢だが、このままでは攻め込まれて蹂躙され何もかも奪われる未来しか見えない。


 イグノちゃんの秘密兵器頼みにも限度がある。彼女の機械は魔道具だけあって基本的に魔力で動いている。燃費に多少の良し悪しはあっても、威力を出すのにはそれに見合った魔力の消費があるのだ。蓄積された魔石を使うにしても、そこに充填する魔力は必要になる。有限なのだ。

 つまり、いかに優れた兵や兵器があろうと、数の暴力には勝てない。戦術やら謀略やら奇策やらで引っくり返せるのも、せいぜい数倍といったところだ。


「しょうがないわ、こうなったらまた誘い込んで覿面の死を……」

「あ」


 前庭で地響きとともに吹き上げられた土砂と何かの残骸。魔術による遠距離攻撃だ。粉々になって降り注ぐそれが玉座であることを知ってアタシたちは敗北を悟った。


「す、すみません! 私が仕舞っておきさえすれば、いえ、せめて掛布を……」


「まあまあ、そんなに気にしないで。布を掛けようがどうしようが、全国放送で二万の帝国軍を破ったっていっちゃったんだから警戒しない方がおかしいわ。人間側ならともかく、相手は元魔王領軍で城の機能くらい知ってるでしょ。バレるのも時間の問題だったのよ」


 さて。ここは何かいわなくてはいけないのだろうけど、何も思いつかない。


 魔王城は王国領南端から直線距離で200キロほどの、峻険な山岳地帯に建てられている。

 元々は人間の占有地に対する出城というか前線に築かれた砦から発展したもの。部族主義で猪突猛進の魔族らしく後方(それぞれの部族領)から補給と増員を受けつつ兵をスムースに前線まで送り出すという、ひどく極端な軍事原則(ドクトリン)に沿った、城とも呼べない代物だ。

 防衛能力は限定的で、籠城するようには考えられていない。


「何とかなるわ。ひとの価値が問われるのは、どん底に落ちたとき。人生で最も楽しいのは、どん底から上がってくときよ」


 ああ、自分でも信じていない言葉を吐くときって、何でこんな満面の笑顔になるのかしら。


 「賭けてもいいわ。これから絶対、ワクワクすることがいっぱいよ」


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