第38話 盗撮犯を追え!(修正版)
第06節 泣いている少女〔7/8〕
◇◆◇ 雄二 ◆◇◆
盗撮等に使われる、最近の超小型カメラは。それ自体に、記憶媒体を持っていません。
そのデータを、リアルタイムで無線に乗せて飛ばし、別の場所(30m程度)で受信して、そちらに保存するのです。
勿論、記憶媒体どころか持ち主の個人情報が満載のスマホでそれを行う愚か者もいますけど、そうであればカメラを発見した時点でチェックメイトになります。けど、データを無線で飛ばすタイプだと、カメラを抑えた程度では、持ち主に辿り着けない可能性もあるんです。
データを受信する媒体はスマホ等の一般の電子機器の場合が多いですし、電波を辿ってもそれを特定することは出来ません。
ただその一方で、超小型ゆえどうしても稼働時間が短くなってしまうという欠点があります。大体、4~6時間。稼働時間を延長させようとして、有線接続したら「見つけてください」と言わんばかりでしょうから。その分、頻繁に設置と回収を繰り返さなければならないという事です。
また、その受信・記録媒体側。スマホが普通ですし、ネット経由でPCに保存される場合もあります。スマホに保存される場合、その日の内にデータをPCに移し、自身のスマホのデータは健全に保つことで、疑いの目を逸らすでしょう。直接PCのデータを確認する為には、捜査令状が必要になります。その代わり、持ち主が帰宅する前に令状を取ることが出来れば、隠蔽の危険なく証拠を確保出来るのです。
また、カメラ設置の時点で取り押さえても、そこには何の証拠もありません。「このカメラが仕掛けられていることを知ったから、回収しようと思ったんだ」と言われれば、反論の余地がないんです。対して、夕方の回収の時点で取り押さえれば。スマホには転送されたデータが残っている可能性が高いでしょう。
だから、保健室の先生に協力を求めます。〔報道〕の情報は証拠になりませんから、確実に取り押さえる為にはこっちも防犯カメラを仕掛ける必要があり、その管理は学校の先生、それも女性教諭であることが求められますから。
「……にしても、盗撮犯を確保する為に、女子トイレに防犯カメラを、それも学校の判断を待たずに設置する、ねぇ」
「失礼ながら、教師に犯人がいる可能性を考えると、秘密裡に事を進める必要があります。正直に言えば、生活指導や教頭先生、校長先生だって容疑者に含まれるのです。容疑者の前でそんな作戦の許可を求める訳にも行きませんから」
と、雫。正直この件で、信用出来るのはこの養護教諭、柿崎先生だけです。盗撮実行犯は女性が多い(交際している男性に頼まれた、等)という事実を考えると、仮令女性教諭だとて盲目的に信用することは出来ないのですから。
「一つ、教えて。この件は、高橋早苗さんの一件と、関係があるの?」
「現時点では、わからないとしか答えられません。けど、関係があるのだとしたら、この一件は、単純に一家庭の虐待事案では終わらない可能性が出てきます」
早苗ちゃんに対する、買春斡旋。これが、早苗ちゃんの母親が個人で行っていることなら、それだけの話です。けど、だとしたら。早苗ちゃんの母親は、どうやって顧客を見つけている? そこに、仲介者がいる可能性は?
