54.学園祭。 before.
「マリー姉さま、今日も忙しいの?」
「ごめんね、リリー。頑張らないと学園祭に間に合わないから」
「わかった…」
しょぼんと部屋を後にする私に、「終わったら一緒にお出かけしようね!」とフォローを入れてくれる姉。好き。
王立魔法学園の、夏季休暇明けの学生さんは忙しい。休み明け初日から鬼畜の実力テストがあるし、その1ヶ月後には文化祭と体育祭を足したような学園祭があったりする。それぞれの部活での展示だったり出店を出したり、魔法と剣術の大会を行うのだ。
まあ、前世の学校も似たようなものだったけども。秋の行事はいろいろ忙しくて、ちょっと非日常で楽しかった。
と、分かっているけれど、構ってもらえなくなる妹は寂しい。これもあるあるか~。最近の私は10歳らしい感情が増えてきたなと自覚をしている。いいじゃん、10歳だもん。
そしてどうやらマリーアは手芸部の展示作品と、魔法の大会に出るようで、作品作りと魔法の練習でかなり忙しくしているのだ。
なので、恒例の週末ティータイムはしばらくお預けをされている。
マリーアが忙しいということは、みんなも忙しい訳で。イデアーレにも声を掛けたけど、新作の魔道具の作成が佳境に差し掛かっているらしく、丁寧にお断りをされてしまった。一緒に行く予定の学園祭までには終わらせたいと言われたら、仕方ない。
「仕方ない、おとなしく一人で読書でもするか」
しょぼぼんとしながらスザンヌと書架に向かおうとしたところでふわっと風が吹き、ルシールが現れた。ナイスタイミングぅ!
『リリー、息災か?』
「ルシーこそ!ちょっと久しぶり!ちょうどひ、」
暇、と言いそうになるのを踏みとどまった。ルシールは絶対拗ねるし、そもそも失礼よね。
『ひ?』
「ひ、ひとりで本を読みながら、お茶にしようと思ってたの。ルシーが来てくれてうれしい」
『……そうか』
読心を止めてくれているはずだけど、この綺麗な微笑みを見ると見透かされている気がしなくもない。とりあえず誤魔化した。うれしいのも本当だし!
スザンヌにお茶をお願いして、ソファーに向かい合って座る。
『その後どうかと来てみたのだが。今日は学園は休みではないのか?一人とは珍しいの』
「学園祭が近いから、みんな準備に忙しいの」
『そうか、では今日はリリーを一人占めできるな』
「ま、またそういうことを…!」
その人外の麗しいご尊顔で、甘く微笑むのは止めてほしい。いろいろ天元突破だ。主に、私の心臓が。周りの美形を見慣れてきたけれど、精霊さんはまた違う、こう、壮絶な美しさというか。
『慌てるリリーもかわいくて、我には眩しく映るが』
「~~~!も~!わざとやってるでしょ?」
『かわいいからな。久しぶりに二人で浮かれているのもあるな。許せ』
「しっ、知らないっ」
ダメだ、ルシールのペースに乗せられてしまう。私は必死でソッポを向いて、お茶をひと口飲む。ふぅ、少し落ち着いた。
「本当に精霊さんたちって美麗すぎるし、妖精さんもみんなかわいいし…恐ろしい」
『それほどか?……いや、しかし母のティターニアが見た者をことごとく魅了してしまう美貌と考えれば、さもありなん、かの』
ルシールが、顎に手を添えて思い出すように話す。そんな姿も秀麗だ。
「ティターニア!様!って、お母様なの?!」
『ああ、言ってなかったか?精霊王のオベロンとその妃のティターニアが我ら四大精霊の父と母だ』
「聞いてない!すごっ、ルシーたちってやっぱり何かすごいんだね」
驚きすぎて、語彙力が瀕死状態な私。
二人が王様とお妃様なのは知っていたけど、そうか、ルシーたちのパパママだったのかあ。
四大精霊の皆様が、そりゃあ美しいはずよね。ティターニア様を見たことはないけど。見た人を魅了ってすご……ん?
「魅了……って、精神系の魔法じゃなかった?」
「そうさな。精神系の魔法は母の得意な魔法だが。みなが魅了されるのは魔法ではなく、だぞ?母の姿を見ただけで惚ける者が多いというだけだ」
「あ、そう、そう、だよね」
そう、だよね。びっくりした。精神系の魔法って魔王と得意なものが被ってると思って。
だから何だと言われたら、何も、なんだけど。
得意な魔法の系統が被るなんてよくあることだろうし。つい最近話題に出たから、敏感になっているだけだろう、うん。
ルシールも何だ?って顔をしているし。気にすることではないはず。
「そういえば、ルシーは今日何かわたしに用事があったんじゃなかったの?」
『用事と申すか、定期連絡のようなものかの。魔王の封印に変わりはないことの知らせと、みなの様子を見に来た。少し気になることも続いているようだしの。その後はどうだ?』
「不思議な事件、ね?うん、ひとまずは聞いてないかな」
『そうか。気のせいで済むとよいが』
「ね~」
『しばらくはリリーも気をつけるのだぞ。イデアが作った腕輪と、我の加護があれば大抵のことは避けられるとは思うが……』
「うん、ありがとう」
ほんとに、このまま気のせいで済むといいなあ。




