61.学園祭。now.6
「あ、なたは、だ、れ…?な、ぜ『願いが叶うアーティファクトだ。まあ、現実はわたしの実体化補助の道具だが』そん、な…わたく、し、もう、ねが…いなん、て……」
エレナは必死に抗っているように見える。けれど、黒い霧が彼女を覆い尽くすペースがあまりにも早くて。
「エレナ様!!」
すぐ隣にいたマリーアが必死に声をかける。それを嘲笑うかのように黒い霧は全て、すうっとエレナの体に入っていった。
「エレナ様!」
『無駄だ。今代の……ふふ、まだ覚醒もしておらぬ聖女よ』
「なっ、にが」
『分かるかと?それはわたしがお前らの言うところの魔王だからであろうな』
ニイィィィィッと、エレナの顔なのに、エレナの儚さが全て消されてしまった醜悪な笑みを浮かべて、それは愉しそうに嗤う。
え?魔王?今、魔王って言った?
いや、あり得ないはずだ!
「そんなの嘘よ!封印はしっかりしてあるって、精霊たちが話していたもの!」
私は必死に言い返した。
確かに雰囲気は怖い。踏ん張っていないと、黒い何かに取り込まれそうな心地になる。けど、ルシールたちが大丈夫って言ってたんだから!
『……ほぅ。わたしの正面に立ってなお、声が出せるか……ああ、貴様ら愛し子か。忌々しい……これの体の魔力量もまだまだ足りぬし……ままならぬものだな。』
それは、私を見下すような顔で一瞥した後に、エレナの手を動かしながら不満そうに呟く。
これが、本当に魔王だとしたら、今私たちに出来ることがあるだろうか。
周りの人々も、異様な様子に気付き始め、じわじわと不安な囁きが伝播し始める。
「エレナ、急にどうしたんだ?何かあるなら、僕に話して…」
『寄るな、虫ケラが』
急なことに戸惑いながらも、妹の変化を心配したローレンが肩に手を掛け話しかけたものの、それはその手をパシッと叩き避けた。
『……本当に今さらだな!罪滅ぼしのつもりか?こやつが兄を求めた時には何もせずにおったくせに。そうだ、だから付け入れたのだ!ああ、礼は言わねばならんか。わたしの復活の足掛かりを作ってもらえたからなあ』
それはクツクツと嗤う。
ローレンの顔は、青を通り越して真っ白になっている。
「ローレン!エレナ、調子に乗るなよ!何が魔王だ!!そんな与太話、誰も…っ、ぐへぇあっ?!」
エレナもどきの態度に腹を立てたらしいグリッタ侯爵が掴みかかろうとすると、彼は透明な壁だろうか、にぶつかり、変な声を上げた。
『お前はもっとくだらぬな。わたしに触るなど、烏滸がましいわ』
「なっ、ぐ……っっ、」
めげずに突進しようとした侯爵だが、それが上下にスッと手を振りかざすと、身体を地面にめり込まされた。
メリィっと地面にヒビが入り、さすがに今まで静観していた周囲の人たちも騒ぎ出す。
「ま、魔王だ!本物だ!」
「逃げ、逃げろ!」
まずい、怪我人が出そうだ。
「お父様、みんなを避難…」
『させるわけがなかろう?』
それは、いつの間にか私の背後で肩越しに覗き込んで愉しそうに嗤い、その手をまた振りかざした。
『闇の叫び』
「きゃあああ!怖い、何も見えない!」
「来るな化け物!」
「体が動けない…っ」
「あなた、私を裏切ったでしょう?」
それの手から黒い霧ーーーなぜか時々光るものもチラチラ見えたがーーが周囲を取り囲んだと思ったら、皆が急に取り乱し始めた。
「腕輪が熱い…これは……精神魔法?」
『ほぅ。愛し子たちには効かぬか……それはアーティファクトか?忌々しい。愛し子たちの苦しみこそ、わたしの糧になるというのに。もう少し強めにかけてみるか?いや、この体がもたぬか?…ままならぬな』
「これ以上エレナ様の身体を勝手に使わないで!」
『ふふ、なら止めるがよいぞ、聖女よ。できるものならなあ?ほら、そこで父親が泣いているぞ。ああ、貴様ら二人を亡くした夢を見ているからなあ』
「なっ!」
本当に好き勝手してくれちゃって!だんだん腹が立ってきた!
「あんたこんなことをして何が楽しいのよ?!」
『ふふ、威勢がいいな、愛し子。そうだな、人間を、精霊を絶望させるのはわたしの悦びだ。どうせ手に入らぬのなら、全てを……』
「手に入らぬのなら」?何を?……誰を?
『そんなことはさせないもんね!行くよ、みんな!』
えっ?リリス?!だよね?いつもと違うような…?
『はーい!はーい!久しぶりだね~』
『せーの!』
『『『『『『フェアリープリエール!!!』』』』』』
んん?!
妖精さん?!




