55.学園祭。当日。
「お母様、大丈夫?無理しちゃダメだからね!」
「安定期に入ったもの。大丈夫よ、リリー。マリーアの展示と魔術大会、楽しみよね」
「父様もいるからな!」
今日はいよいよマリーアの学園祭当日。
家族みんなで来ています。
「リリー!ごきげんよう~」
「イデア!ごきげんよう!」
待ち合わせをしていた、ドゥルキス家の皆様とも合流。
いつもは厳しい魔法学園も、学園祭の時は広く門戸を開いている。日本の学園祭に近い感じ。
違いと言えば、やはり結界があることかな。悪意がある人や、武器を持った人は入れない。もちろん、魔獣も。
王国一の学園だし、普段は入れないから、学園祭は町中の人たちが集まってくる。
「ドゥルキス伯爵、いつも娘たちが世話になっているね。なかなか挨拶もできずに申し訳なかった」
「とんでもないことでございます。こちらこそ、ご挨拶が遅れまして…」
なんやかんやと両家が会えるタイミングがなかったが、無事に対面を済ませて。私とイデアーレは、ここから別行動だ。
「ではお父様、お母様。わたくしはイデアと一緒に参りますね!」
「ああ、気をつけて。イデアーレ嬢、よろしく頼むよ」
「はい!」
それぞれの家族がにこやかに見守る中、イデアーレと二人で手を繋いで歩き出す。両親たちとは午後の魔法と剣術の大会で落ち合う予定。
家族との時間も大好きだけど、お祭りは友達と回るのがやっぱり好きかな!特にこの世界だと、親がいると爵位周りがなんやかんやあるしねぇ。
と、いう訳で。
「わあ、ドーナツおいしい!」
「おいひいです、フィス様」
「良かった。城のパティシエに簡単に作れるドーナツレシピを教えてもらったんだ」
まずはフィスのクラスのドーナツ屋さんで、さっそくの腹ごしらえ。いわゆるシンプルな、砂糖のかかった揚げドーナツ。それが素朴で美味しい。王子様レシピと王子様接客で、なかなかないチャンス!と、始まったばかりなのに行列ができ始めている。
「本当はリリーとゆっくり学園祭巡りをしたかったけどね。三年後まで我慢かな」
「ぐふっ」
「リリー大丈夫?はい、お茶!」
少し係から抜け出してきた王子が変なことを言い出したせいでドーナツが変なとこに入った。優しいイデアーレのお茶のお陰で落ち着いたわ。
「っ、もう!早く持ち場に戻りなよ!お客様が待ってるよっ」
「はいはい、つれないなぁ。イデアも学園祭楽しんでね」
「はい、ありがとうございます」
「じゃあね」とサーフィスは歩き出してすぐに立ち止まり、「午後は見に来る?」と聞いてきた。
「もちろん行くよ!頑張ってね!あ、それより楽しんでね!」
グッと親指を立てて返事をすると、サーフィスは目を眩しそうに細めて、優麗な笑顔を浮かべた。
「うん。ありがとう。絶対優勝して、花冠をリリーに贈るから楽しみにしていて」
「!?それっ…」
っ、あまーい!そうか、いろんなお話の中であるように、そんなイベントもあるのか。って、しみじみしている場合じゃない。そんなの、悪目立ちするだけじゃん!イデアーレも何かを察して一瞬きょとんとした。
恥ずかしいから止めてくれと言う前に、サーフィスは爽やかな笑顔を浮かべて、クラスへと戻って行った。
「はわわ。これはフィスが負けるのを祈るべき……?」
「かわいそうだから、それは止めてあげて」
私のテンパった一人言にイデアーレがすかさずツッコミを入れてきた。「だって~」と慌てる私は、遠くからこちらを見ている視線には全く気付けずにいた。
そんな私たちは引き続き、マリーアとテンダーの手芸部の展示を見に行った。テンダーのまたまた超超芸術的な刺繍のタペストリーを堪能して、マリーアの家族をモデルとした編みぐるみにほっこりして。
魔道具同好会の展示を見ていたらイデアーレの存在に気付かれ、部員さんに囲まれてしまいわちゃわちゃしたり。
さらに続けてクイズや迷路に参加したり、と、これぞ学園祭を満喫した。やっぱりお祭りは楽しいね!
「あ、リリー、そろそろ時間みたい。競技場に向かいましょう」
「はーい」
お昼の焼きそばをしっかり食べて、魔法トーナメントと剣術大会の会場に向かう。ここからはファンタジーイベントである。
「楽しみだけど、ドキドキする。姉さま、怪我とかしないといいけど」
「きっと大丈夫よ。マリーだもの」
そうだよね、と、少し早足で歩いていると、
「あら、イデアーレ様とリリアンナ様じゃない。お久しぶりね」
と、見知ったお嬢様が声を掛けてきた。
「グローリア様。お久しぶりでございます」
「ご無沙汰しております」
わあ、ここでグローリア様に会うのかあ。
いや、ダメじゃないけどさ。それに。
私とイデアーレの視線が、隣に並ぶ女子生徒に向かう。
「ああ、紹介するわね。こちら、エレナ=グリッタ様。わたくしの友人よ。この学園の一年生」
「……よろしくお願いいたします」
控え目な笑顔。
透き通るような水色の髪と、意思の強そうな紺色の瞳。でも全体的にたおやかそうな、儚く見える人。
この人が、グリッタ様。




