第05話 文化祭、始まる
第01節 文化祭〔5/7〕
◇◆◇ 雄二 ◆◇◆
10月12日金曜日。いよいよ文化祭が始まります。午前中は雨ですが、昼には止む予報。
といっても、今日は校内限定開催の、むしろ予行日。外部からの客は、呼びません。
けれど、さすがに協力してくれた職人さんたちまでシャットアウトすることは出来ませんから。彼らには、客人として、彼らが教えた生徒たちのクラスが催行する喫茶店などを見てもらうことになるのです。
ちなみに、予想通りマスコミがやって来ました。最初は父兄を装い、次いで職人たちなら入れると聞いて彼らを装い。けれど、父兄を装っても、在校生の名前を答えられない時点で論外ですし、職人を装っても。彼らは、「新聞部のOB」を名乗ったのです。カメラを持っていても不自然ではない社会人、として、その名乗りは説得力があります。
けれど、受付に坐るのは、生徒会役員と風紀委員。だから当然、新聞部が無期限活動停止処分を受けていることを知っています。加えて生徒会の方は、更に進んでその原因まで知っていますから。ただの〝騙り〟ではなく、犯罪者予備軍の可能性まで視野に入れざるを得なかったのです。
マスコミの連中は、入場出来ないと知ると、一旦すごすごと帰っていったそうです。が。その足元に、見覚えのないノラ猫(アメリカンショートヘアの雑種)が、追尾していたと、生徒会役員が話していました。あとで確認したところ、ダリアの配下のノラ猫が、怪しい来校者を尾行しているのだとか。……先日の事件で飯塚くんに協力して、どうやら味をしめた模様。普通に警察署に行って猫缶を貰い、そのついでに捜査会議で語られる情報を聞き、ノラ猫たちのネットワークでそれを共有し、捜査官に情報を提供しているのだとか。
地域の猫たちと、〝飯塚家の白猫〟の関係は、既に警察に知られています。だから捜査関係者も、張り込み・聞き込みの際に猫に遭遇したら、その猫にはカリカリをあげたりもするそうです。その為にわざわざ常に煮干しを持ち歩いている警官もいるのだとか。なんかすごい状況になっているようです。普通ノラ猫に餌をあげると、地域にとって迷惑な状況になるというのに、そう言う問題には発展していないのだと言いますから、そっちの意味でもすごい。
ちなみにボレアスも。近くに棲むカラスの群れを屈服させ、支配下に置いたという話もあります。敵対しない代わりに、指示に従う。生ごみをカラスに荒らされていた家庭は、それが少なくなったと歓迎しているようですが。
そう。この学校に侵入を試みる不審者は。地上の猫たちだけでなく、空中の大鷹並びにカラスたちに監視されているのです。スクープ狙いのパパラッチが校舎の裏のフェンスを乗り越えようとしたところ、3羽のカラスに襲撃されていました。しかも(それで終わったので何もしませんでしたが)10匹を超えるノラ猫たちが、そのパパラッチを包囲していたのだとか。もうこの学校、なんか別の施設みたいです(笑)。
◇◆◇ ◆◇◆
文化祭第一日目は、大きな混乱もなく終了しました。
けれど当然、企画の不備や練習不足による不手際、そもそもの準備不足などが明らかになり、今夜は徹夜でそれらを改善することになります。
明日、第二日目、つまり外部の来客に開放されることで本格化される混乱、予想されるトラブルに対応する為に、生徒会や風紀委員・文化祭実行委員も、徹夜で対策会議。例年では、ここまでする必要はありませんけれど、それでも今年は僅かな瑕疵も見せる訳にはいきませんから。
ボクと髙月さんも、それぞれ〔報道〕と〔泡〕で校舎内を一晩中監視し、一部不心得者が設置したカメラ等を発見・撤去したりもしました。今となってはその動機だのその背後の組織だのはどうでもいい話ですので、設置した相手の確認と、確実な撤去が求められているのです。犯人の素性や動機などは、文化祭が終わってからゆっくり尋問すればいいんですから。
同時に、年頃の男女が校舎で徹夜する。青春の一頁、で終わればいいですけれど、気持ちが高まり過ぎて一線を超えないとも限りません。そして今年の文化祭の場合、それを誰かが盗撮し、更に第三者に拡散する可能性を考える必要のある状況なんです。そうなると。
その現場に踏み込むなんて無粋な真似は、さすがにしたくありません。なら、雰囲気が高まる前に、空気を読まないノラ猫やカラスに場を荒らしてもらうのが一番。結果白けた彼氏彼女がクラスに戻ってくれたなら。それこそ不純異性交遊を指摘する必要もありませんから。
一方で、徹夜で疲れて寝落ちして、意中の彼にもたれかかり、相手もそれを受け入れるように一緒に寄り添って眠っている、男女。二人がカップルかまだそうなっていないかは知りませんけれど、上手くいってくれたらいい事でしょう。だから、風邪を引かないように一枚の毛布を掛けてあげて。……さすがに、これはお節介過ぎますか?
