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前略、親友殿~いつまでも、かわらずに~  作者: 藤原 高彬
第二章:転入生と留学生
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第34話 こころとからだのしくみ

第06節 泣いている少女〔3/8〕

◇◆◇ 翔 ◆◇◆


 話が終わって安心したからか。さーちゃんは、そのまま眠ってしまった。

 だからベッドに運び、布団を掛け、足音を忍ばせて、一人リビングに向かう。


 美奈たちと、父さんは既に帰って来ていた。そして、その様子だと。


「……話は、聞いていたよね?」


 美奈の〔泡〕が、俺たちの会話を中継していたはず。だから、母さんが俺に()(ただ)す。


「それで、翔はこれからどうするの?」

「客観的に見たら、どうしたらいいのかなんて答えは一つしかないと思う。けど、俺はさーちゃんの将来に責任の負える立場じゃない。仮令(たとえ)それが正論でも、そうするのが正しいのかは、わからない。だから――」

「それは、間違いよ」


 え?


「早苗ちゃんは、ちゃんと〝こたえ〟を出しているわ。言葉や感情じゃなく、その行動で。『家を出る』という形で、ね。責任云々(うんぬん)なんていう逃げ口上している翔とは違って、自分の責任の(もと)(たましい)が吐き出したこたえを見つけて、そのこたえに従って行動したのよ。

 そして早苗ちゃんは、翔、あなたに助けを求めたの。

 なら、翔。あなたのすべきことは?」


 あ。


「……さーちゃんを、助ける」

「そう。それでいいの。責任だのなんだのは、大人が考えることよ。あなたはリリセリアでは一端(いっぱし)の大人として責任を背負っていたのかもしれないけれど、日本ではまだ高校生、未成年。子供なんだから。

 年下の女の子が助けを求めてきた。だから、助ける。

 それ以外の答えなんか、必要ないのよ」


 なんか、凄い。本当に、圧倒される。


「それにね。あの子、おっぱいがおっきいでしょ?」

「――いきなり何言いだすんだ、母さん?」

「大切なことよ。そして真面目なこと。

 早苗ちゃんは、少し前に初潮を迎えたって言ってたわね。

 ……はっきり言って、早過ぎるのよ」


 え?


「勿論、小三でおっぱいが(ふく)らみだしたり、初潮を迎えたりする子はいるわ。それは早熟だけど、そのこと自体が異常だとは言い切れない。

 けど、それがあの子の悲鳴のひとつの形である可能性も、あるのよ」

「それは、どういう――」

「人が、男たちが。早苗ちゃんを『子供』ではなく『女』として見ているから。それに(こた)えることで、精神と肉体のギャップを埋めようとしているのかも。

 初潮が来るのは、女としての身体が出来上がったサイン。だから逆に、幼いうちは生理が始まらないように、脳がホルモンに抑止を命令しているの。そして準備が出来たら、初めて生理が始まるの。

 だけど、早苗ちゃんは。身体はまだ出来ていないのに、『女』であることを求められ、だから脳が混乱してそういう信号を出してしまい、ホルモンがそれに応えてしまった。

 『早すぎる生理』の原因として、そういう場合もあるってこと。


 性同一性障害、ってあるでしょう? あれも、幼少時の軽度の虐待に起因しているって母さんは思っているわ。

 第二次性徴。男の子は精通し、女の子は生理を迎える。

 なら、第一次性徴は? おちんちんがあるとか、そこに穴が開いているとか。そういう事じゃない。生理学の教科書にはそう書かれているけれど、そんな、身体のつくりの違いは、心の性に(あらわ)れない。

 人はね。自分が男だと自覚するから『男』になり、女だと自覚するから『女』になるの。その『自覚』が、第一次性徴よ。

 だけど、その自覚の時期に。男の子にスカートを履かせたり、女の子が一人称で『ボク』とか『オレ』とか言ったり。そうやって性差を混乱させることで、心と体の性の不一致、性同一性障害になってしまうんだと思うわ。


