023 大学ミッション――秋の地獄に叫んだ日曜日!
――日曜出勤。
今日のタスクは、大学メインサーバーの入れ替えの立会いだ。
早朝の寒空の中、マイカーで現場へ向かう。
街ゆく人は風に肩をすくめ、下を向いて歩いている。
しかし――
うちの車だけは胸を張って輝いていた。
そう。
昨日、寒風吹く中で、
3時間かけて『洗車&ワックスがけ』をしたからである。
今日は、ピッカピカのキラッキラ。
もはや“動く鏡”。
(おー、まぶしいよー☆)
*
大学に着くと、警備員さんが笑顔で言った。
「今日は休みだから、どこ停めてもいいよ~」
(マジっすか?)
俺はゆっくり景色の良い場所を探す。
背景と風景が映える、俺の子が輝く――そんな美しい場所を。
だけど、どこもチマチマと、薄汚れた車が止まっていて、
うちの子を中心にした景観には邪魔。
そしてついに見つけた。
ある一角に――誰も止めていない場所があった。
まるで俺が来るのを待っていたかのような、
VIP専用の予約席。
校舎そばの並木道へスッと駐車し、振り返る。
うっとり。
(よし、よし……惚れちまうぞ!)
少し離れて、また眺める。
「……うん、やっぱり美しい」
(秋景色に似合いすぎるだろ俺の子!
そして周りに車がいないのが最高!!)
*
構内ではすでに作業メンバーが集まっていて、
大学職員も笑顔で迎えてくれた。
新サーバーの入れ替えは――
想定外のケーブル探し回り、
心臓止まりそうな瞬間も乗り切って、
なんとか無事に終了。
報告を済ませたのは、15時40分。
「やれやれ……今日はいい日曜仕事だったなぁ」
ご機嫌でサーバー室を後にし、
校舎から駐車場へ向かう――。
*
秋の大学を背景に愛車を眺めながら歩いていたら……
「ん!?」
――何かがおかしい。
俺のピカピカ号に、つぶつぶ模様が……?
近づくにつれて胸がざわつく。
「なんだ?」
ボンネットもドアも、
茶色い丸いモノがびっしり。
それも立体的。
花? 実? 樹液?
いや、なんだこれ。
さらに歩み寄ると、横の木にぶら下がる札が風に揺れた。
「……ア・ケ・ビ」
……アケビ?
なにそれ。デザート? それとも地獄の果実?
慌てて、ティッシュでつまむ――
ヌメェェ~~ッ!!
あんず飴の成れの果てのような粘りが指に絡み、
車にしがみついて剥がれない。
「溶けかけの怪獣の脳みそか……?」
もう、脳の半分が停止。
そしてその香りは――秋の腐乱実。
「アケビってなんだよぉぉぉぉぉ!!!!!」
俺は空を仰ぎ、
静まり返った大学で、日曜なのに叫んでしまった。
そして悟った。
――なぜ誰もここに停めていなかったのか。
*
あんなに輝いていたボディが、
今や アケビ・ヌルヌル・カーニバル。
頭の中で南米の太鼓が鳴り響く。
「オーレッ!!」
車内にあったウェットティッシュで拭くが、
伸びるだけで取れない。
サーバーより先に俺の心が固まった……いや、凍った。
完璧な仕事を終えてホッとしたその瞬間に、
茶色いまだら模様の愛車が、涙で曇って見えた。
(比喩じゃない。いやほんとに)
*
【今日の教訓】
・自然はいつでも、努力の上に“粘着”してくる。
・誰も停めていない場所には、訳がある。
・ホッとした、次の一瞬に気をつけろ。
・そして――サーバより大事なのは、車と体の保守作業。
昨日の洗車で筋肉痛の腕が叫んでいた。
……もう日曜出勤前には洗車しない。
【了】




