挿入話 エレナ=グリッタ 2
「リリー!!!」
殿下の、泣きそうな声が聞こえる。
遠くの、意識の向こう側。
ものすごいスピードで走り飛び、彼女を抱き抱えた。
とても、とても大切な宝のように。
その時、何かがするっと繋がった。
その手前には倒れたまま呆然とするマリーア様。
「マリー!」
と、テンダー様が近くの魔物を斬りつける。
そうだ、私だ。私のせいで、こんなことに。
お兄様のように愛されたかった。
よくやったと、言って欲しかった。
似た境遇なのに幸せそうな姉妹が羨ましくて、妬ましかった。
隣にいたい人の、隣にいられるであろう彼女が、心底邪魔だった。何一つ勝てないのが悔しくて。
だから、祈った。せめて、近くにいられるように。
間違っていた。愚かだった。
こんな人間なんて、利用されて当然だ。
……弟の、魔力も感じる。あの子も同じアンクレットを貰っていたもの。……誰に?思い出せない。無事だろうか。どうか、無事であってほしい。
『……ほう。勇者は、そうか……これはまた、面白い』
私の身体で、勝手に嗤う、魔王の意識。
殿下のいる方へ、歩いて行く。
嫌だ。嫌だ、嫌だ!!
最期まで、殿下の邪魔をしたくはない。
せめて、大事な人を守れるお手伝いをさせて欲しい。
今さらだと思われるだろうけれど、それでも。
自分の意識を集中して、自分の魔力を少しでも取り戻す。魔王でもなんでも、ただの意識体に、ずっと乗っ取られて堪るか!!
『ぐ、き、さま…』
魔王が嗤うのを止めて、顔が引きつるのが分かる。
皆が、私を見つめる。
「…エレナ嬢、か……?」
少しだけの変化なのに、殿下が気づいてくれた。
それだけで、充分だ。
今、私はきちんと微笑んでいられているかしら。
「……はい、殿下。少しの間だけ、自分を取り戻せました。でも、長くは無理でしょう。ですから」
ーーー覚悟を決めろ、私。
「わたくしごと、魔王をお斬りください」
これが、私に出来る、最期の、ことだ。