 女の子の一人称といえば。美奈ちゃんは自分の一人称を『美奈』って言うでしょう? これも、それと同じこと。

 美奈ちゃんはずっと昔から、精一杯の大声で主張していたの。


 『〝私〟という何処(どこ)にでもいる誰かじゃなく、他の誰でもない〝美奈〟を見て!』って」


 横で話を聞いていた美奈は、いきなり自分の話になったと思ったら、自覚していなかった本音を言い当てられて驚いたって顔をしている。でもそうか。「虐待」って言うと大きく考えがちだけど、そんな小さな虐待もあるってことか。美奈の場合、それはもう少し限定的で、「貴女たちがそう名付けた〝美奈〟を見て!」だったんだろう。

 でも、なら。美奈の一人称も、遠からず変わっていくのかもしれない。もう既に、ビジネスシーンでは美奈は自分のことを〝私〟って言っているし。


「ともかく。身体はまだ出来上がっていないのに、『女』を求められ。そして混乱した脳が発した間違った信号をホルモンが受信して、初潮を迎えてしまった。

 そうだとしたら。当然、性行為をしたら、心と身体に一生()えない傷を負ってしまう。だから、早苗ちゃんをあの家から引き離して保護する。それは、何を()いてもすべきことだわ」

「だけど、その結果。さーちゃんを保護する為に動いた大人が、犯罪者の汚名を着せられることだけはあっちゃいけない。

 今この瞬間だって、飯塚家の人間がさーちゃんを誘拐した、ってさーちゃんの母親が訴え出たら、父さんや母さんは誘拐犯に仕立て上げられるんだから。

 対して、母親によるさーちゃんに対する虐待の噂は、噂の域を出ない。証拠がない。さーちゃんが何を訴えても、『早苗には虚言癖がある』なんて母親が主張すれば、実母による監護権の方が有力に作用するだろうからね」


 俺がそう言うと、父さんが。


「だとすると、早苗ちゃんを〝買った〟男の方から手を回すのが、法的には近道になるな。仮令(たとえ)誘拐の嫌疑を掛けられても、まずは早苗ちゃんを保護する。俺たちも逮捕だの任意同行だのは御免(ごめん)(こうむ)るから、それについては警察にも知られないようにする。ただまぁ学校には、話を通しておいた方が良いな。

 それから、写真や動画を撮られているという話だが――」

「そっちは、今は取り敢えず諦めた方がいいと思う」

「どういうことだ?」

「ネット上に流出していたら、完全な回収は不可能だから。もっとも、非合法画像になる訳だから、そんなアシの付き易い方法で公開するほど莫迦じゃないだろう。

 で、非合法ルートで拡散しているのなら、俺たちのような一般市民が手を出せる状況じゃない」


 あの、バロー男爵領に流出した、有翼獅子(グリフォン)調教法の話と同じだ。関係者を鏖殺(みなごろしに)しても、それでデータの拡散が止まるとは限らないのだから。なら。


「データの回収は、その非合法ルートごと警察に任せるのが、一番確実だ。つまり、さーちゃんの安全を確保出来てからの話になる。


 それに、こーちゃんの彼氏や、先日ボレアスが活躍した、女子中学生にちょっかい掛けていた男たちの件。

 ちょっと、この町でそっち方面のトラブルが多くなっているような気がする。

 直接は関係ないのかもしれないけれど、その〝非合法ルート〟の存在を前提に考えると、意外に繋がってくるのかも。

 なら、迂遠(うえん)廻り道(まわりみち)に見えるけど、そっちに関しても情報を集める必要があるな。


 ソニア。ボレアスと組んで、怪しい動きをしている男たちの様子を探ってくれ。

 父さんは、さーちゃんを保護出来る大人を探してほしい。

 母さんと美奈は、さーちゃんのケアを。


 俺はエリスと一緒に、学校側を当たってみる」

(2,852文字:2019/11/11初稿 2020/08/31投稿予約 2020/10/10 03:00掲載予定)

