47.顔合わせ 2
「すまない、つい」
はっとして、テンダーが謝罪する。
「いや。こちらこそすまないな。今日を逃すと時間がなかなか取れないものだから。リリーたちも、ごめんな、せっかくなのに。でも三人とも髪色に映えてよく似合っているよ。さすがテンダーだな」
申し訳なさそうに微笑んで話すサーフィスの最後の「……悔しいけど」と、ボソッと呟いた声は私たちには聞こえなかった。そんなサーフィスを横目に、ヒンターとマークスも似合うと褒めてくれた。何だか困りながら楽しそう?に。
「ともかく、二人が早くに打ち解けてくれて良かった。それでさっそくだけど、話を進めさせてもらうよ」
この面子で集まると、まとめ役はすっかりヒンターだ。将来の宰相様かな。
「まず、魔王の封印について。みんなも精霊様から聞いていると思うけれど、今のところ変化はないと。今のファーブル王国は光に満ちており、安泰とのこと、だが」
「何か不安が?」
「体感として、不思議な犯罪が増えているように思う」
「不思議な?」
お城組以外は、お互いに顔を見合わせて首を傾げる。
「ひどい重大犯罪なんかじゃないんだよ。ただ、今さらと言おうか、今までのことが積もり積もってと言おうか、小競り合いのようなことが増えたんだ」
例えば、自分が納得して後継者から外れた者が、家族に嵌められたと暴れ出してみたり、しっかりと話を付けて決まった契約にケチをつけてみたり、婚約者の昔の恋人のことで揉めてみたり。ひとつひとつは大きくはないが小さくもなく、警らの騎士が呼ばれるくらいにはその困り者たちは暴れるらしい。
「今のところ、重傷者や死人は出てはいないのだけれど」
「それは何よりだね」
「ああ。ただ、奇妙なことに、皆がみんなと言ってもいいくらいに、当人が取り押さえられて落ち着いた後は、なぜ自分がそんなことをしたのか分からないと言うんだ」
「罪を誤魔化すためかと自白魔法を使っても返事は同じなんだよね」
ヒンターの話に、マークスが捕捉する。
「何となく気持ちが悪くてね。城の妖精たちに確認しても、封印は大丈夫としか言われないし、俺が気にしすぎなのかもしれないけど」
サーフィスも肩を竦めながら続ける。
「何か、小さな悪意が集まっているような気がして」
悪意という言葉にドキリとする。封印を弱めてしまうのは、大きな悪意だ。小さな悪意なんてどうしたって生まれるし、気にすることでもないのかもしれない。けど……。
「確かに気持ち悪いわね……」
「リリーもそう思うかい?それで、マリーも何かしら感じることなどがないかと思ってね」
サーフィスに話を振られて、マリーアは口に手を当ててじっと少し考えて。
「……まだ、中途半端にしか力を使えないわたしだから、絶対ではないと思うけれど。常には強い悪意のような違和感を感じることはないわね」
「そうか、それで…」
「ん?姉様、常にじゃなくても強い悪意を感じることがあるってこと?」
私が思わずサーフィスに被せて(すまぬ)ぐいぐい聞くと、マリーアはしまった、という顔を一瞬だけ見せて綺麗に微笑んだ。
「それはね。ちょっとした悪意がゼロになるなんて、それはそれであり得ないことでしょ?」
「ちょっとしたことはそうだけど、でも」
「…どうしたの?リリー」
スカートをぎゅっと握って俯いてしまう。だって思い出したのだ。夏休み前に妖精さんから聞いたグリッタ様という人を。
この際聞いてみてしまおうか。妖精さんに聞いたと言ったら、妖精さんも怒られちゃうかな。私だけなら仕方ないけど、でも。
「な、夏休み前くらいから、マリー姉さま、時々元気がないことがあったよね?だから……」
「……だから…」と口籠ってしまうと、ふわ、と頭をよしよしされる。顔を上げると、サーフィスが優しく微笑んでいた。
「……マリー。俺たちも心配していたよ。本人が言って来ないからと様子を見ていたけれど。大切なリリーにも気づかれるくらいなんだから、悩んでいたのではないか?」
「フィス、知って」
「一応、王太子をやらせてもらっているからね?学園のことは一通り把握しているよ。優秀な友人たちもいるしね」
「あ~、まあ、そう、そうよね……。そんなことも思い付かないくらいになっていたわね、情けない…」
サーフィスがおどけたようにヒンターたちを振り返りながら話し、それにマリーアが苦笑して応える。
「姉さまは情けなくなんかないもん」
優しくて、強いのだ。自分が何を言われても、相手を下げるようなことを言わない。
「ありがとう、リリー。情けないのは、リリーにまで心配をかけちゃったことも含めてよ。
同級生にエレナ=グリッタさんて仰る侯爵令嬢がいらしてね。……わたしが聖女であることを疑っているみたいなの。それに、ほらフィスのお妃さま問題もあるでしょう?不思議とお妃になりたがる方々が多いから、いろいろね」
「さらっと不思議とか言うな」
「でんか…あ、フィス様は人気者ですよっ」
「ありがとう、イデア」
いつもの二人をスルーする私たちに、イデアーレがフォローを入れる。優しい子や。
「まあ、妃はともかく…というか、その辺は面倒をかけて申し訳ないが、聖女は精霊が認めて、陛下が発表したことだ。あまり続くようなら…」
「でもわたし、まだちゃんと聖魔法が使えないのも本当でしょ?」
マリーアが、サーフィスを遮って言う。
「癒しの魔法、使えるだろう、浄化だって」
「全部中程度以下よ。水魔法が得意な人の方が、きっと今のわたしより出来ると思うわ。花の子の妖精たちが言っていた、光の妖精にもまだ会えていない。こんな情けない聖女がいる?って、自分でも思うの」
マリーアがシュンと落ち込む横で、私は一人汗ダラダラだ。
想像以上にマリーアが気にしていた!ほんとごめん!!
どうしよう、本来は三年後…だったし、そもそもサーフィスを守るようなシチュエーションとか起こり得るかも怪しくなっているし。…主に私のせいで。
はっ!まさか私、無意識に魔王復活に手を貸してたりしない…よね?




