第04話 文化祭準備
第01節 文化祭〔4/7〕
◇◆◇ 雄二 ◆◇◆
実質中三日。こんな短時間で、企画の変更だの衣装の変更だのをしなければならないんです。正直、生徒たちは恐慌状態に近い形で走り回ることになりました。
でもだから。新聞部が無期限活動停止になったとか、何人かの教師が「急病」の為自宅待機……じゃなく自宅療養をすることになったとか、何人かの男子生徒も同じく「急病」になったとか、「自宅謹慎」を命じられた女生徒の数がいつの間にか増えていたとか、そういう事情はあまり顧みられませんでした。
そう。新聞部は別ですけど、それ以外の彼らは「名簿」から確認された、関係者。盗撮画像・ハメ撮り画像を組織に卸していたり、援助交際の仲介斡旋を組織に代わって管理して組織に上納していたり。他校の女生徒たちと組んで、少女ポルノを作成していた者さえいました。
本件を担当した刑事さんとも話をしましたが、組織がこの町に根を張った結果、各校それぞれ10人以上の教師・生徒が組織と関係していたようです。映像媒体（静止画・動画含み、下着・裸体から性行為その他まで問わず）の被写体にされた女児・少女そして成人女性は延べ1,000人を超え。更にそのうち組織管轄下で売春や非合法AVに出演を強要された少女たちは約100人。
福島こずえちゃんの彼氏の歴代彼女も、別れた後別の男たちに売春を強要されその様子を動画に撮られ、と悲惨な運命を辿ってしまったようです。こずえちゃんがそうならなかったということを、喜んでしまうボクらは冷たいのでしょうか。
その一方で、この町では。暴走族による集団暴行事件とか、○○大学××サークルによる集団強制性交事件などは、ほとんど起こっていないそうです。まぁ団体単位で組織の顧客だった、というだけなのかもしれませんが。当然ながら、団体単位で名簿に名前が載っていた、その団体の所属先。例えば大学などに対しては、その事実を警察から学務課に通達されました。その後大学による自主調査の結果、女子更衣室や女子トイレ、女子サークルなどから隠しカメラが見つかったり、或いは親交のある女子大学等に訪問する際の、そのサークルメンバーの持ち物からハンディカメラ等が発見されたり、といった事実が次々に明るみに出てきました。
「いくらなんでも、多すぎるような気がしますね」
刑事さんと。
「組織の存在が、若者たちから倫理のハードルを下げてしまったのかもしれないな。
売り手にとっては、ネットで闇雲に買い手を探して捜査の網に掛かるより、確実に買い取ってくれる組織の存在は有り難かったろう。どうも、高性能超小型カメラのリースまで組織は手を出していたらしい。例の、小学校のトイレに仕掛けられていたカメラも、組織が教師にリースしたもののようだ。他にも、靴先に仕込むカメラなんか、組織が靴屋と協力して、一見しただけじゃわからないような、靴と一体化したものを作っていた。安易に撮影して、データのコピーごとその靴を組織に返却し、後日リース料との差額分の代金が振り込まれる。安全性は、個人で行う時の比じゃないだろう。
また買い手にとっても。画像なんかは勿論、買春の方もだ。女子中学生たちで構成されるピンクコンパニオンを同行させた社員旅行なんかの企画もあったようだ」
ピンクコンパニオン、って何？ キャンギャルは、正確には〝イベントコンパニオン〟って謂うはずですが。
「あぁ、意外にこういうことは知らないのか。ここで謂う〝コンパニオン〟ってのは、宴会で酌をする接客業の女性のことだ。ピンク、ってのは、性風俗ギリギリの行為まで許すコンパニオンで、程度と料金によっては、実際の性行為まで許すのもいるらしい。まぁ普通のピンクは、裸踊り程度が関の山だけどな」
……理解しました。けど、女子中学生がピンクまでやり、しかも泊りがけの社員旅行？ それを、組織が取り仕切る？
「中には、わざわざ処女の女子中学生を用意して、しかもその旅行の時期に排卵期が来るように調整して、何十人もの社員たちを相手に避妊せずに性行為をさせる、なんていう企画もあったようだ。挙句妊娠したら、〝ボテ腹JC〟と銘打って、客を取らせたり動画を撮ったり――」
「……すみません。もしかしたらお忘れかもしれませんが、こちらは経験のない童貞男子高校生なんです。あまり赤裸々過ぎるのは――」
「あ、済まん。というか、お前も飯塚も、知性と年齢にギャップがあり過ぎて、こっちもどう対応すれば良いのかわからなくなるんだ。柏木の方が、まだ年齢相応の純情さを持っているな」
老成していて悪かったですね。
