第15話 突撃!西京のカレー屋さん!!
第03節 修学旅行(前篇)〔2/5〕
注:今話は、れっきとしたステマです。山口市に実在する某カレー屋さんを全力で宣伝しています。そのカレー屋さんの正体は? 取り敢えずは秘密という事で。
◇◆◇ 雄二 ◆◇◆
9月21日金曜日。修学旅行二日目です。
今日の行程は、山口市を経由して萩まで。でも実は、その裏にボク個人の都合を交えていたんです。
朝食を終え、岩国を出て、バス電車乗り継いで約二時間。山口市に入りました。
防府市の毛利氏本邸並びに毛利氏庭園を見学し、山口市の国宝・瑠璃光寺五重塔を見学。そしてお昼前になって。
「実は、ここに来たからには寄りたいところがあるんです」
「それは、どんな観光スポットなんだ?」
柏木くんが、疑問符を。けど、観光スポットじゃありません。
「それは、カレー屋さんなんです。
けど、口コミサイトとかB級グルメグランプリとかでは常連の、独特のカレーを出す喫茶店です」
さすがに、わざわざ山口まで来てカレーを、ということに、皆困惑しています。
「正直、ボクの個人的な都合です。そこの店主は、ボクのネット上の知り合いでして。小説も書いているんです。
愛読している作品の作家先生、というよりも、ネットで交流のある友人、という感覚で、是非ご挨拶をしたいというのが本音です。
ボクの個人の都合に皆を巻き込むのは、ちょっと申し訳がありませんけど――」
「まぁ、いいんじゃないか? 武田の知り合いなら、是非会ってみたいし」
と、飯塚くんが。そして髙月さんも。
「こんな遠く離れた場所で、リアルでは会ったことのない友人と直に会う、って、ちょっと貴重だよね。でも、良かったら。その人の書いた小説を、あとで紹介してほしいんだよ?」
「はい、是非」
そして、山口市役所の裏手、駐車場の隣。小さな路地の、小さなお店。
ひらがなでお店の名が書かれたそこに、ボクらは向かったのです。
「え? このお店の名前って――」
「モビレアの宿、『青い鈴』と同じ名前ですね。不思議な縁を感じます」
そのお店の名前は、ボクらが異世界で定宿としていた、また雫がバーテンダーのバイトをしていた、その宿の名前と同じなんです。
「からいカレーのあるお店」。その看板どおりなのかどうか。口コミサイトなどでは、実は評価は真っ二つ。結局「気に入るかどうか」という話のようです。
そのお店は、小さな喫茶店。席数は20席にも満たない程度でしょうか? だから、6人で押しかけたら、場合によっては迷惑になります。だから、事前にマスターにはメールしておきました。快諾してくれたことは、感謝の至り。ただ、Webでの定時掲載(9時)が今日は遅れていましたので、もしかしたら何か影響を与えてしまったのでは? とちょっと気になりますけど。
◇◆◇ ◆◇◆
初めてお会いしたマスターは、ある意味でネット上のイメージどおり。だけど、それとは無関係のボクの仲間たち、それも高校生の集団を相手にして、普通に接してくれたのは、凄く有り難かったです。
ボクは当然、フルーツサラダとコーヒー付きの、オールセット。女子はフルーツサラダに興味を示した模様。飯塚くんと柏木くんは、一瞬フルーツサラダに興味を惹かれたような雰囲気もありましたが、コーヒー付きで。
そして出てきたそのカレーは。それこそネット上の評判の通り、「その黒さに驚く!」って感じでした。
「……具材がない」
「全部、溶けてるみたいだね」
「なんというか、手を出すのが躊躇われるな」
「でも、食べてみようよ?」
そして、一口。
「うわ。濃い。」
「このルーそのものが、ひとつの具材みたいだな」
「うん、料亭の煮物とは、真逆の発想だよ。料亭の煮物は、具のエキスが溶け出して、でも具はそのままの味を保っているけど、このカレーははじめから、具の原型を留めないほど溶かして、〝このカレーのルー〟っていう新しい具材に代わってるの」
成程。口コミサイトなどの評価が分かれるのも、わかるような気がします。
辛いか辛くないかは個人の判断として、「カレー」という〝煮物〟を、汁と具材のそれぞれを堪能すると考える人たちには、物足りないかもしれません。肉や野菜がごろごろしているからこそカレーなんだ、という人には、「煮込み過ぎ!」ってクレームを付けたくなるレベルかと。
でも、このカレールー。単体で食べても、凄くボリュームがあります。それこそ、「飲む」のではなく「咀嚼して食べる」レベル。どっちかって言うと、ベルダの作る行軍食の発想。肉も骨も筋も、形が無くなるまで溶かすことで栄養補給を容易にする、という。……ルーのインパクトが強過ぎて、どうかすると、ご飯が負けます。あぁ、だからウズラの玉子があるのですね。玉子でルーをまろやかにすることで、ご飯との調和を図る。
気に入った地元の人が、通いたくなるのがわかるような気がします。
そして、フルーツサラダ。「サラダ」? パフェって言っても盛り過ぎでしょう? これ、もしかしたらボクがネット上のファンだと知ってサービスしてくれている?
