挿入話 エレナ=グリッタ 1
「リリアンナ=サバンズでございます」
屈託のない淑女の礼を、まだ年端の行かない子がそつなくこなす。
この子が、あの子の妹。
サバンズ家の姉妹は二人とも優秀だと世間でも評判で、聖女と精霊の愛し子だと持て囃されている。最近は、家族の仲睦まじさも有名だ。
本当に、輝く人たち。
何度も何度も思う。置かれた環境は似ているのに。いえ、むしろ正式に婚姻を結んでいなかったサバンズ家の方が、バラバラに崩れてもおかしくはないはずなのに。なぜ、なぜ、って。
「お二人は、あまり似ていらっしゃらないのね」
悔しいのか、憎たらしいのか、たたただ羨ましいからだけなのか。気付けば、口からはそんな言葉が出ていた。
なのに。
「そうなんですよね。姉さまみたいに優しいお顔も憧れなんですけど、わたくしは仔猫みたいにかわいいって姉さまが褒めてくれる、自分の顔が大好きです!」
そう、曇りのない笑顔で返されて。
そうか、この子はあの光の隣にいても、輝ける子なのか。と、ストンと腑に落ちてしまった。
そうか、だから二人は似ていて、こんなにも眩しいのか。
わたしとは違い、優秀な兄弟を疎むでもなく。誰かの影に隠れるでもなく。
素直に、純粋に、思った通りの道を進むのだろう。
きっと、努力が実って、日の光の元を歩いていける人。精霊たちもその魂に惹かれるのだろう。
……やっぱりわたしとは違う。当然ね。
こんな時は、どうしても鬱々と過去から今までのできなくてダメな自分をぐるぐるぐるぐる思い出して、暗澹たる気持ちに沈んでいってしまう。
こんな自分が大嫌い。
でも、わたしはきっとこんなものにしかなれない。
「エレナ嬢。まだこんな所にいて間に合うのかい?」
わたしが更に弱さと共に毒を吐き出す前に、殿下が声をかけてきた。
良かった、殿下に醜態を晒さずに済んだとよぎる自分に嫌気がさす。……きっともう、良くは思われていないのに。わかっているわ。
そしてグローリア様の提案をやんわりと断る殿下に少し安堵してしまう自分と。
リリアンナ様たちを送ると言う、その優しげな瞳を見て心がざわつく自分とがいて。
ヒンター様とマークス様にも入り口近くまで送ってもらい、そこで別れる。
遠目には、応援席まで一緒に歩いている殿下たちの姿。殿下が楽しそうにしていることが、遠くからでも分かる。
その光景をぼんやりと眺めつつ、妹としてでも隣にいられるあの子たちが羨ましくて、無意識にブレスレットに魔力を込めた。
その時。
「いっ、」
バチッ、と静電気のように弾かれた。
……驚いた。一瞬だし、大丈夫よね。魔道具のようだし、そろそろ本当に壊れるのかしら。気をつけないと。
「本当に願いが叶うならいいけれど……」
わたしの小さな一人言は、空気に溶けていった。