そして、仲介者がいるのなら。盗撮されたデータの売買にも、携わっている可能性があります。他にも、少女売春の管理運営等も。
その場合、ひとつの小学校だけで終わる話じゃなくなります。関係者は、百人のオーダーに乗るでしょう。
飯塚くんは、この一件に関し。高橋家の虐待問題と認識するにしても、流出した画像等まで処分する為に、その〝組織〟そのものを相手にすることを考えています。つまり、末端から削っていくのではなく、一気に頭を潰そうとしているんです。その為に、まず尻尾を掴み、その尻尾が切り捨てられる前に頭を抑える。それが、今回の作戦概要なのです。
そして周囲の被害を最小限にする為に、採るべき戦略は電撃戦。〝組織〟がボクらの存在を認識する前に、これを撃破しなければならないんです。
◇◆◇ ◆◇◆
柿崎先生の許可を得て、盗撮用小型カメラがあるトイレの入り口に向けて防犯カメラを設置して。ボクはその映像を見ないように別の作業を行いながら、保健室で〝その時〟を待ちます。
別の作業。学校内に〔泡〕を配置し、〔報道〕を各所に設置し。
〔泡〕自体による情報認識は、さすがに髙月さんに劣ります。一方、〔報道〕を介した目視確認が出来る点で、髙月さんに勝るんです。ええ、窃視・盗撮等の犯罪行為を行うには、超小型カメラより使い勝手がいいんですから。
けれど。
エリスのクラスの担任が、空き教室に女子児童を連れ込みました。
そして、その娘の唇を奪い、その服を――
「先生、雫!」
「どうした?」
「5年6組の教室です。男性教師が、女子児童に襲い掛かっています」
「それは、本当のことなの?」
「そんなことは現場に行ってみればわかります。事実だったら、ここで問答している時間が致命的です!」
「わかったわ」
そして向かってみたら。そこでは裸に剥かれた女子児童に、男性教諭が圧し掛かっているところでした。
「な、何をしているんですか!」
想像していても、現場を見たことでパニックを起こしてしまった柿崎先生を尻目に、ボクは問答無用で〔球雷〕。その一瞬で男性教諭は失神しましたけど、その次の瞬間、雫の体当たりで、その教師を突き飛ばしました。
「大丈夫?」
「え、えっと、なんなんですか?」
襲われていた(はずの)少女は、何が起こったのかはわからない、という表情をしています。どうやら一方的な強姦ではなく、合意の上での行為だったようです。が、12歳以下の児童相手の行為は、合意があっても強姦罪が適用されます。何故なら、幼い子供を手玉にとって行為を受け入れさせることなど、大人にとって造作もない事だからです。
「先生、校長に連絡を。事こうなった以上、警察と救急車を呼んでください。内々に処理をしていい事案ではありませんから。
それから、この教師がトイレに小型カメラを仕掛けていたことも併せて報告を。ただ、先生が設置した防犯カメラは、変に誤解されると拙いので、今のうちに回収してください」
襲われていた少女のケアは雫に任せ、ボクは男性教諭を縛り上げます。ロープ、じゃなく、梱包用のビニールテープで。ビニールテープを持ち歩いていた、というだけで違和感があるかもしれませんが、手錠や荒縄を持ち歩いている(正確には『倉庫』に備蓄してある)よりは、よっぽど常識的ですから。
◇◆◇ ◆◇◆
これで、一両日中に、この教師の自宅に家宅捜査が入るでしょう。小型カメラの性質上、そのPCのデータが浚われるのも、必定。そして盗撮されたデータの売却先にまで手が届けば、理想的です。
でも、ここからは時間の勝負。〝組織〟が、証拠を隠滅するのが先か、警察なりボクらなりが〝組織〟を捕捉するのが先か。
向こうの。飯塚くんたちの方は、どうなっているのでしょうか。
(2,817文字:2019/11/12初稿 2020/08/31投稿予約 2020/10/18 03:00掲載 2020/11/18運営の指摘に伴い修正)
・ 〔報道〕の映像(受信側)は、タブPCに重ね、タブPCを見ている体裁で〔報道〕の情報を確認しています。
・ 「手錠や荒縄を持ち歩いている(正確には『倉庫』に備蓄してある)よりは、よっぽど常識的ですから」。……何故『倉庫』にそんなモノが備蓄されている?(答:リリセリアに於ける軍事・治安維持目的。adult toyだと思った人は、穢れてます)
・ 松村雫「校長先生だって容疑者に含まれるのです」
飯塚翔「日本全国の校長先生は、平均して1.2回の児童買春をしているという統計資料もあるから、こういう事件の容疑者からは外せないな」
武田雄二「飯塚くん、〝校長先生〟を校長先生の統計データに含めてはいけません」
柏木宏「校長先生を校長先生の統計データに含めちゃダメ、って訳わからないんだが」
雄二「〝ひとりODA〟とも言われるレベルでの児童買春を海外で行いその対価として金銭の他に教育を施し、一般名詞である『校長先生』をネット界隈で固有名詞化した〝校長先生〟がいるんです。ちなみに逮捕され裁判の結果、判決は懲役2年、執行猶予4年(平成30年12月執行猶予期間満了)で、その判決が下ったときの裁判長(女性)は『日本人への信頼を損ねた』のをその理由としたそうですが、そもそも事態が発覚した理由が一万二千余名に及ぶ買春被害者からの訴えではなく、その国の政府から日本領事館に充てて『長年に亘り多額の援助と読み書きを教育してくれている一個人への感謝状』が贈られたから、というのですから。ちなみに令和に入って、どこぞの王族が愛人五千人囲っていたと話題になった時も、ネット界隈では『〝校長先生〟の半分にも満たない』と嘲笑されていましたから」