生徒会役員は、徹夜で校内を警邏するつもりだったようですが、さすがに体力に限界がありました。順次、生徒会室で寝落ちします。うん、男女の役員が一室で寝る。色々問題になりそうなシチュエーションですが、それを指摘するのはさすがに可哀想。逆にボクらが、彼らに疚しいことが無かったって、証言すれば済む話ですし。
そう。寝落ちした生徒会役員に代わり、ボクらが警邏を引き継ぎました。ボクらはまぁ、『倉庫』で睡眠時間を調整することが出来ますから。
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翌、13日土曜日。朝6時。
放送室を占拠して、一斉起床の音楽を大ボリュームで鳴らします。
そして、運動系部活動が使えるシャワー室を解放し、男女に分け、時間帯を定め、学校内に泊まった生徒たちにシャワーを浴びるよう勧めました。
ついでに、『みなミナ工房』では。女子の下着を露店販売。さすがに着替えを持たずに泊まり込んだ女子は、二日続けて同じ下着を着ることに拒絶反応を示していたんです。
この時間なら、帰ってでも。そう思った生徒も少なくなかったとか。
そして、校庭の調理スペースで、徹夜した生徒たちの為に髙月さんが大々的に炊き出しを。って、これ。マグロ肉のサイコロステーキですか。何としても在庫処分をしたかったんですね。
ってか、『チャークラ夏祭り』以来、大人数への炊き出しに生き甲斐を見出したらしい髙月さん。色々皆に振る舞ってます。あるクラスの調理担当、涙目。自分たちのクラスの企画より、髙月さんが〝賄い〟として出したこのスープの方が美味しいみたいです。
でもお願い、あんまり彼女を褒めないで上げて。褒め過ぎると、そのまま調子に乗ってウシの丸焼きだのマグロの解体だの始めそうだから(笑)。
(2,686文字:2019/11/19初稿 2020/10/01投稿予約 2020/11/11 03:00掲載予定)
・ 八咫烏の系譜たるカラスたちは、使神の特性を持ちます。つまり、鷹王を神(主)に見立て、それに従順に従う性質を持っているのです。ちなみにノラ猫たちは猫神に絶対服従の性質があります。
・ 夜に校内に仕掛けられ撤去されたカメラ。カメラ本体と、設置場所やその持ち主などがリストにまとめられて後日生徒会に提出されました。カメラの多くは、組織からの流出品でしたが、その持ち主は、「名簿」には名前はありませんでした。……組織が消滅したのをいいことに転売された品か或いは又貸しされてそのまま借りパクしたのか。
・ 仔魔豹たちの、分担。
トモエ:指揮。基本飯塚家駐在。
ダリア:遊撃。町内を警邏して、異常の有無を監視する。
ギン:直衛。ドリーを守るのが唯一の任務であり、だからこそこの町のネコたちとも交流する。基本柏木家駐在。
レイ:斥候。基本警察署内を散策し、捜査会議の内容を聞いて行動指針を定める。
・ トモエ「《猫語で》良いですか。張り込み中の刑事さんに対して、大声を出してはいけません。静かにそっと足元に寄り添いましょう。カリカリや煮干しを貰っても、がっついてはいけませんよ。小さくお礼を言い、節度を持って頂戴し、そして確実にお役に立って見せなさい。そうすれば刑事さんは、次もまた貴方たちにカリカリを用意してくれるでしょうから」
地域のネコたち「「「「にゃー!」」」」
トモエ「それから、人間の中には猫アレルギーの方もいらっしゃいます。撫でてもらえないのは残念ですけど、そういう人の迷惑にならないように、ちゃんと相手を見て、距離を考えなさい」
ネコたち「「「にゃん!」」」
・ ネコに煮干し。上げ過ぎるのは、あまり良くないそうです(塩分過多)。でも少量なら。……「身体に悪いものほど美味しい」と言いますし(笑)。
・ トモエたち、ノラ猫相手にトイレの指導から(ボランティアの獣医を頼って)予防接種・避妊手術等をさせたりもしている模様? なおそれを知った飯塚家は、トモエたちに「請求書は飯塚まで」というメッセージペーパーを持参させることにしました。が、請求書が来たことは一度もなく、偶然その現場を抑えた翔くんや美奈さんが、代金を支払うのがせいぜい。けど、地域の方々がそれを知ってその獣医さんに寄付等を行っている模様? また飯塚家も、最終的には諦めて、トモエたちに小遣い(首輪に札入れを作ってそこに何枚か)を預けるようにしました。……飯塚家に、請求書は来ませんでしたが、領収証は来ました(笑)。でも、トモエたちってまだ仔猫、ですよねwww




