第01話 事件の影響
第01節 文化祭〔1/7〕
◇◆◇ 雄二 ◆◇◆
平成30年10月8日月曜日(体育の日)。
10時のニュースで、この町で児童ポルノの製造販売を行っていた大規模な組織が摘発された、という事件が全国報道されました。
このニュースは、生徒たちもそれぞれの家庭で速報として視聴し、先週の一斉補導の意味を知ることとなったのです。ただそれだけに。報道では援助交際については一切触れられていなかったものの、少女売春で多くの女生徒が補導されている事実から、彼女らの画像がネット上を探せば見つかるかもしれないと、グループSNSなどで一部男子が盛り上がり、心当たりのある一部女子は顔色を変えていたそうです。
だから、ボクは。髙月さんを伴い、休日ながら登校し生徒会室を訪れました。
「武田、何の用?」
「ニュースは、確認しましたよね。その善後策についての相談です」
生徒会の一同は、ボクらがあの事件に直接関わっていることを、既に知っています。
「出回っている画像等は、遠からず全て回収されます。〝完全に〟、と言い切れないことは、会長もご理解いただけると思いますが。
ただ、今回の事件の舞台になったのはこの学校ではない、という事と、先週の一斉摘発で補導された女生徒の多くは、その組織とは関わりが無かった、という事は、確認しておく必要があります。
正確には、何人かは〝組織〟傘下の援助交際グループに所属していたことが確認されています。が、そうと知っていてそのグループに所属していた女生徒は、一人もいませんでした。だから、補導され、家庭と学校両方から一定の処分が科され、且つ自分たちが所謂ヤクザのフロント企業の食い物にされていた、かもしれないという事実を知った。それだけで、自分たちのしていたことのヤバさを充分理解したものと思われます。
ならこれ以上、生徒会から、彼女らの処分等を考える必要はありません」
これは結構重大なこと。そして同時に、マスコミ等が何か勘違いしてうちの学校に押しかけてきたとしても、毅然としてそう言い返せることに意味があります。
「有り難う。そっちの情報が無ければ、また変に先走って騒ぎを大きくするところだったわね」
「その一方で。教師も生徒も保護者も、体育祭の時のように、性的な企画に敏感になっているものと思われます。体育祭の時は〝何となく〟の噂だけでしたけど、今日の報道で、全て繋げて考えてしまうでしょうから。
……文化祭の企画を、見直す必要があります」
「今週末には本番なのに、今から見直し、か。厳しいモノがあるわね」
「例えば、メイド喫茶。例えば、コスプレ写真館。ボクらは性欲の有り余っている青少年なんですから、どうしても女子の肌の露出が多くなりがちです。が、今回の事件の影響を考えると、それは所謂『夜のお店のカタログ』的なイメージで見られてしまうでしょう。
けど、露出することだけが色気じゃありません。〝見せない魅力〟もあるはずです」
「でも、今から衣装を変更するのは大変だわ。予算の問題もあるし、時間だって――」
一週間前だと、もう仮縫いが終わっていたり、或いは納品が終わっていたりする可能性もあります。だから。
「だから、髙月さんに来てもらったんです。『みなミナ工房』の取引先の衣料品店、洋服店等から、安くレンタル出来るように、話をつけてもらいました」
「さすがに、無料で、って訳にはいかないけれど。でも、市価の半額以下でお願いしたよ? でも返却時には、ちゃんと洗濯をしてほしいかな? 衣装によっては洗濯の仕方を個別に指示するようになっているから。あとはサイズと数量を教えてください」
「……そこまでやってくれるなんて。ならあとは、こっちの仕事ね。追加費用は、学校側と交渉して、予備費から出してもらえるようにするわ」
「あと、今からでも自分で縫いたいって言うんなら、『みなミナ工房』の生地を原価で卸してもいいよ。それから、実行委員のお揃いの法被。こっちは『みなミナ工房』から無償で提供します」
「……いいの? 貴女のお店でしょう?」
「一応、〔提供:『みなミナ工房』〕ってクレジットは入れさせてほしいかな? 『みなミナ工房』は世間から注目されているから、それがあれば、うちの学校の文化祭も注目される。
変に勘繰られて悪目立ちするくらいなら、正面から目立って、世間の疑惑なんかただの風評だ、って見せつけちゃえばいいんだよ?」
言うまでもありませんが、これは諸刃の剣です。世間の風評の方が正しいと世間が認識してしまったら、『みなミナ工房』もそういう種類の事業者だって思われてしまうでしょうし、雫やソニアもそっちの方向に評価されてしまいます。だけど逆に、『みなミナ工房』の評価と、雫やソニアの評判が、うちの学校に対する風評を覆す効果も望めるのです。
つまり、あとは学校次第。
生徒会長も、すぐにその意味に気付いたようです。『みなミナ工房』が、自身の評価に懸けて学校の評判を守ろうとしている、という事に。
「わかったわ。その信用、文化祭の成果を以て証明して見せます」
◇◆◇ ◆◇◆
今日は体育の日で休日ですが、委員に緊急招集をかけ、臨時の文化祭実行委員会が風紀委員会と合同で開催されました。
文化祭実行委員と風紀委員がともに集まる。その時点で、今回の臨時会議の議題は誰の目にも明らかでした。
「急な招集申し訳ありません。文化祭実行委員臨時会合、兼、臨時風紀委員会をただ今から開会致します。
そして、開会に先立ちまして、私、生徒会長篠崎里美から、一言報告致します。
今日の午前中に報道された、この町で起こった大規模児ポ法違反事件。そして、先週の未成年者に対する大規模補導事案。この両者に、直接の関係はありません」
そう挨拶した途端。
「冗談じゃない。うちのクラスにも補導されて登校出来なくなった女子がいるんだぞ! 関係ないならどうしてそんな目にあわされたんだ! 生徒会が何かしたんじゃないのか?」
「そうよ! 関係ないなんて断言出来るくらい詳しいことを知っているんなら、今すぐそれを公表して!」
「ってか会長自身だって援助交際して補導されて停学喰らったんだろうが! 何を他人事みたいに言ってるんだ!!」
うわぁお。大騒ぎ。と、他人事のように思っていたら。
「大体、そいつらは一体何者だよ? ブンジツでもフウキでもないガリ勉と、ハンクラで小物作って暴利で売り捌いているパチモン売りが、この会合に何の用だ?」
あ、流れ弾がこっちにも。自己紹介、した方がいいのでしょうか?
と思って髙月さんの方を見たら、小さく首を横に振りました。ボクらは会長に立ち会いを望まれたオブザーバーの身。会長がまだ紹介していない以上、しゃしゃり出るべきじゃない、ということですねわかります。
「彼らのことは、後で紹介します。
それから、この会合は今週末の文化祭を問題なく執り行う為に招集しました。もしニュースの事件と関係があるのなら、『不祥事を起こしたから中止』の一言で終わります。
ここに集まったブンジツとフウキの皆さんには、文化祭を成功させる為に、前向きの発言をお願いします」
(2,851文字:2019/11/15初稿 2020/10/01投稿予約 2020/11/03 03:00掲載予定)