一瞬、そう思いましたが、思い返してこのお店に来たお客さんのブログでも、同じような盛り付けでしたから、これが普通。普通?
「皆溢すから、気にしないで良いよ?」
いや、マスター。そう言う話じゃないから。
だけどそう言われたら、溢さないようにこの地球の重力に逆らっているような〝サラダ〟に挑戦したくなるのは人の性。頑張って攻略しましょう。
女子は、さっさとギブアップして、髙月さんは飯塚くんに、ソニアは柏木くんのヘルプの要請。そうか、二人でひとつを食べると考えると、この量でも多過ぎることはないのか。雫は、分け合える相手がいない(ボクはボクでフルーツサラダを注文している)ことで、恨めしそうにボクを見ていました。……ボクは、悪くないよね?
正直、マスターとは色々語りたいこともありますが、修学旅行中且つマスターの小説を知らない仲間たちを連れてきている、という関係上、内輪話で盛り上がったら仲間たちに失礼。
そういう訳で、ボクの口からは作品に触れず。だけど仲間たちはやっぱり興味があるのか、その質問を(他の客が途切れたタイミングで)していました。って、雫。触手のバリエーションに興味を持つのはやめなさい。
◇◆◇ 美奈 ◆◇◆
具材のないカレー。そう言われると、さらっとしたスープカレーを連想します。或いは、「具のないネコまんま」。雑炊のようなものでしょうか? だから、摂取カロリーはご飯の分しかないんじゃない? と思ってしまいます。
けど、このお店のカレーは、それとは真逆。どうかすると、ご飯がルーに負けるくらい、カレーのルーは濃かったのです。
「うう、あのルーには挑戦したくなるんだよ?」
「美奈、どういう意味だ?」
「あれ、単純に煮込んで具を溶かしただけじゃないはず。もうひと手間、確実に加わっているの。それを解き明かせれば、行軍食に最適になるんだよ?」
「そう言えば、異世界転移にカレー粉は必須、って言いますね。否、異世界転移に限らず、サバイバルの時にカレー粉を持っていれば、不味い食材でも美味しく食べられる、と」
「そういうレベルじゃないの。確かにカレー粉は味も臭いも強烈だから、他の味や臭いを駆逐しちゃうけど。あれは味と臭いを誤魔化す、ってレベルじゃなかったから。全く別物だから。〝あのお店のルー〟っていう、新しい味だから。
あの秘密を盗んで、応用して、〝美奈のルー〟を、作ってみたいんだよ?」
ちょっと、燃えます。
武田くんの個人的都合でこのお店をランチに選びましたけど、選んでよかった。そう思えます。誤字先生(と呼ばれているそうです)、御馳走様でした。
(2,994文字:2019/10/01初稿 2020/07/31投稿予約 2020/09/02 03:00掲載予定)
・ 「西京」は、山口市の異名です。「西の京都」という意味で。
・ 防府・毛利氏本邸。「毛布放りし本邸」と読みたくなってしまうのは、筆者だけでしょうか?
・ この「黒いカレー」のレシピはネット上に公開されておりまして、マスターの御母堂曰く「作り方を知っていても真似できない」のだとか(手間ばかりかかって割に合わないから、という説が濃厚)。でも、(『倉庫』を使えば時間を無限に費やせる)美奈さんなら。
・ このフルーツサラダ。筆者は攻略に一時間以上かかりました(マスターと与太話しながらでしたけど)。
・ 雫さんは、雄二の好きなラノベということで、その作品を読んでいます。書籍版のみならず、Webの方も。さすがにリアルタイムで追いかけてはいませんが。というかカレー屋さんの作品は、平成29年末にノクターン送りになってしまったので、よゐこの高校生諸君は閲読禁止です。……のはずなのに、なろう版(現在事実上更新停止)のPVが全く衰えない怪物作品ですけど。
・ 健全な女子高生が続きを読む為に、定期的な刊行が必要です。平成30年9月21日現在では2巻まで発売していますけど、令和二年9月2日現在4巻までしか発売していません。マッタク校正シナイ作者サマモコマッタモノダ。と思っていたら、9月1日現在速報が。5巻が10月発売予定だそうです。
・ 雄二「わたしどんぶらー。今お店の中にいるの。」
・ 注:この物語はフィクションです。リアルでそのカレー屋さんの作品は、平成30年9月21日には定時更新されていました(第994部分)。




