56.学園祭。now.1
突然の敵(仮)に遭遇し、イデアーレと繋いだ手に自然と力が入る。イデアーレも、同じ様にきゅっとしてきた。
「……初めまして、グリッタ様。リリアンナ=サバンズでございます」
「イデアーレ=ドゥルキスでございます」
ひとまず挨拶はしたものの、どうすんだ、これ。
共通の話題は間違いなくマリーアだけど、まあ、出せないし。いや、出さなくても不自然か?えっと、まずは。
「グローリア様もいらしてたのですね」
「もちろんですわ。来年から通うところですし、フィス様とエレナの応援もありますし。リリアンナ様はマリーア様の応援かしら?イデアーレ様も?」
「は、はい。あの。僭越ながら、グリッタ様はお時間大丈夫ですか?」
確かに。あと30分くらいで大会が始まる。
「ご心配ありがとうございます。受付は済ませましたし、大丈夫ですわ。せっかくなので未来の王太子妃であろうグローリア様のお迎えに上がりましたの。お顔も見たいので」
「まあ、エレナ。まだ王太子妃は決まってはいませんわ」
「ほぼほぼ確定でございましょう。グローリア様が一番相応しいですから」
「まあ、エレナったら」
何だこの三文芝居。
イデアーレとそっと遠くを見る。
エレナさん、とっても儚そうな美人なのに、なあ。
「王太子妃と言えば、サバンズ様たちはあまり似ていらっしゃらないのですね?あのもう一人の王太子妃候補のお姉様と」
「!グ、グリッタ様!失礼です!」
「あら?似ていないご兄弟なんて、たくさんいらしてよ?そんなに失礼かしら?」
「で、でも」
エレナの歯に衣着せぬような言葉に、イデアーレが咄嗟に反論してくれたけれど、余裕のエレナにクスクスと流される。
事実、確かに私とマリーアは似ていない。
マリーアは本物の正統派ヒロインのビジュで、輝く金髪とどこまでも透き通った海のような、晴れ渡る青空のような、これまた輝くサファイア碧眼だ。最近しゃべるとアレだけど、目鼻立ちもお人形のように完璧に整っており、優しさ溢れた聖女様仕様だ。
対する私は、今は道から外した!とはいえ、悪役令嬢ビジュだし。目の色はエメラルドだけど、きゅっとツリ目だし、髪は青銀髪だから黙っていると冷たい印象を与えるし。
お互いの母似なんだよねぇ。
しかし!私は今の自分のビジュアルが大好きだ。十分すぎるほどかわいい!何より、大好きなお母様に似ているのだから、嬉しくないはずがない。姉さまだって、きっとそう。
そして、私たちはそんなことをひとつも気にしないくらいの仲良しだ。
「そうなんですよね。姉さまみたいに優しいお顔も憧れなんですけど、わたくしは仔猫みたいにかわいいって姉さまが褒めてくれる、自分の顔が大好きです!」
完璧な、子どもの純粋仕様でお返ししますわ!
弾けた笑顔とともにねっ。
「そ、そう…」
「おや、グローリア。エレナ嬢。まだこんな所にいて間に合うのかい?魔法トーナメントの方が先に開始だぞ?」
エレナがまた何かを言おうとしたところで、サーフィスが声を掛けてきた。もちろん、後ろにはいつもの三人がいる。
「フィ」
「フィス様!ええ、そろそろ向かいますわ。大会前にまたお会いできて良かったです。頑張ってくださいませ」
反応早いなー。グローリア。
「グローリア。従兄弟の応援はナシか?」
「そんなことはございませんわ。ヒンターお兄様も、応援しております。マークス様とテンダー様も」
ヒンターのツッコミに、グローリアもご機嫌に答える。そうだよねー、美形な従兄弟は自慢だよねー。分かる分かる。
「エレナ嬢も。始まってしまうぞ?」
「は、はい、殿下。ありがとうございます。もう参ります」
エレナは少し頬を染めて、慌てたようにお辞儀をした。
「ではフィス様。ともに参りませんこと?」
「いや。リリーとイデアもいたのだな。学園に不慣れな二人が迷わぬように、ご両親の元へ送ってくるよ。…大事な妹分たちで、愛し子仲間だからね」
「そうですわね!大事な妹御ですものね!さすがお優しいフィス様ですわ」
「はは。では、エレナ嬢も健闘を祈るよ」
エレナはまた深くお辞儀をし、サーフィスは笑顔でこちらに向かってきた。それと、テンダー。
ヒンターとマークスは、あちらをエスコートのように送って行くようだ。この気遣い、すごいな。
「大会前に会えて嬉しいが、大丈夫だったか?二人とも」
歩き出しながら、サーフィスがそっと聞いてくる。
「ありがとう。そんなに何も言われてないよ。大丈夫」
「ちょっと…失礼でしたけど。リリーとマリー
は似てるもの」
「ふふっ、うれしい。イデア、ありがとう」
「…何を言われた?」
剣呑な雰囲気に、私が「いやいや」と誤魔化そうとしたら、違うでしょ!とイデアーレが全部話してしまった。
「へぇ……」
「フィス、気持ちは分かるが、怖いぞ。それに俺もリリーとマリーは似てると思うよ。なっ」
「……そうだな。醸し出す雰囲気も似ているよ。俺はリリーのがかわいいけどね」
「フィ、また、そゆこと言わないで!聞かれたらどうするのよ」
「グローリアたちとは離れてるし、大丈夫だろ。聞かれても、妹だって言う」
サーフィスは開き直ったように悪びれずに宣う。「きゃ、わた、鈍いけど、やっぱりフィス様…?そうよね。やだ、わたし、どっちを応援したら」と、ぶつぶつ言い出したイデアーレにも完全にバレた模様。
「もう!」
「いいじゃん、リリー。大会前に好きな子に会えたらそりゃ嬉しいよ。フィスも浮かれるよ」
「テンダー!ストレートは止めて!」
「リリー真っ赤。めっちゃかわいい」
「だから!」
そう叫んだところで、イデアーレから貰った腕輪がピリッと反応し、四人で顔を見合わせる。
それぞれ慌てて周りを見渡すが、パッと見怪しい動きをしている人はいない。
「気のせい、かもです」
「いや、四人同時だ。きっと一瞬何かがあったと思う」
イデアーレの謙遜に、サーフィスがきっぱりと答える。
「でも、今はないな」
「……そうだな。なにか小さい悪意にでも触れたか。仕方ない。時間も迫ってるし、会場に急ごう。このまま終わるといいが、二人とも気をつけて」
「「はい」」
私たちは、遠くからエレナがこちらを切なそうに見ていることに、全く気付かなかったんだ。




