第39話 警察との協力(修正版)
第06節 泣いている少女〔8/8〕
◇◆◇ 宏 ◆◇◆
『その路地を右に曲がって。その向こうにあるアパートの、二階。206号室だよ』
「了解」
上空のソニア in ボレアスの鳥瞰情報と、GPS発信機 with Web地図で、髙月が。連絡はスマホにイヤホンマイクを接続して、ハンズフリー。科学と魔法を併用した、追跡術だ。
『鍵はかかってない。大至急突入してくれ』
飯塚の声。現在〔千里眼〕で視覚と聴覚がエリスと同調しているけれど、声は出せるから。そして強行突入を求めるってことは、ヤバい状況になっているってことか?
その声に背を押されるように、田口という表札のかかった部屋のドアを開けると。六畳一間の散らかった部屋の奥で、見知った女児が男に押し倒されていた。
すぐにも『ひのきのぼう』(第二世代)を取り出して、打ち込み。簡単にそれを引き離すことが出来た。
『助かった。サンキューな』
エリスの目でモノを見て、自分の口で(電話越しに)話す。色々と大変そうだ。
『まずはこのPC。それからちょっと部屋の中を調べる。怪しげなモノを片っ端から『倉庫』に放り込んでくれ』
「ちなみに、〝怪しげなモノ〟って具体的には?」
『例えば、そこに落ちてる、カピカピになった女児用パンツとか』
「うげっ」
飯塚が命じる内容、というか、探し出す対象物がイメージ出来てしまい、気が滅入る。
『あまり深く考えないで良いぞ。一通り確認したら、すぐに警察に提出するから。時間省略の為に『倉庫』を使う。それだけだ』
「わかった。あ、だとすると、指紋とかは付かないようにした方がいいのか?」
『必要ない。というか、柏木の指紋が付いていないと逆に不自然だ。今回の柏木の立場は、〝知り合いの女児が連れ込まれたのを見て、憤慨して乗り込んだ〟んだからな』
「おっけー」
そして、エリスの視線を介した飯塚の指示で、押入れを開ける。と。
『女児用パンツのコレクション、か』
「引くわ。さすがにこれは引くわ」
「でもこれ、ひとり分じゃないよね?」
エリスが、自分の声で割り込んだ。
『とすると、どこぞで購入したものか、それとも歴代〝彼女〟の穿いてたものか、或いは盗んで来たものか』
「どれでも引けるな」
『さすがにこれは、持ち出したくないな。っと、あれは?』
エリスの視線の向いた先。そこには、小さなハンディカム。
『多分、あれが本命だ。柏木、確保。そうしたらこれで充分だ。
って言うか、これ以上この場に留まりたくない』
「オレもそう思う。あの男も、遠からず目を醒ますだろうしな」
『という訳で、撤収。あとはこっちに帰ってからだ』
◇◆◇ 翔 ◆◇◆
ちなみに、柏木はPCを開いていないから。その壁紙を目の当たりにはしていない。
だから、柏木がエリスを伴い飯塚家に戻っている途中、まずは美奈と(『千里眼』を解除して)ソニアが『倉庫』に向かい、PCとハンディカムの内部記録装置内のデータの確認をする。
「……あれはないよ。吐き気を通り越して殺意を覚えた」
「ゴミです。害虫です。エフライン以下の男が実在していることに、驚愕しました」
分析されたデータから想像出来る内容は。
田口やすしは、正真正銘のガチペド。歴代〝彼女〟は、全員基本小学生女児。
コレクションは、歴代彼女のパンツと行為画像。低学年女児との行為画像を撮り溜めしていた。
その一方で女児の体つきが丸みを帯び始めると、田口の趣味から外れるようになるらしく、この頃からその少女の相手は複数の成人男性になる。そしてタイムライン的に、この頃新しい〝彼女〟が見つかっている。
ハンディカムの近くにあったDVD-RAMには、福島こずえちゃんの映像が編集されているところだった。つまり、エリスを引き込めればこーちゃんは用済み、ってことか。そして映像を編集するということは、第三者に譲渡することを考えている、と。
そんなタイミングで、父さんが帰ってきた。そして、いま小学校にパトカーが何台も止まっていたことを教えてくれた。多分、松村さんと武田が結果を出したんだろう。そして、なら。
おもむろに、ある人に電話を掛ける。
「もしもし、飯塚です。その節はお世話になりました。今ちょっといいですか?」
電話をした相手は、お世話になった白バイ隊の隊長さん。