「まぁ、ともかく。買い手にとっては、出会い系サイトを使ったり街角でナンパしたりするよりも、よっぽど安全で且つ確実、その上料金も妥当で、違法なロリから人妻熟女まで、ノーマルなプレイもアブノーマルなそれも、豊富なメニューが取り揃えられている組織を利用するのは、ある意味必然だったんだろうな」
なんにせよ。この町の性犯罪を事実上組織が取り仕切り、その組織を一網打尽にしてその顧客名簿を押収出来たということです。なら、これから先しばらくは。この町でのそっち方面の問題は、かなり沈静化するものと思われます。いずれは元に戻るでしょうけれど、それまでの間に、各学校等で児童・生徒たちの指導を注意深く行えば。これまで「あの娘がやっているのなら私も」みたいに安易に〝パパ活〟に励んでいた女生徒もいたようですが、先生や生徒会、或いは風紀委員などからの上から目線の〝指導〟ではなく、友人や先輩、或いは痛い思いをした先達からのアドバイス、であれば。少しは変わってくるのではないでしょうか。
◇◆◇ ◆◇◆
それはともかくの、急拵えの文化祭。
生徒会は、協賛を撤回した各企業に、改めて協賛のお願いをする為に、企業詣で。企業イメージの問題とか、地域イメージの問題とか、或いは未だ払拭されていない、学校単位での組織への関与疑惑とか。生徒会役員は、一般生徒に比べ（ボクらを介して）多くの、それも正確な情報を入手しています。ボクらが仲立ちし、刑事さんに直接事件のあらましを聞いたりもしました。だから話せる内容とそうでない内容を切り分けた上で、企業に対して誠意ある交渉をすることが出来たようです。もっとも、協賛を撤回したある企業は。企業単位で組織の顧客名簿に載っていた為、生徒会役員が訪問した時には、既にそのビルはもぬけの殻になっていました。
各クラスや部活動などでは、直接専門家に頼んで指導を受けるという、高校の文化祭にあるまじき暴挙を行っています。
それだって、わざわざ学校に来てもらうのでは礼に失しますから、こちらから赴かなければなりません。大人たちが真剣に働いている職場の片隅で、高校生が技術を学ぶ。これで気が引き締まらない訳がありません（そこでも学生気分の抜けない莫迦は、出入り禁止を通達されるでしょうから）。だからこそ、技術や知識以上のモノを、彼らは学ぶことが出来たんです。
そして11日木曜日には、校庭に業務用の機材が搬入され、それの使い方をそれぞれの担当生徒にレクチャーされ。今回の文化祭に向けた、否応なしにも〝失敗してはいけない〟緊張が高まっていきます。
（2,912文字：2019/11/19初稿 2020/10/01投稿予約 2020/11/09 03:00掲載予定）
・ 平成30年1月末に男性自衛官が女子中学生と野外で性行為をしているところを警察に現行犯逮捕され、その自衛官と女子中学生が参加していたLINE®を使った400人規模のマッチングサイトが話題になりました。参加女性はJC～30代人妻まで（20代独身女性が多かったようです）で、50人前後の男性自衛官も含まれていました。サイト自体は通常の合コンサイトでしたが、かなりの人数が売買春の為にそのサイトを利用していたとか。
・ 「ピンクコンパニオン」は、地域によっては「スーパーコンパニオン」或いは「シースルーコンパニオン」（衣装が肌を透かし魅せるものだから）とも言います。けど、性行為までする「ピンク」は、違法です。きっと「現場で個人的に恋愛関係に発展してしまった」みたいな言い訳をしているのでしょう。
・ 組織によって売春を強要され、挙句妊娠した少女たち。その出産シーンも撮影された挙句、生まれた子供は出生届を出されないままに組織（正確にはそのスポンサー）が運営する児童養護施設（孤児院）に預けられました。だから少女たちの戸籍には出産歴はなく。一方で生まれた子供は、男児なら基本養子縁組（男子の跡継ぎを求めている農家などは、意外に多いのです。そして養親の下で出生届が出されますから、戸籍上は養親の実子）、女児ならチャイルドポルノの素材。物心つく前から英才教育を施せる、「性奴隷養成所」というのが、この施設の実態です。当然「男娼」の育成も行っていました。
・ 違法行為を適正に管理し、妥当な金額で提供する。異世界の「盗賊ギルド」に通じます。まぁリリセリアと違い日本は買春も売春斡旋も違法ですし、少女たちの中に騙されたり脅迫されたりした娘がいる時点で、擁護の余地はないのでしょうけれど。
・ 教師生徒の、「急病」と「自宅謹慎」の違い：
「急病」……書類送検された（逮捕拘留されたか在宅起訴かは問わず）
「自宅謹慎」……警察からは厳重注意で済んだ（学校からの処分待ち）