【注:早過ぎる初潮(思春期早発症)に関する飯塚琴絵さんの見解は、理由のひとつであって全ての思春期早発症の答えではありません。また性同一性障害に関する見解も、彼女の考えであってそれが真理であるとは断じられません。琴絵さんは精神科医ではなく、「家庭の医学」程度の考察ですから。美奈さんの一人称に関しての見解も、それは美奈の例であって、自分の名前を一人称にする全ての人に当て嵌まるものではありません】

・ これがリリセリアで起こった事件なら。さーちゃんを保護し、どこぞの孤児院なり貴族の養女にするなりして守るだけの権力が、ア=エト・ショウにはあったでしょう。それこそ、パトリシア妃(リーサ)の娘のように。

 そしてそれ以前、リーサ駆け落ち騒動当時のア=エトは、それこそ「責任を負いきれないから」リーサを見捨てることを選びました。彼女に罪を償わせ更生させ、そして次の一歩が踏み出せるように見守るだけの時間も権限も持っていなかったから。リーサの娘にも、だから『夏祭り』が終わり、それを報奨として口に出来る立場に立つまでは、何も出来なかったのです。

・ 人は、そうと自覚するからそうなる。「狼少女」の例が、顕著です。すなわち、ものごころが付く前から狼に育てられた少女は、自分が人間だと自覚出来なかったのですから。彼女に自分が人間だと自覚させる為に、かなりの時間と労力が必要だったと言います。但し、「狼に育てられた少女」というエピソード自体が創作であって事実ではない、という説が有力です。もっともその場合、「彼女を人間として扱わない相手の(もと)で生後数年間生きていた」ということになりますから、それこそ生半可な虐待ではなかったということになりますが。

・ 『源氏物語』の、紫の上は、結局妊娠することはありませんでした。が、その原因として。初枕(光源氏と紫の上の初夜)当時、彼女は数えで14(満12~13)歳だったので、幼い紫の上の性器が源氏の君の逸物を受け止め切れずに壊れてしまったんだ、という説もあります。当時の源氏の君の年齢は20代後半。幼い女の子の身体に気を配れないくらい精力が溢れかえっていたでしょうし。その一方で、満12歳の誕生日を迎える前に第一子を出産し、生涯に2男9女を産んだ芳春院様という方も日本史上にはいますが(芳春院様の旦那(当時満21歳)、短小(ポークビッツ)説(笑))。ちなみに芳春院様の11代後の子孫が明治天皇です(今上陛下のご先祖様をポークビッツ呼ばわりする、おそれ知らずの筆者www)。

・ ネットにあうろり画像を流出させる莫迦は、その〝非合法ルート〟で購入した人から買った人から更に買う、くらいの末端の人間です。そしてそうである以上、いつでも「蜥蜴の尻尾切り」が出来るようになっているのでしょう。だから、ネットに流出させた莫迦から遡っても、その〝非合法ルート〟には辿り着きません。

・ 事前にマイクを設置しなくても、いくらでも盗聴出来る。それが美奈ちゃんクォリティ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] >ポークビッツ ちょっ!そのポークビッツ一族のせいでずっとおまけ扱いなド辺境だってあるんですよ?(血涙 ……え、ド辺境が勝った事があるのか?…………富山第一(サッカー)と竹内文書www? …
[一言]  つまりおっぱいを揉んでもらうと大きくなるという俗説がロリ巨乳を産んだ……? > その自覚の時期に。男の子にスカートを履かせたり、女の子が一人称で『ボク』とか『オレ』とか言ったり。そうやっ…
[気になる点] 感想を書くのは二度目です。 個人的な理由で、このエピソードは吐き気を催すほど嫌いです。 どういう風に決着を付けるのか。 創作の中だからこそ救われてほしいです。 [一言] さーちゃん救…
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