「ちょっと、手を貸してほしいんです。否、交通課の案件じゃないんですけど。出来ればパトカーや白バイじゃなく、一般車輛で。信頼出来る少年課の刑事さん、出来れば婦警さんを連れて。それから。今日○○小学校でちょっとした事件が起こっていると思いますけど、そっちの情報を持っている方も同行してくださると、助かります」
そうして、待つこと暫し。
要請したとおり、一般車輛で来てくれた。それも、二台に分乗して。
その内の一台には、武田たちも乗っていたけれど。
そこで、刑事さんたちに事情を話した。
まずは、高橋早苗ちゃんの家出。その理由が虐待に類するものであったものの、その証拠が無く、これまでの民生委員による立ち入り調査でも証拠不十分だったと考えると、現時点で警察に任せてもその母親から保護し切れるとは信じられず、飯塚家で保護していたこと。(この件は当然ながら、叱られた)
さーちゃんが虐待されている可能性に真っ先に気付いた小学校の養護教諭に、協力を求めたこと。そして養護教諭は担任に情報提供していた。にもかかわらず、担任教師は動かなかった。その事から、担任教師も実は加害者側なのではないかと考え、だとすると他にも被害者がいるかもしれないと考えた。その結果、トイレ内に小型カメラが設置されていることに気付いた。だからそれを回収するタイミングで現行犯で取り押さえることを計画していた時に、担任教師が空き教室で女子児童を襲っている瞬間を目撃し、取り押さえ、通報した。(これも、もっと早くに通報出来たはずだと叱られることに)
さーちゃんの親友である、福島こずえちゃん。大人の男と交際している様であったけど、その男が最近、うちのエリスに懸想していた。そして今日、半ば力尽くで家まで連れて行かれてしまった。その様子を偶然目撃した柏木が、強行突入して男をぶん殴ってしまった。そして直感に従いそこにあったノートPCとハンディカムを持って帰り、女子に内容確認してもらったところ、吐き気を催すデータが大量に見つかった。(こちらも暴行、場合によっては強盗傷害だ、と叱られた)
この三つの事件。全部バラバラに思えるけど、さーちゃんの母親はさーちゃんに売春させていたのなら、その顧客をどう募ったのか。担任教師は、盗撮したデータをその後どうするつもりだったのか。そして〝こーちゃんの彼氏〟は、編集したデータをどうするつもりだったのか。
そう考えると、この三つの事件は、一本の線で繋がる可能性がある。だとしたら、一気に攻め上げないと、証拠を隠滅される恐れがある。けど、三方向から同時攻撃すれば、対処出来なくなると思う。そう、告げた。
「わかった。ならあとは、こっちの仕事だ。けど、確かに高橋早苗に対する虐待だけは、現状では証拠不十分だな」
「確かな証拠が、ひとつあるよ?」
刑事さんの言葉に、美奈が。
「それは?」
「小学生女児が家出して、もう五日になるのに、警察に捜索願を出していない。
これ、充分虐待を証明してるよね?」
(2,924文字:2019/11/13初稿 2020/08/31投稿予約 2020/10/20 03:00掲載 2020/11/18運営の指摘に伴い修正 2021/10/19誤字修正)
・ 白バイ隊の隊長経由で連絡したのは、所轄警察署レベルじゃなく、一気に県警レベルで処理をしてもらう為です。
・ 警察に「少年課」という部課はありません。所轄によって分掌名称は変わりますが、基本「生活安全部少年育成課」と、「(同)少年事件課」です。略称「少年課」で間違いじゃありませんけど、その言い方だと少年に対する指導と教育を管轄する「少年育成課」と、少年犯罪に対する捜査を管轄する「少年事件課」の区別がつきませんし。
・ 飯塚翔くんが電話をした相手は、交通技能教習を担当した白バイ隊の隊長(交通部交通機動隊巡査部長)さんで、小学校で現場検証をしていてその後飯塚家にやってきたのは、捜査一課の刑事(巡査部長)さんと少年育成課の婦警(巡査)さんでした。
・ 警察の立場上、彼らのしたことに対しては叱らざるを得ないんです。仮令それが最善だとわかっていても。逆に言うと、警官が叱ることで、今後彼らの行為が問題になった時に、警察側が彼らを庇う根拠になります。
・ 髙月家の両親は、まだ美奈さんが「水無月美奈」になったことを知りません。
・ 節はここで一旦改まりますが、次節もこのエピソードの続きです。解決篇というか、反撃篇というか。




